おしゃれな本屋さんで展示をする 三重県亀山市《潮》の制作と展示
三重県亀山市で開催中の「亀山トリエンナーレ2022」で《潮》を展示しています。11月19日(土)まで。
展示について
亀山トリエンナーレは市内の文化財建築や商店街の店舗など多数の会場に分かれていますが、今回稲田の作品は「高村書店」という、商店街の本屋さんをお借りしています。
決して広くはない店内ですが、壁は一面の絵本。積極的に表紙を見せる魅力的なディスプレイが目を奪います。
稲田は幼少期に絵本や児童書が大好きで、いまでも地味に時々トレンドを追っていますが、正直設営を放り出して本を漁りたい気持ちに駆られながら作業をしていました……。
作品は額装のようになった映像作品で、店内の棚の中に、紛れ込ませるように3点を展示しました。
店内を見渡したときの情報量がかなり多いので、作品を「探す」ような感じになるかと思います。本と作品を発見する体験をどうぞ。
《潮》について
《潮》は、地理的な場所に結びついた社会の脈動を、統計やセンサのデータを使って顕にし、考察する取り組みです。
今回の展示では映像として落とし込んでおり、亀山市を上空から見た航空写真の上で、多数のパーティクル(粒)が流動しています。
この取り組みで注目しているのは、ビジュアルからも見て取れるように、地理空間に不可視に横たわる「流れ」です。これは、地理的な要素を持つ社会統計のデータを元とし、地点ごとの統計値を高さに割り当てた、仮想の地形を用いて生成しています。
今回の「亀山」バージョンでは亀山市の人口分布統計を用いています。映像上のパーティクルは、人口の多いところから低いところに流れているわけです。
現実に存在する地形の上で流れるのは大気や水ですが、ここで流れているのはそういった自然の事物ではなく、社会的な要素であるはずです。地図の上で滲み、溶け出し、広がっていくものは何に見えるでしょうか?
《潮》シリーズのコアは映像ではなく、この地形および流れ場を生成するシステムやアルゴリズムです。初出であった茨城県桜川市での展示(2022年1月)ではメカを使ったインスタレーションであったように、さまざまな形での展開ができそうです。使った統計データも今回は1種だけでしたが、これも今後多数のデータを重畳して、高解像な場を生み出すことを目指しています。
Behind the exhibition
展示と作品の舞台裏も少しご紹介します。
展示施工
営業中のお店ということもあり、展示施工は今回も慎重に進めました。表示装置の給電のためトータル20mほど電源線を引いていますが、まる1日格闘した結果、言われないとわからないくらいの見た目にはできたのではないでしょうか(ほぼ@eimaeda_がやってくれた)。施工中の様子が高村書店公式Twitterに写り込んでいたのでご紹介。
作ったツール
作品のinternalなことですが、制作にあたっていくつかツールを作りました。
ushio-tile-stitcherは、OpenStreetMapや地理院地図といった、タイルで提供されている地図や空撮写真を貼り合わせて高解像度な1枚絵を生成するWebユーティリティです。公開しているので、巨大な地図で遊びたくなった際にどうぞご利用ください。
作品のコアの一部として、CSVなどで記述した統計データを地形データに変換する作業をCLIコマンド一発でできるよう整備しました。緯度経度や空間情報の計算にちょっと詳しくなりました。
openFrameworks x Emscriptenバトル
ビジュアルの生成部分はopenFrameworksを使っていますが、せっかくなので展示機(iPad)上でリアルタイム生成できないかなと思い、Emscriptenを使ったブラウザ書き出しを試しました。これが曲者で、稲田のM1 Macではチュートリアルすらビルドできず、ドキュメントされていることもあまり多くなかったため、もともとC++に不慣れな稲田はたいへん苦労しました……。
結局動かすことには成功したものの、パフォーマンスなどの課題からボツになり現場で展示するには至らなかったのですが、英語でも古い情報しかでてこないEmscriptenビルドについて知見が集まったので、別途公開しようかなと思っています (追記)しました
亀山トリエンナーレ「2022」と言いますが、本来は2020年の開催だったのがコロナで2回延期され2022に着地しています。すなわち下見や展示プラン作成から3年のブランクがありました。
当時はそれなりにがんばってやったと思うのですが、今となっては3年前の(相対的に)ポンコツな自分が下した判断を恨むシーンもちょくちょくありました。無事完成に持ち込めたのはありがたいことです。
展示は11月19日(土)までです。お待ちしています。
活動に興味を持っていただいた方、よろしければご支援をお願いします!作品を作るにあたって応援していただける、不安なく作業が進められることほど嬉しいものはなく、本当に喜びます。作品のテクノロジーや裏側などを、不定期ではありますがnoteで公開します。