Z世代が聴く名盤 #28 King Crimson「In the Court of the Crimson King」
ここ数年で「Z世代」という単語をよく聞くようになった。「団塊世代」「氷河期世代」「ゆとり世代」等に続く新たな世代の区分である。
なんでも世間様はこの世代を「自分達とは全く違う感性を持った若者」と見ているようで、そんな歳の若者が起こした迷惑行為やトラブルを見つけては叩く報道や、そんな歳の若者を集めては「昔はこうだった」と昭和や平成の映像やらを持ち出して色々説明して反応を見てみる企画が最近増えてきており、「最近の若いのは何を考えているのやら」という空気をなんとな~く感じる事が多くなってきた。
そこまで我々の考えていることが気になるなら発信していこうじゃないか、ということでこのシリーズを始めることにした。当記事はZ世代にあたる筆者が世代よりも上のアーティストが出した名盤を聴いて、感想を書いていくただそれだけの記事である。
筆者は2003年生まれで、ニュースなどで取り沙汰される「Z世代」よりやや年上だが、WikipediaによればZ世代とは概ね1995~2010年生まれの若者を指すとのことなので、そのちょうど真ん中あたりに生まれた自分はバリバリZ世代を名乗れる。
作品情報
キング・クリムゾン、初のオリジナル・アルバム。日本では「クリムゾン・キングの宮殿」という邦題で知られている。
前置き
結構昔にこのシリーズでイエスの「危機」を聴いてみて、予想外の好感触に思わずべた褒めする記事を書いた事があった。基本的に今シリーズで聴いた作品はあんまりハマらずに結局記事を書くために聴いてそれっきりになってしまうことが多い中、「危機」は今でも自発的に聴き返すほどのお気に入りとなり、自然と他のプログレバンドにも興味がわいてきたのが今作にトライしてみようと思ったきっかけである。
フィジカルに強い愛着を見せ、なかなか配信までたどり着かないベテランが多い日本に対し、海外の大物ミュージシャンはその辺りに寛容なイメージが強かったが、そんな中でもキング・クリムゾンはいつまで経ってもサブスクにやって来ない数少ない洋楽バンドとしてやり玉に挙げられている…というニュースが度々耳に入ってきていたのでちゃんとSpotifyで聴けるかちょっと不安だったけど、ちょうど去年に解禁していた模様。
アルバムをチョイスするにあたってイエスで聴いて以来大好きなドラマー、ビル・ブラフォードが入っていた頃の名盤「太陽と戦慄」と今作のどっちを聴こうか迷ったけど、ここは曲数も少なく(1曲あたり平均8分オーバーの長尺曲ばっかだけどな!!)有名なデビュー作から素直に入っていこうと考えた。
感想
イエスの「危機」がギター・ベース・キーボード・ドラムのオーソドックスな構成で作られたあくまでロックバンド然としたサウンドだったのに対して今作は管弦を全面的にフィーチャーし1曲目の「21st Century Schizoid Man」で顕著な様に、より自由というか破茶滅茶な展開になっている印象がある。
その「21st Century Schizoid Man」以上にぶっ壊れた曲はなく、他は基本的に大人しめの曲ばかりだが、「I Talk To The Wind」はバンド感皆無の幻想的なバラード、「Epitaph」は9分近く続くダウナーな一曲、「Moonchild」に至ってはボーカルが2分で歌い終わり、残り10分はほぼ無音(演奏していないわけではないが音数が極端に少なく音量も抑えめ)とかなり尖っている。
こんだけ混沌とした展開をしておきながら、最後の「The Court Of The Crimson King」では転調して美メロで締める…と見せかけて、ラスト30秒で謎のSEがタダでは帰らせんと言わんばかりに不気味に鳴り響いて幕を閉じる構成もグッと来た。
超絶難解な音楽だし「ちゃんと分かって聴いてるのか?」と聞かれると正直完全に理解したとは答えられないけど、聴いた者を圧倒する凄味があるのは確かだし、文句なしに名盤と呼べる作品だ。イエスの「危機」ほどではないけど今作もちょいちょい聴き返すようなお気に入りの作品になると思う。
あと、1曲目の「21st Century Schizoid Man」のイントロがどこかで聴いた事あるような感じがしたのだが、POLYSICSがスピッツのトリビュートアルバムで「チェリー」をカバーした際のイントロのフレーズがめちゃくちゃこれに似ていた。確信犯だろうか。
一番好きな曲:21st Century Schizoid Man
一番「…」な曲:Moonchild