研究のアイデアをワークショップで考える 『はじめての糸あやつり人形 操作と未来のアイデア』
2022/12/10~14の期間で、筑波大学内部向けのワークショップ『はじめての糸あやつり人形 操作と未来のアイデア』を開催しました。稲田の修論の評価実験の一部であると同時に、研究の将来的な方向性を考えるためのアイデア集めとしての役割を持つイベントです。
個人としてワークショップを開催するのははじめてで、かつ、情報系の研究の実験としてワークショップをするのもあまりないことかと思います。中身や背景にある考えについて記録します。
ワークショップの内容
操作方法の違う2体の糸あやつり人形を用意し、操作を体験し比較します。
体験の前には、糸あやつり人形の文化や事例について簡単なレクチャーをします。
体験の後には感想や意見交換の時間を取ります。
2~4名のグループワーク、全部でおよそ1時間くらいです。
このワークショップの核になるのは2点、「糸あやつり人形の操作を体験する」というアトラクション的な要素と、「糸あやつり人形の伝統技法を、現代社会で応用できるアイデアはないだろうか?」というラーニング的な要素です。後者はまさに稲田が修士(博士前期)課程で取り組んでいる研究テーマで、意見交換の時間でもひとつのトピックとすることを掲げました。
なぜワークショップなのか
実験のスタイルを変えてみたい
おおもとになるのは、情報系の我々が普段やっている「実験」のスタイルに対する、稲田の個人的なクエスチョンです。情報系の実験は一般に非常にドライなイベントで、協力者に対するリスクの最低限の説明をし、なにかしらの作業をしてもらい、質問紙(アンケート)などでデータをとって終了、という流れを取ります。
「協力者の体験クオリティがあまりに低くない?」というのが稲田の感想です。ライブな研究に触れるせっかくの機会なのに、もっと作り手の考え方を知ったり、双方向なやり取りがあったりしてもよいのではないか?と思い、違うスタイルを試したくなりました。
参加者からアイデアを得たい
もうひとつのモチベーションは、研究を進めるにあたって、稲田が他の人からのアイデアをもらいたかったことです。実証実験としての役割を第一としつつも、社会実装にあたっての材料をも同時に集めることができないだろうか、という発想のもと企画しました。
(蛇足)ワークショップやってみたい
「自分の取り組み/知識をうまく発信・伝達する方法を知りたい」というのが、最近の稲田の関心のひとつです。サイエンスコミュニケーションやテクニカルライティング、教育について注目しています。
ワークショップという手法を持ってきたのは、学芸員資格の取得のために経験した授業や実習の影響があります。一般向けの鑑賞ツアー/トークやワークショップの開催も、展示と同じく、研究機関たる博物館・美術館の取り組みのひとつです。
準備したこと
実験に使う人形の他に、以下のようなものを準備しました。
質問紙
いわゆるアンケートです。アイデア集め・意見交換の成果は参加者の発言や行動を記録すればよいと思われますが、他方、実験の成果としてはやはり数的に処理できるデータがほしく、今回は両方を使いました。
倫理審査・同意書
一応被験者がいる実験であるため、研究の一部として倫理審査申請をし、協力者には同意書(なにが行われるのかを協力者に説明し、参加の同意を得る書類)を書いてもらう必要があります。
広報
前出のWebページに必要な情報をまとめ、個人のSNSでの発信、および関係者・関係団体(大学の劇団系サークルなど)への広報依頼をしました。「誰でも暇ならOK」ではなく、ターゲットを「内容へ興味がある人」にそれとなく絞ったのは特徴的な点です。
申込み用にはGoogleフォームを使いました。2人以上集まらないと開催確定しないので、候補日をいくつか設定して希望回を選んでもらい、調整して折り返し連絡(手動)、という手順を取りました。
やってみた
追加開催も含めて4回実施、計10名の参加をいただきました。大学内を対象に募集したので全員が18~20歳、個人で宣伝をしているためか分野は理系に偏ったような感じがありましたが、全員が糸あやつり人形の操演未経験者でした。
よい情報が得られた&楽しかった
もう本当に楽しく、かつ有益な情報が得られました。これはひとえに、参加者が持つバックグラウンドの多様さの力だと思います。自分のものではない語彙のもとで言語化された感覚や、自分の知らない視点からの捉え方が新鮮で、ワクワクできる時間でした。実際の会話の一部を紹介します。
直接測定はしていませんが、参加者さんたちからも「楽しかったです」との声をいただきました。ありがとうございました!
が、しかし。うまくいった体で結論を出しはしましたが、いろいろと反省点があるのも事実です。以下に詳述します。
ファシリテーションが重要
ワークショップにおける司会進行のことをファシリテーションと呼びます。今回は稲田自身がその役をしましたが、身をもってその難しさと重要性を知りました。誰も発言しなくなってしまったとき、発言が特定の人に偏ってしまっているとき、などなど、うまく回っていない会話をどう健全化するか。たとえおしゃべりが好きな人であっても、それだけでは務まらない役割なように思われます。
今回は、違う回の参加者の意見をヒントとして提示するなどで対処を試みましたが、全員がシン……となってしまい稲田が慌てるシーンもやはりあり。そもそもファシリテーターはどれくらい喋っていいのかというバランスも気になります。もっと勉強しないとなと思いました。
初歩的なこととして、やりとりを円滑にするためアイスブレイク(場を暖める自己紹介など)は丁寧にやったほうが良さそう。全員に名札をつけるとか。参加者が多い環境なら、少し強引ですがファシリテーター をもうひとり用意してもよいかもですね。言い出すとキリがないくらいあるので次回に活かしたいです。
題材設定は慎重に
前項で会話を回す采配の難しさについて触れましたが、そもそもの問題として、「設定した題材は、本当に誰でも考えられるものか」ということを考慮する必要があると思いました。例えば、専門知識や思考力を求めるものになっていないか、誰でも意見できるものか、などです。
今回は大学(院)生ばかりだという前提で高めの目標を設定しましたが、数十分触っただけの道具の「活用方法を考える」は飛ばしすぎたなというのが正直なところです。自身の取り組みや興味と関連付けられた人があれこれ喋れたという感じでしょうか。
「使ってみての感想を話す」はもうひとつ低い段階ですが、これもおそらく、稲田に親しい人たちは総じてインターフェースや表現の感覚に対する解像度が高く、言語化が上手なのだろうと思います。どこでやっても今回のように行くとは限らないでしょう。
事務管理・広報がたいへん
このスタイルの実利的な欠点はずばり「参加者が同時に2人以上必要」なことで、これが事務コストに、そしておそらくは参加のハードルにも響いています。欠点をカバーするような運用上の改良が必要です。
今回は申込み~参加日決定に調整の時間をいただきましたが、参加日はやっぱり申し込み段階で選んで決められる方がいいですよね。こまめに状況の連絡をして参加者の不安を減らしたつもりですが、今度は稲田の作業量が爆発して困ったりとか、人が集まらなくてハラハラしたりとか……。
人数が足りない日にはゼミ生が穴埋めに来てくれるなど、開催日を予め確定できるような根回しが有効かもしれません。事務作業をほかのゼミ生に手伝ってもらうとか。うーん、それくらい大変だったということです……。得られる益も大きいし楽しいけど、やり方はもっと改良の余地があるでしょう。
まとめ
研究の実験としてワークショップ形式の開催をした記録でした。参加者との間で双方向で多様なやりとりを目指して企画し、スタンダードな実験では得難い多視点なアイデアを多くもらうことができました。同時に、ファシリテーションや事務の大変さをも実感することができました。
いろいろ難しいポイントはありましたが、研究室の中では得難いさまざまなアイデアと出会えるおもしろい取り組みができたと思います。類似な事例のサジェストや、自分も試してみました報告もお待ちしています。
活動に興味を持っていただいた方、よろしければご支援をお願いします!作品を作るにあたって応援していただける、不安なく作業が進められることほど嬉しいものはなく、本当に喜びます。作品のテクノロジーや裏側などを、不定期ではありますがnoteで公開します。