Z世代が聴く名盤 #14 たま「まちあわせ」
ここ数年で「Z世代」という単語をよく聞くようになった。「団塊世代」「氷河期世代」「ゆとり世代」等に続く新たな世代の区分である。
なんでも世間様はこの世代を「自分達とは全く違う感性を持った若者」と見ているようで、そんな歳の若者が起こした迷惑行為やトラブルを見つけては叩く報道や、そんな歳の若者を集めては「昔はこうだった」と昭和や平成の映像やらを持ち出して色々説明して反応を見てみる企画が最近増えてきており、「最近の若いのは何を考えているのやら」という空気をなんとな~く感じる事が多くなってきた。
そこまで我々の考えていることが気になるなら発信していこうじゃないか、ということでこのシリーズを始めることにした。当記事はZ世代にあたる筆者が世代よりも上のアーティストが出した名盤を聴いて、感想を書いていくただそれだけの記事である。
筆者は2003年生まれで、ニュースなどで取り沙汰される「Z世代」よりやや年上だが、WikipediaによればZ世代とは概ね1995~2010年生まれの若者を指すとのことなので、そのちょうど真ん中あたりに生まれた自分はバリバリZ世代を名乗れる。
作品情報
たま、初のベストアルバム。メジャーデビューからの2年間を対象に16曲とボーナストラック2曲を収録している。今作の前にはオリジナル・アルバムが3枚出ているが、どれもサブスクはベストで充分と言わんばかりに揃って未解禁である。
前置き
かつて「さよなら人類」という曲で一世を風靡した『たま』というバンドがいたらしい、という話はいつだったか忘れたが聞き覚えがあった。物は試しと初めて曲を聴いたときにはあまりのクセの強さに脱落した記憶があるが、数年後オカルトだの都市伝説だのといった話に傾倒していたころ、いわゆる「意味が分かると怖い歌詞」という特集を漁っていたら「さよなら人類」に再会。その頃には癖の強い音楽にもどっぷり浸かれるようになっていたので改めて曲を聴き始め、ちょうど大学受験~合格に差し掛かる時期だったので受験勉強の友として、試験までの精神安定剤として大変お世話になった。
大学に入ってからもしばらく聴き続けてて、廃盤になってサブスクにもない旧作をCDで購入して手元に持っておくなんて時代錯誤な手を使い強引に音源を入手したこともあった。
最近は色々あってめっきり聴かなくなってしまったんだけど、この頃自分の記事に「スキ!」を付けてくれたり、フォローしてくれたりする人にたまのファンがちらほら居たのでそこに刺激を受けて、今回改めて聴き直す運びとなったわけである。
感想
いつ聴いても唯一無二。ギター、ピアノ、ベース、にドラム…と見せかけてパーカッションという独特な編成もそうだし、4人全員曲を書けるし歌えるというスタイルのボーカル構成も他ではあんまり見かけない。正式メンバーにパーカッションを入れるバンドは他にはサザンかスカパラくらいだ。
歌詞も、この時代特有の表現を使ってて古臭い…なんてこともなくそもそも結構抽象的なので古臭くなりようがない。若者に見せるとして、例えば歌詞を見たら何でも考察したがるボカロファン辺りにはウケそうに思える。
この手の一大ムーブメントが起こると、必ず追随するフォロワーが出てくるのがお決まりだがたまの場合は一組も現れなかった(いたのかもしれないけど少なくとも現在まで生き残ってはいない)ところにも凄みを感じる。
イマドキの人間にはアコースティックすぎるから流行りそうにはないけど、一度ハマったら抜け出せない沼のような魅力がある。
基本的には4人の演奏が延々と続くので、普通は全部同じに聞こえそうな所だが、曲の作者がボーカルをとる特性上ボーカルがコロコロ入れ替わる上に各作者の作風がバラバラなので、統一感は保ちつつ割と飽きずに聴ける。
鍵盤担当の柳原幼一郎はこの中では相対的にポップな曲を書く傾向にあり、代表曲の「さよなら人類」もこの人の曲。そういう曲をよく書くのか、今作に入っている曲がたまたまそうなのかは分からないが「オゾンのダンス」「マリンバ」などやたらアッパーな作風が目立つ。その一方で8分近い大作「満月小唄」も目を引く。
ギター担当の知久寿焼はたまのパブリックイメージに沿ったスローテンポの曲が多く、「らんちう」「かなしいずぼん」をはじめ奇天烈な声で奇天烈な世界観を歌うスタイルが確立されている。
パーカッション担当の石川浩司は前衛的、支離滅裂な歌詞が特徴的で、特に8分超えの超大作「学校にまにあわない」は組曲的な構成も相まって前衛的を通り越して半分狂気の域に達している。
ベース担当の滝本晃司は曲調も声も何もかも明らかに毛色が違う。他の3人がコミカルな声質をしていたのに対してこの人だけ甘くダンディーな声質で曲もパーカッションを抑えた静かでロマンチックな作風。なんか、この人の曲が好きな人とそれ以外の3人の曲が好きな人は層からして違うような…
当時たまを見ていた人が知っているような代表曲はあらかた収録されているっぽいので、全盛期の決定盤としてはこれ以上ない存在だが柳原曲で6曲、知久曲で8曲を埋めてしまい残る石川・滝本による曲がそれぞれ2曲ポッキリだったり、ブレイクのきっかけとなった深夜テレビ番組「三宅裕司のいかすバンド天国」で披露された5曲のうち「ロシヤのパン」が未収録だったり、もう少し何とかならなかったのかと思う箇所もなくはない。
また本作はデビューから2年間の曲しかまとめていないのでこれ1枚でたまの全貌を知ることはできない。この後たまはレーベルを移籍しアルバムを2枚発売、自分で事務所を建てて自主制作で1枚発売、直後に柳原幼一郎が脱退し、3人体制でメジャーで2枚発売、さらにまた自主制作で4枚発売し解散、とかなりの紆余曲折を歩むこととなる。あまり詳しくないので実態は何とも言えないがファンの中には今作以降の作品を称賛する人もいっぱいいるし、実際自分も3人になってからのほうが好きな曲は多い。なので今作を聴いて「良い!」と思った人には是非とも以降の曲も聴いてほしい。
…と言いたい所なんだけど、今作含めて13枚あるアルバムのうち今作以外はそれ以降にメジャーで出たアルバム4枚しかサブスクで解禁されていない。今作以前に出たアルバム3枚はレーベルの意向とか色々しがらみがありそうだから仕方ないとしてそれ以外でサブスク未解禁のアルバムはすべて自分の事務所からインディーズで出した作品。全部自分たちでやったのなら諸々の手続きもスムーズだろうし、資料として残すためにも布教のしやすさのためにもどうか今こそサブスク解禁を!
一番好きな曲:学校にまにあわない
一番「…」な曲:きみしかいない