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Behind the Scenes of ツクライブ! ライブ照明を作るとき考えたこと #技術編

2019年度の筑波大学雙峰祭にて、ステージ企画「ツクライブ!」さんにお呼びいただいて、70分のライブの照明デザインと現場オペレートを担当しました。

本記事は、学祭ステージで他の団体がやらない照明機材の独自持ち込みとオペレートを実現するにあたっての記録と、演劇の照明を作ってきた自分がライブ照明を担当するときに考えたことの記録です。

技術編とデザイン編に分かれており、この記事は「技術編」です。デザイン編も読んでもらえると喜びます。

ツクライブ!/T'qours​とは

筑波大生で構成されている「ラブライブ!サンシャイン‼︎」のAqoursコピーユニットです。毎年雙峰祭に出演(2017年まではμ'sコピーユニット)しており、高いパフォーマンス力で観客を集める人気企画です。すごい。

出演者の強さもさることながら、その裏で動く衣装・小道具・演出効果・記録などのスタッフチームの技術力が高いのも特徴です。客席にはクレーンを含むカメラがいくつも配置され、ステージには元からある照明にスモークやレーザーなどの特殊効果機材を追加、音響照明のコントロールは全員独自のスタッフを投入、ラストでは銀テープを打つ……といった具合。凄まじい。こんなところに混ぜていただいて恐縮です。

いなだとは

稲田和巳といいます。情報メディア創成学類4年生です(企画当時は3年でした)。高校で演劇部をしていたり、それ以前にも舞台作品を見る機会が多かったりしたことから今でも舞台周りのこと、特に照明・音響・特殊効果によく関わっています。現在は所属するサークル「人形劇団NEU」の舞台でのお仕事が多いです。

照明の知識は体系的に学んだりしたことはあまりなく、高校の時に年1で参加する演劇部大会でホールスタッフさんからいただくアドバイスや、過去に見た舞台、Twitterの照明界隈の皆さんから得た知識などでなんとかやっています。

舞台以外だと、Web開発やグラフィックデザインをやったりしています。

機材仕込み(設営)

会場は学祭で一番大きな舞台であるUNITEDステージ、公演時間は70分間。雙峰祭のステージ企画としてはそこそこ大きい規模です。

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機材の仕込みは調整の過程で数回変わっていますが、最終的には「ムービング4台+レーザー+スモークマシン+キャノン砲」という形になりました。ステージの足場と上記以外の基本の明かりは、学祭の実行委員会が依頼した業者さんが設営しているので、これに追加する形になります。

持ち込みの照明系機材の配置はこんな感じです。本当はムービングを舞台奥に起きたかったのですが、ここには実委が巨大なバックパネルを設置してしまうので、やむなく外側へズラしました。

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高さ方向に関しても、階層になっているイントレ(足場)の3階に置きたかったのですが、人の手だけで20kg以上ある機材を高所に上げるのがあまりに危険そうで、泣く泣く2階で諦めました。写真は設営中、下手(左側)奥のムービングを点灯させた様子。

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エンジニアが少ない中では本当に大変な作業でしたが、本番で観客席へ与えたインパクトもそれなりに大きかったようで、他のステージ出演団体からムービングの出所について問い合わせがあったりしたとも聞きます。わざわざやった甲斐があるというものです。嬉しいですね!

制御とオペレート

ステージを管轄する業者「MUSIC PLANT」さんには、基本、ほとんどの企画のオペレートも担当していただいてます。が、ツクライブに関しては独自機材があるため、搬入設営に加えて本番のコントロールも自分たちでやらなければなりません。これはなかなか大仕事です。

いなだは基本演劇寄りの照明をやっている人間なので音楽に合わせたコントロールの技術がなく、新たにやり方を探すことになりました。

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今回のステージで使われているチャンネル(機能、操作するパラメータ)はざっと100以上あり、多くの人がパッと思いつくであろう、ツマミのいっぱいついた機械で手操作する方法ではキャパが足りません。こういう時は必然的にPCソフトで自動操作することになります。

が、各種のソフトウェアを検討したところ、色々と問題が発覚しました。ほとんどのソフトは高価だったり💸使いづらかったり🤔(初めて触るのが現場仕事なんだからそれはそう)、無料のソフトだとバグが頻発したり🐞します。結局、今回はソフトウェアもろとも自作することに。

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作ったソフトはこんな感じ。音響は別の既存アプリでキュー(再生開始のタイミング)が決まっているので、それに合わせて予め準備した照明シーンを切り替えていくアプリケーションを作りました。

実際に本番動かした様子がこう。音に合わせて画面に並んだチャンネルの値が次々と変わり、それに対応してステージ上の明かりも変化します。

仕組みを知りたい人のために少しだけ(💥気にならない人は読み飛ばしてください)。変化のタイミングや内容は、全てプログラムを構成するコードの一部として作成しています。照明の動きや色は全て細かなパーツ=プリセットに分解されており、各々のシーンはこの組み合わせでできています。

プリセットの正体は「時刻を与えると制御の出力値(DMX)を返す関数」です。こうすることで「動き続けるライト」を作ったり、「設営時に調整する定数の参照を共通化したりする」ことができるメリットが生まれます。今回は、例えば個々のムービングの可動範囲の閾値を共通化し、前日の設営のタイミングで限界値を調べて値を設定することで、全てのシーンを一気に修正しました。

⛑ガチガチの技術記事にするのは本意ではないのでプリセットやシーケンスの構造や実装、仕様の背景はここでは触れません。気になる部分があれば、Twitterなどで要求していただければお答えします🙇‍♂️

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ちなみに、今回のお仕事はお話をいただいたのがわりと急だったこともあり、このソフトウェアの開発期間は(プラン作成の時間も含め)6日間しかありません。よくちゃんと動いたものです。よいこは真似してはいけません。

機材への信号出力

PCから照明機材への出力には、ネットワークを介して信号を送るArt-Netという通信を使っています。

通信経路は本番こそ全部有線にしましたが、Wi-Fiを飛ばせば無線で制御ができてしまう(!)ので、仕込み中はノートPC💻を持って走り回っていました。これが大変な優れもので、機材のそばや客席に座ってテスト・デザインをできるのは本当に便利です。みんなもっとやればいいと思います。

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これをやろうとするときにネックなのがArt-NetからDMX(照明機材の制御線)への変換機で、これが一般にそこそこ高価なのですが、いなだはマイコンで自作した基板にケースをつけて使っています。中身の値段は1000円しません、バンザイ!🎉

コードを書いて明かりを作るということ

普通の照明さんはプログラムを自作して仕事をすることはまずありません(当たり前です)。ではなぜ今回、コードを書いてオペをやるということを試したのか?わざわざそれに取り組むことに意義はあるのでしょうか?

いなだはこれを照明コントロールの思想の提案であると思っています。照明制御をするツール(照明卓でもソフトウェアでも)には何かしらの設計思想が色濃く出ており、設計者が想定したユースケースが透けて見えるものです。そういったものを、自分の使いやすいように新しく作って、現場に投入してみるのは(成果物の信頼性などは一旦置いて)どこかでまた役に立つのではないかなと思っています。

いなだが自作アプリで照明をやるのは今回が初めてではありません。昨年の夏、サークルで自分が演出を担当した舞台「おとしもの」は、音響・照明が全て内製のアプリ上でコントロールされています。

この時の動機は単純明快でした。当時のサークルの実働人数は5人しかおらず、キャスト4人の作品をやるにあたって音響・照明まとめて1人、それも稽古にほとんど来れない人間しか割けなかったのです。つまり「おとしもの」の音照システムは、人的コストを減らし、極限に少ない人数&稽古量でもオペレートができるようアシストすることを目的に開発しました。

今回の「ツクライブ!」では、「連続したタイムラインを要所のキューで同期しながら再生する」という利用方法に最適になるような仕組みを実現するのが第一目標でした。同時にこれは、前々から自分が考えていた、「プログラミングに現れる概念は照明の制御に相性が良いのではないか?」という仮説を検証したいという動機がありました。

これは例えばステートレスな関数でのシーン記述や継承の概念のことで、今回は「プリセットは描画関数をもち、また他のプリセットを再帰的に拡張・継承可能」という構造で実装しました。結果的にこれは、自分がこの案件を受け持つに当たってものすごく使いやすかったので、検証として成果をあげたと思っています。

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こういった自分が考えているアイデアは、いずれも既存の製品で使われているものに一部被ったりしてそうなので、あんまり偉そうなことは言えません。がそれでも、自分が直面した問題に対して使いやすい概念を作って世に出すのは面白いし、意義あるものではないかと思うのです。

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蛇足ですが、こういったことを考えるにあたって、2019年の夏に参加したチームラボ株式会社さんでのインターンには大きな影響を受けました。この時は「工作室」という物理デバイスを多く担当する部署で、ムービングライトを使った演出を制作しているチームに2週間お邪魔しました。こんな作品を作っている人たちです。

誰が見てもわかると思うのですが、これは手作業ではなく、全てコードとして設計され動いています。制御用フレームワークは社内で内製されており、演出は描画関数を設計することで動作します。舞台照明をやる人たちとは全く違った設計思想に触れたこと、なによりぼんやりと「プログラミング的な照明ってできないかな」と思っていたところにフルにコーディングだけで動く照明を触ることになったことが、とても新鮮でした。

今作っているソフトウェアは、舞台の特性に寄せるためにチームラボのそれとは全く違った構造をしていますが、それでも思想の根っこは影響を受けています。お世話になったチームラボのみなさんに感謝です。

まとめ

本年度ツクライブ!の照明では、全てのシーンのプランを独自に設計しオペレートすることで、パフォーマンスをより魅力的に引き立てる試みをしました。技術面では、機材の独自持ち込み・専用の制御ソフトウェアの開発などの取り組みを行い、無事に本番を終えるとともに、新しい取り組みを成功させた実績や今後につながるノウハウを残すことができました。

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「技術編」は以上になります。最後までお読みいただきありがとうございました!短い時間でしたがとても楽しいお仕事でした。またどこかでこういうことができたらなと思います。

記事中のキャスト写真は、ツクライブ!の公式カメラマンである@ITF_ProfFによるものをお借りしました。ありがとうございます🙇‍♂️

💥記事のSNSでの共有や紹介もお待ちしています!内容に関してもっと知りたいことやご指摘などありましたら、どうぞお気軽にお知らせください。

また、「デザイン編」もあわせて公開しています。「技術編」で取り上げなかった照明設計の話や現場で起こったことなど、さらに盛りだくさんの内容です。こちらもぜひ!

(最後に)いなだは照明をはじめ、Webやグラフィックデザインなどでもお仕事承ります🙋‍♂️なにか面白い案件があればぜひ教えてください。ポートフォリオもよろしくお願いします。

ありがとうございました。

活動に興味を持っていただいた方、よろしければご支援をお願いします!作品を作るにあたって応援していただける、不安なく作業が進められることほど嬉しいものはなく、本当に喜びます。作品のテクノロジーや裏側などを、不定期ではありますがnoteで公開します。