夜の尾道
7月某日(土)18:00~20:30
宿で少しのんびりして、夜の街へでかけてみる事にした。
宿を出ると商店街は夜市で賑わっていた。
ビールと唐揚げくらいつまみたかったが、夕御飯があるのでと、ぐっと我慢する。
夜市を一通り眺めて、商店街よりずっと奥へ進む。市役所側に進めば飲み屋街に入る。居酒屋の赤提灯が光るその通りには、ショーパブ、昔からのスナックがあり、ピンクや黄色のネオンが寂しく夜道を照らしていた。アーチ型の門に取り付けられた「夢街道」と書かれた電光看板に目を奪われるが、その傍には「テナント募集」の貼り紙。かつてはここに夢はあったのか。哀愁ある街並みだ。これらを抜けた先に目的の店はあった。
店の扉を開けると、そこはまるで水族館。貝殻で作ったシャンデリア、薄暗い店内には海の生き物たちの美しい剥製、黄金に光る蓄音機、くるくる回るレコードと犬のオブジェ。まるで宝物を詰めたような店内だ。それか、ジブリに出てくる不思議な骨董品店の世界観と言った方が伝わるだろうか。
このお店はご夫婦で営んでいるそう。カウンターではお父さんとお母さんとの会話を楽しんだ。お客さんが増えれば、それぞれ手分けしてお客さんと会話していた。誰にも疎外感を与えない、優しいお店だと感じた。
聞けば店内に展示している殆どはお父さんのコレクションらしい。1964年の東京オリンピック限定パッケージのタバコの箱や、エジソンの時代から現存している蓄音機や、大きなエビの剥製はお父さんが収集したという事、貝殻のシャンデリアはお父さんのお手製である事、それらを嬉しそうに話すお母さんの表情が何より素敵だった。
店内が混んできた頃、タイミングを見計らってから
おあいそをお願いする。会計を済ませた後、席を立とうとすると
「あ、ちょっと、お土産」
お母さんが呼び止めてくれた。私の手のひらに、そっと小さくて真っ白な巻き貝のキーホルダーを乗せてくれた。
「この貝も集めてきたの、手作りよ」
素敵なおみやげを頂いて、お店を後にした。
ドアには可愛らしい「ありがとう」の文字。
巻き貝のキーホルダーを、なんとなく夜空にかかげてみる。これを眺めれば、この日の夜をまたいつでも思い出すのだろう。