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尾道旅行記 2

7月某日(土)午後の過ごし方

 千光寺や美術館、坂の上を存分に楽しんだので、商店街へ下る事にした。その道中、敢えて坂の上の住宅街を歩いてみる。道が入り組んでおり、何度も分岐点にさしかかる。かつてお屋敷だったであろう、立派な建物の廃墟、増築したのか簡易的に作られたベランダに優しく揺れる洗濯物、これらの風景に全く馴染みがないはずなのに懐古してしまう。

汗をかきながら路地裏から補正された広い道に出る。出てきた先には最近改装された古民家のようなものがあった。玄関が大きく開かれており、そこから漏れる冷気が肌に心地よい。田舎とはいえ観光地だろう、外部の人間が通る道沿いにありながらこんなに玄関を開けっ放しにするなんて不用心だなと心配していると、後ろから声をかけられた。

「冷たいお茶、飲んでいかれませんか?」
え?お茶まで出すの?
と、驚いて振り返れば麦わら帽子姿の女性がにこやかに立っていた。その手には大荷物を抱えており、彼女の額には汗が光っていた。

「ここ、お茶屋さんなんです。まだオープンして3週間くらいですけど。」
不用心だなんて、いらない心配だった。
それよりもこの巡り合わせが嬉しかった。
まだ看板も出ていない、店の壁には店舗名の記載もまだないような真新しいお茶屋さん。本来なら見過ごしていただろう。
「あ、じゃあ、頂きます。」

促されるまま玄関へ入れば、入って右手側カウンターに男性が立っていた。どうやら麦わら帽子の女性と彼は夫婦らしかった。一通り茶葉の説明を受け、注文へ進んだ。説明を聞いて、ある程度お茶の情報を頭に入れてから改めて茶葉を選ぶのは楽しかった。
選んでいる最中、
「もしかして九州の方ですか?訛りがそうかなって」と尋ねられる。
このように会話のきっかけになってくれる九州なまり、今後も重宝したい。
「そうです!九州から来ました」
そこから幾つか自分の話をした。
一人旅であること、学生時代に訪れてからずっと尾道を気に入っていること。私の話を相づちを打ちながら聞いてくれる優しいご夫婦だった。

全国の名産地から集めた茶葉の中から、私は静岡県産の茶葉を選択。それを水出ししたお茶とクッキーを頂いた。

席は二階の座敷。冷たい日本茶を飲めば、体の隅々にその冷たさが染み渡った。爽やかで少し甘いお茶の風味、畳の柔らかさ、大きな窓から望める尾道の街並みと海、向島の山に茂る緑、ご夫婦との会話。それらが疲労した私の体を癒した。

帰り際、ありがとうございました、に添えられた
「明日は、気をつけて帰ってくださいね」にさりげない優しさを感じた。

和室でお茶

 坂を下り、商店街に着いた。土曜課外か何かの帰りか、集団で下校する高校生の集団とすれ違う。「今日の夜市どうする?」「女子と行くんやろ」「ちがうし!」
この会話すら、青春だなと感じる。会話の端々にどれだけ掛けがえのないものが隠れているかなんて、当の本人達は気付かないままなのだろう。その後ろではメガネをかけた女子高校生が一生懸命古文の何かしらのフレーズを何度も唱えていた。古文の小テストでもあるのだろうか。

レトロな看板と婦人服が良い
名物
商店街から見える坂道

 商店街で諸々の用事を済ませ、(snsで行われた雑貨屋の抽選会で見事当選したので尾道限定靴下を受取りに行くなど)一度宿に戻りチェックインをした。

夜の尾道に出かけるのだが、また次回に書き記したい。

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