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2024/06/25 白い木
棺に納めて、霊柩車(そうはいってもあのゴテゴテしい車ではなく)に叔父さんはのせられ、そのあとを参列者の乗った車が追う。
お墓があった霊園なので行き慣れた道だったけど、火葬式なので火葬場に直送するため手前の見慣れぬ道へ先導の車が入っていった。
黄色い、煤けた、フレームだけの台車が用意されているのが目に入って、みぞおちが重くなる。
車からこれに載せ替え、さらになにがしかのボタンが付いた火葬の台に載せられる。
何度目だ。5度目だ。6人おくった内、ひとりは献体を申し出たから遺灰で遺族に戻されたはず。
5度目なんて言ってもなれるはずない。きつい。これから全く違うものにされるんだから。
最初に骨を見たのは母のものだった。小学生の時。
「最後のお別れをしましょう」とおばあちゃんに手をひかれ、棺の中の母の顔をみた。最後って、もう死んじゃってるからこれ「で」最後じゃないの? とよくわからなくてそのことで不安に思った。この後に何か怖いことが起きる、そういう予感がしたから。
おばあちゃんが数珠を母の顔の近くにおいてあげていた。(今の火葬だとモノによってはこれはだめかも)
このころの私は「人前で泣くものか」という強い意志を持っていたけど何回かトイレに駆け込んで咽び泣いていた。
泣き終わっては大人だらけの待合に戻り、しばらくぽつんとしていたら、式場のアナウンスで呼ばれ、さあお箸を持って、拾いましょうねと。
ハ?
と思ったのが正直な感想だったような、ドン、と見えない何かにあたったよな衝撃を受けた。
この白い、ところどころピンクがかった枝のようなものの集まりが、さっきまでのお母さん??
家族の火葬を、遺骨拾いを、どう小さな子に説明していますか。
どうして焼くのか、とか、焼いた後どうなるのか、とか…。
普段からそんな話をする家庭はごく稀でしょう。
式次第の流れに沿って、大人に言われるがまま拾うしかなかった。
これを、その数年後、母方のおばあちゃん、父、父方のおばあちゃんと4回。
お父さんの時は、おばあちゃんに「焼かないで」と懇願してしまった。
でも「腐ってしまうんだよ」と当然返される。
そのころの自分はもう日本の埋葬制度のことは知っていたから土葬がやれるはずもないとわかっていたけど、それでも、
あれだけの知識を詰め込んだ脳みそを焼かないでほしいと思った。
生きていないなら、放置していたら腐るだけだけど、
あんな白木だか石灰だかの塊のような姿になってしまうのは、
それを見せられるのは、とても、大変つらい。
これがお母さんよ、と言われたって、
飲み込めるか!
…
……
飲み下せないまま今になる。
熱が残る台の上で白い流木になった叔父さんの骨を拾う。
納棺からことあるごとに泣いてしまっていた私は、この時だけは
違うものを見る目になっていた。
焼かれる道中をみてないんだから(見れるはずもないんだけど)、あの人型がこのかけらになるなんて全然つながらない。
これは軽くてきれいな白い木の一部だ。
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