朝の通勤電車

朝の通勤電車の中、ふと前を見ると男性の厚い両手が動いている。編み物だ。かぎ針を右手に持ち、左手には橙色の毛糸。手首を回して、毛糸の輪を作り、ひと編みしようとしている。「ほげぇ!」と漫画のようなことばを心で言った。スマホや本のような定番じゃない方法で車内を過ごしている人を見たのが嬉しかった。毛糸の先を辿ると、男性の着ているパーカーの前ポケットに行き着き、そこにもこっと丸い毛糸の束が顔を出していた。なんと、かわいいこと。他の人の目を気にしていない、かつ迷惑も掛けていない「車内編み物」という行為に好感が持てた。男性は、揺れる車内の中で、ひと編みひと編み慎重に手を動かしていた。
ついついコミュニティの中にいると、大したことないことでも他人の目を気にして、マジョリティじゃない意見を言ったり、行動が出来ないことも多い。私も職場の休憩所で編み物をしたことがあるけれど、やっぱり人の目が気になり、止めてしまった(なんとも思われていないと分かっていても)。
電車の中にでなら、出来るのかな。
隣ではスマホを眺めている人、目を瞑っている人、いろんな人のそれぞれの世界があって、良い空間だった。

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