現役PMが教える! 締切までにマンガを完成させる原稿スケジュールの立て方・守り方
「今年こそ、新刊を落とさない!」
「今年こそ、新人賞に間に合わせる!」
年始にこんな抱負を立てた方も多いと思います。
そう、「今年こそ…」毎年間に合わせると強く心に誓っては、うまくいかない方も多いのではないでしょうか?
この記事は、そんな方に「今年こそ締切を守れる」その一助になればと、漫画描き兼現役PM(進捗管理の専門家)が、スケジューリングのコツをまとめたものです。
締切を守れない人の共通点
締切を守るのが苦手な人には、共通点があります。
作業「できない」時間がわかってない
作業スピードがわかってない
予備日を作らない
中間締切日を作らない
逆にいえば、上記をきちんと把握・実施していれば、締切は守れるのです。
締切を守る4つのコツ
作業「できない」時間を把握する
原稿スケジュールを立てるとき、多くの人は「締切までにどれくらい作業時間があるか」を真っ先に確認すると思います。
こんな時、締切を守れない人ほど「平日は2時間、休日は8時間ずっと作業するぞ!」と決心しがちです。しかし、この方法は原則オススメできません。
実は、作業可能時間を正しく把握するには、まず睡眠や食事を含む作業できない時間を把握する必要があります。
なぜなら、私たちの日常は仕事や家事・育児など「漫画制作以外のしなければいけないこと」で溢れているからです。そして、大抵その時間は増えることはあっても削ることは難しい。
そもそもですよ? スケジュール管理が苦手な人が、予定をやりくりして数時間を確保する…なんて大変なことができるでしょうか?
無理です。
そんな奇跡に頼るべきではありません!
専業作家でもないかぎり、作業時間というのはやりくりや根性で捻出するものではなく、日々の予定を可視化することで発掘するものです。
漫画にかぎらず、1日あたりの作業可能時間を算出する方法はただ一つ。
24時間 ー 作業できない時間 = 作業可能時間
仕事や家事・育児はもちろん睡眠や食事の時間もすべてスケジュール表に書き込んだうえで、ぽっかりと空いた箇所が、現実的なあなたの作業可能時間です。
大事なことなので繰り返しますが、「原稿に必要な作業時間をあらかじめ確保する」なんて、兼業や趣味で漫画を描く人には原則無理です。
「空いた時間でできることをする」が、締切を守るうえでの鉄則です。
作業スピードを把握する
締切までの作業可能時間を把握できたら、次はその時間内で何ページ完成させられるかを把握しましょう。
そのために重要なのが、自分の作業スピードを正しく知ることです。
「32ページ分の下書きを何時間で終わらせられるか?」
「1ページをコマ割りから仕上げまで完成させるのに、何時間かかるか?」
これらの質問に、パッと答えられますか?
答えられなかった方は、まずは(模写でもいいので)1ページ完成させるのにかかる時間をきちんと計りましょう。
予備日を作る
ところで、締切を守れない原因で1番多いのは「予定外の出来事」です。
「うっかり動画見すぎちゃった」「突発的に友達と遊びにいくことに」といったポジティブなものから、「風邪ひいた」「思わぬ残業」といったネガティブなものまで。想定外の事態で予定していた作業時間を確保できないことはあります。そして、大抵防げません。
そこで、原稿スケジュールを立てるときにはあらかじめ「作業できない日」を予定に入れてしまいます。これが「予備日」です。
友人から「遊びにいこう」と誘われたら、基本的にこの予備日に行くことにします。また、風邪をひくなどで原稿に遅れが出たら、この予備日に作業して遅れを取り戻すのです。
なお、同人作家や漫画家志望の方の場合、この予備日を毎週もしくは隔週で1日、どこかの休日に設定することをオススメします。
平日では、そもそも1日あたりの作業可能時間が少なすぎて予備日として機能しません。また、友人や家族の予定は休日に入りやすいからです。
私は、土日のうちいずれかを予備日に設定しています。
ちなみに、作業が順調だったら?
体力気力が十分であれば、予備日に前倒しで作業するのがよさそうです。
とはいえ、漫画制作は何かと疲れるもの。途中で息切れしないように、あえて中休みに充てるのもオススメです。
中間締切日を作る
最後に、一番効くコツをお伝えします。
締切を守るうえでもっとも大事なことは、「このまま作業を進めて、締切に間に合うのか?間に合わないのか?」を常に把握していることです。
つまり、作業途中で「このままだと締切までに完成しないかも」といち早く気づけるか、そこが肝心となります。早く気がつければ、ページ数を削るなり、助っ人・アシスタントを呼ぶなり色んな手段を打てるからです。
とはいえ、常に「締切に間に合うかな」と不安でいては、筆も進みませんよね。
そこで、「この日までにこの作業ができていればOK」という中間締切日を設けます。(ちなみに、この中間締切のことを専門用語で「マイルストーン」といいます)
ちなみに、私が必ず設ける中間締切日は以下の通りです。
作画完了日(設定必須)
ペン入れ完了日
下絵完了日
ネーム完了日
特に、締切を守れない人は「作画完了日」を「締切日」と同日にしてしまいがちですが、これは絶対にNGです!なぜなら、同人誌にしても漫画賞投稿にしても、脱稿した後は必ず入稿作業があります。締切までに原稿が完成しても、入稿が間に合わなかったら意味がありません。そのため、原稿は締切より1日以上前に完成させなくてはいけないのです。
※ちなみに1ページごとに仕上げまで進めるタイプの方は、(工程ごとではなく)4ページまたは8ページごとに中間締切を設けるのがよさそうです。
実践!原稿スケジュールの立て方
ここからは、具体的な原稿スケジュールの立て方をお伝えします
仮に、こんな設定でスケジュールを組んでみましょう
0.用意するもの
バーティカル式のスケジュール表
デジタルでもアナログでもいいので、まずはスケジュール表を用意します。形式は、一週間のスケジュールを1時間単位で管理できる「バーティカル式」を強く推奨します。
特にこだわりのない人は、Googleカレンダーがリマインドも設定できるので、オススメです。
1.入稿日を設定する
印刷所や漫画賞から提示された締切日よりも前の日(最低でも前日、理想は、直前の休日)を入稿日として、スケジュール表に書き込みます。(大事なことなので何度も繰り返しますが)決して、指定された締切日当日にしてはいけません。
印刷所や出版社指定の締切日は大抵平日であり、あなたが専業作家でもないかぎり、平日は仕事や家事の影響を受けやすく、入稿に専念できない可能性が高いからです。
理想の入稿日は、トラブルがあっても余裕もって対応しやすい休日です。
2.作画完了日を設定する
次に、入稿日の前日を作画完了日に設定します。
つまり、この日までに全ページ仕上げまで完了するのを目標とするのです。
この日も、目立つようにしっかりスケジュール表に書き込んでください。
2.作業「できない」時間を設定する
さらに、仕事や家事などで漫画制作ができない時間を、スケジュール表に書き込んでいきます。食事や睡眠(仮眠含む)も同様です。日頃、動画やsnsチェックをする人は、その時間も忘れずに書き込んでおきましょう。
4.予備日を設定する
予備日は、原則休日に設定します。
週ごとの設定が理想ですが、締切まで日が少ないなどの場合は隔週でもよいでしょう。(週に休日が1日しかないという人も同様です)
下記の例では、友人との呑みの予定は土曜日の夜に入りやすいので土曜日に設定しました。隔週なのは、締切までに1か月強しかないためです。
友人にはあらかじめ予備日が隔週しか取れないことを伝え、お誘いを控えてもらうようにお願いします。
また、ここで作画完了日の2/8が予備日とバッティングすることがわかりました。作画完了日を、2/7(金)に前倒しします。
5.自分の作業可能時間を把握する
ここまで設定したところで、自分の作業可能時間がはっきりしてきました。
いずれも午前中に空いた時間がありますが、朝は何かとバタバタしがちです。この時間は予備日あつかいとして、作業可能時間の勘定には入れないことにします。
朝以外も、1時間未満の空き時間は作業時間に入れないのが、締切を守るコツです。
1/6から作業開始するとして、作画完了日の2/7までの作業時間は
平日24日×2時間 + 休日7日×7時間 = 97時間
あることがわかりました。
6.作業可能時間内で描けそうなページ数を算出する
ところで、私は1ページあたり完成までに約1.5時間かかります。下書き・ペン入れ・仕上げの各工程で、それぞれ30分です。
一方で、ネームは正直苦手で作業時間にムラがあり…考えに詰まってしまった時を考慮して、長めに作業時間を確保したいものです。
そこで、一旦97時間のうち約半分の50時間で何ページ描けそうか試算してみます。
32ページなら、下書きから仕上げまで必要な作業時間は48時間なので、ちょうど良さそうです。
7.各工程ごとの締切日を設定する
下書き以降の各工程に必要な作業時間は、それぞれ16時間。平日5日+休日1日の合計17時間を各工程の作業期間にするとキリがよさそうです。
上記の要領で作画完了日から逆算、下書き・ペン入れの各締切日を設定します。
今回は、下書き締切が1/26、ペン入れ締切が2/1になりました。
ここで、表紙の作業時間をとる必要があるのを思い出しました!
(普段投稿ばかりしているので、忘れがち)
下書き作業を開始するのは1/20からなので、その前の土日(1/18~/19)をまるっと表紙作業に充てることにします。
ここまでくれば、おのずとネームの締切日が確定します。表紙作業に入る前日の1/17です。
1/6から開始して、ネームに充てられるのは11日間(34時間)。幸いこの期間に3連休があるので、多少悩んでもあせらずに済みそうです。
8.原稿スケジュールの完成と調整
お疲れさまでした!これで、締切に間に合う原稿スケジュールは完成です!
あとは、各中間締切に間に合うように原稿に打ち込んでいくだけ。
予期せぬ残業で作業時間が削られたり、思うように筆が進まないときがあっても、隔週で設定した予備日に挽回すればいいので、すぐに焦ることはありません。
万が一各中間締切に間に合わなかった時も、まずは予備日の作業で挽回できそうな遅れかどうかを確認します。
おまけ:どうしても間に合いそうになかったら
どうしても間に合いそうにない場合は、基本的に下記の優先順位で対策を打っていきます。
作画クオリティを落とす
「背景を描くのを省く」「素材に頼る」「トーンは貼らない」といった感じで、ストーリー理解に影響のない箇所の作画を省略します。一番着手しやすく、かつ効果の出る方法です。(そして、案外読者は気にしない)
(大幅なネーム変更が不要なら)ページ数を減らす
例えば「本編24P+おまけ8P」といった構成の場合、おまけ8Pを描くのをあきらめます。もしくは、本編24ページを完成させた後に時間の余裕があれば、おまけの作画に取り掛かります。
アシスタントなどの助っ人を頼む(原則禁じ手!)
締切を守るためには、できればこの手段はとらないほうがよいです。というのも、助っ人は確保するのも確保した後に作業指示を出すのにも相当な労力が必要になります。ただでさえ作業に遅れが出ているときに、かえって作業ができない時間が増えてしまうのです。
どうしても、作画枚数や作画クオリティを落としたくない人は、最初から助っ人の予定を確保しましょう。また、あらかじめお願いしたい作業を明確にし、作業の進捗にかかわらずその作業工程に入ったらすぐにお願いします。お願いするかしないかの判断に時間を取られるのを防ぐためです。
いずれも早い段階で着手するほうがよいので、最低限「下書き」「ペン入れ」工程で作業の遅れを自覚したいものです(そのための中間締切日!)
なお、間に合いそうにない時に多くの人がやりがちなのが「睡眠時間を削る」ですが、これは絶対にNGです!睡眠不足は集中力や体力の低下につながり、作画ミスや病気などの遅延リスクを高めるばかりです。
削るなら、作業量を削りましょう!
ここまで長文にお付き合いいただき、ありがとうございました!
これでも、本にして数百ページになるプロジェクトマネジメントのノウハウのうち、漫画制作にすぐ取り入れていただけそうな箇所を厳選してお届けできたかなと思っております。
最後に、読了してくださった方へのお礼として「まずはこれ一つやれ!」というノウハウをお伝えします。
予備日を毎週末とれ!!!
潤沢な予備日が大抵の遅れを解決してくれます。(パーキンソンの法則を気にするのは、締切を安定して守れるようになってからです)
それでは皆様、今年こそ目指せ余裕入稿!
「この場合はどうしたらいいの?」といったご質問がありましたら、お気軽にコメントください!
即答は難しいですが、次回の記事の参考などにさせていただきます。