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尾道旅行記 1日目
7月某日(土) 澄み渡る晴れ
先週の大雨とは打って変わって、その日の尾道は遠くの景色が綺麗に見える程に晴れ渡っていた。
博多駅を7時48分に出発し、10時30分頃には新尾道駅に到着した。そこから尾道駅までバスで移動するのが私のお決まりの移動手段だった。この方法なら運賃最安値で済むし、何よりバスから尾道駅までの道のりを眺める事ができる。バスに揺られることは、私の小さな楽しみなのだ。
バスに揺られている間、見える景色といえば古い商店や昔からあるであろう民家、普通の自販機やポストなどありふれたものばかりで、そこに尾道らしさはあまり見受けられない。
だが、私は「観光地としての尾道」ではなく人々の日常や暮らしを感じる尾道の風景も好きなのだ。それらはこのバスからの景色から得られる。
沢山のプランターを置く家の壁には植物の葉っぱが綺麗に木洩れ日を作っている。先日の大雨の時に活躍したのだろう、真っ赤な雨傘が玄関先に干してある家、無機質なコンクリートの壁にその赤がよく映えていた。
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尾道駅に到着後、駅の写真も撮らず、尾道プリンにも目もくれず、私はひとまず宿に向かった。
道中、シネマ尾道の前を通る。青い映画館の看板とお客さんのものだろう、黄色い自転車がなんだか画になっていたのでシャッターを切る。
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また寄り道をした。路地裏に潜り、誰も並んでいないラーメン店にて中華そば啜った。このラーメン店は早朝から朝ラーメンを提供している店で、ずっと前から気になっていた。朝限定メニューもあるみたいなので、いつか挑戦したい。
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宿に到着し併設されたカフェに荷物を預け、身軽になれば早速千光寺まで徒歩で向かう事にした。坂を登れば、参拝後なのだろうか沢山の観光客とすれ違う。この坂は私にとって、友人達との思い出の場所だった。
「あの頃は、まだ寒かったっけか」
額から私の目尻にかけて汗が滴る。こんなに暑いはずなのに、フラッシュバックするのは、とある春になりかけの季節、深夜23時頃の私達だった。思い出を大切に閉まいながら、とある喫茶店に甘味を食べに足を進める。
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喫茶店に向かうため、観光客が行き交う坂道から少し外れた道を1人進む。細い道の先には、そよ風に揺れる「氷」の旗。
暖簾をくぐれば、先客が1組と、志賀直哉全集、薄暗い店内の大きな窓に広がる、どこまでも碧い尾道水道があった。店内が薄暗いため逆光になり、窓から望めるその風景だけが浮き出ており、一気に惹き付けられた。
店主なのだろう、おじいさんが注文を聞いてくださった。この人、きっと文学好きで、特に志賀直哉が好きなんだろうなと心の中で独り言を言いながら、冷たいクリームぜんざいを注文する。
文学好きな店主が営む、坂上の静かな喫茶店。
運ばれたクリームぜんざいは、硝子の器までひんやりしていた。火照った体にアイスクリームと小豆を一緒に入れれば喉を伝ってその冷たさを感じる。
あまい、つめたい。
ゆっくりと時間が流れる、素敵な空間だった。
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自家製シロップのかき氷も気になる。
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店を後にして、千光寺に向かい手を合わせた。
千光寺の後には尾道美術館に向かった。
1人展示物をじっくり眺め、1人リアクションをとる。ずっとどんな展示物があって、どんな館内になってるか気になっていたが入館料がかかるので、友人を付き合わせるのは悪いと思い避けてきたが、今回は存分に美術館を楽しめた。なんせお一人様なのだから。私の為に、私の好きな観光ができる。お一人様の醍醐味はここだなと感じる。
午後の過ごし方は、また次回書き残したい。1日目午前中の過ごし方は以上。
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