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少しずつ連続した変化は見逃しやすい

石油井を掘削している時に循環している泥水と一緒に地下から上がってくる地層の掘り屑・削り屑 (カッティングス) を観察することも地質屋の大事な仕事の一つです。

南国では油層など大事な区間の掘削中には 10 ft (約3m) 掘り進むごとに地表でカッティングスを採集して現在どのような地層を掘削しているか実際に目で観察して確かめることがあります。

ただし、地下のビットと呼ばれるドリルの先端で地層が削られてカッティングスが出来てから泥水とともに地表に到達するまでに1時間以上かかることも普通です。仮に10ft ごとのサンプリングを行うとして掘進率 (掘進速度) が 100ft/時 だとすると、一つのカッティングスが地下から地表に上がってくるまでの間に地下では10サンプル分もすでにカッティングスが生成されていることになります。

地表までカッティングスが上がってきて、それを採集して観察するまでに別の地層に掘り込んでしまうことになるため、非常に気になる兆候が別にあるときには (掘進率 (掘進速度) が急に変わった、LWDと呼ばれる掘削中の物理検層で気になる反応が見られた等)、掘進を一時止めてもらって、カッティングスが地表に上がってくるのを待ってもらう時もあります。

さて、たとえば 3,000ft 油層を掘進している間に 10ft ごとにカッティングスを採集すると、3,000/10 = 300 個のサンプルとなるわけです。採集したサンプルは水で洗って泥水から分離し、乾燥させて、一部は観察用にシャーレ (平らなガラスのお皿) の上に広げ、残りはサンプル袋に入れて保管用とします。

シャーレに広げたカッティングスを300個全部机の上に並べておくわけにはいかないので、机の上には過去の10サンプルぐらいを並べておいて、新しいサンプルを採集するたびに古いサンプルを机から片づけるようなことは良くあります。

私たちはカッティングスを観察しながら、その岩相や色や形や大きさやそのほか地質学的な特徴を記載していきます。前のサンプルと変化が無い時には “a/a (as above)” (同上) などのように記載を簡略化することがあります。

岩相や色など、変化が連続的で前のサンプルあるいは10個前のサンプルと比較してもほとんど変化が無い時には、ずっと “a/a” が続くことになります。ある時、気になってもっと前のサンプル (例えば50個前のサンプル) などと直接比較してみると、明らかに違いがあって驚くことがあります。

連続するような小さな変化には気がつきにくいのですね。小さな変化に気がつかないまま、ある時、”a/a” が始まったころのサンプルと比較してみると、小さな変化の積み重ねで地質の特徴が大きく変わっていることに気がつくことがあるのです。

私は若い頃そのような経験をして、できる限り前のサンプルまで机の上に並べて置いたり、それが無理であれば、10とか20サンプルごとに比較用のサンプルとして机に残しておいたりするようにしました。変化が少ないように見えても時々だいぶ前のサンプルにもどって比較して変化の積み重ねをチェックするのです。

少しずつ変化していく状況をいつも見ていると、注意深く見ているようでもその変化に気がつかないことがあるものだと深く反省しました。

私たちの社会についても同じようなことが言えるのかもしれません。

一つ一つの変化は小さくて日々の暮らしの中ではその変化に気がつかなくても、ある時ふと気がついた時には、その小さな変化の積み重ねで私たちの社会は後戻りができないほど大きく変わってしまっているかもしれません。

慣れてしまわないこと、時々、だいぶ過去にさかのぼって点検することはカッティングスの観察と同じように大切なことなのかもしれません。

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