草野仁さんの講演で~試験的にUDトーク使用~多くの協力に感謝
第79回
難聴ソルのゆんたくTime
2017(平成29)年12月5日 島原新聞掲載
去る11月26日、島原文化会館で、島原市出身のキャスター草野仁さんの講演会がありました。この講演会で音声認識アプリ「UDトーク」による文字情報サポートを試験的に取り入れてもらうことができました。
主催者に協力してもらい、スクリーンで映し出し、さらに多くの参加者がいる中でのUDトーク利用は、沖縄以外の九州では初めてのことです。私も坂本さん(UDトーク訂正者)も多くの人の前でUDトークを披露するということで、大変な緊張感と喜びを感じました。
坂本さんは今まで私一人のためにUDトークの訂正をしてくれていましたが、今回は多くの人に見てもらう機会になりました。この講演会にUDトークをつけるきっかけになったのは、坂本さんと一緒に車に乗っていたとき、ふと目にとまった道沿いの大きな看板でした。そこには、真っ赤なネクタイをした草野さんの笑顔が。「UDトークがつくなら私も講演会に行きたい。草野さんは元アナウンサーだし、滑舌も良いし、ちゃんと認識してくれそう」と話をしたのが始まりでした。すると、坂本さんが翌日には行動に移し、島原市教育委員会社会教育課に話をしてくれたのです。突然の話でしたが、社会教育課では前向きに検討してくださいました。市としてUDトークを試験的に使う許可が下り、草野さん自身にも連絡をしていただき、快諾をもらえたようです。
さらに嬉しいことには、当日会場に大きなスクリーンを準備して会場全体に見えるようにしてはどうか、という提案までありました。もう私にとっては夢のような話で、驚きと喜びと感謝で飛び上がりそうな気持でした。
これまで県内のあちこちでUDトークの使用について説明したり相談したりしましたが、個人的な利用にとどまっており、ここまでこちらの意図を汲んでスクリーンまで設置してもらえたのは島原市が初めてです。社会教育課の班長さんが「こういうアプリがあることを皆さんにも知ってもらう良い機会になるのではないですか?」と言ってくださったのも嬉しかったです。
いよいよ当日。坂本さんは早くから設置準備に入り、音響調整を入念に行っていました。私もドキドキしながら早めに会場に入りました。坂本さんは、きっと私以上に緊張していたと思います。
ついに古川隆三郎市長さんのあいさつが始まりました。会場はほぼ埋まった状態。そこでUDトークが市長さんの話を文字に変換し始めました。と早速、誤認識が。
「先ほどのアナウンスの紹介では、古川『重三郎』になっていました。今、私の自己紹介のときは『流三郎』になっていました。今回、『UDトーク』というものを使っています。時々、誤認識があるかもしれませんが、皆さんに知っていただければと思います」というような話をしてくださいました。
私は「UDトークの特徴をつかんでその場で的確に話題にしてくださったんだなあ」と感激しました。これがライブでしか味わえない感覚です。市長さん、ありがとうございました。
どんな細かい説明よりも皆さんによく伝わったと思います。
そして草野さんが登壇。立て板に水のような語りで次々と言葉が出てきます。アナウンサー時代のこと。世界ふしぎ発見の話。黒柳さんや武豊騎手の話題。日本人としての誇りの話など。盛りだくさんの90分で、話に引き込まれました。その内容がほぼ理解でき、感動しました。ただし、私は草野さんの講演を「聞いた」わけではなく、「見た」のです。舞台右側の大きなスクリーンで。そして会場の皆さんと同時に笑い、うなずき、拍手をすることができました。UDトークがタイムラグなしに、一語一句を全て表示してくれたからです。
話し手の言葉が全て伝わる。
会場と一体になる。
普通のことだと皆さんは思われるかもしれませんが、聴覚障害者にとっては、このライブ感を味わうことがなかなか難しいことなのです。しかしUDトークの活用によって、光明が見えました。このUDトークを情報支援のツールの一つとして皆さんに認識してもらえれば幸いです。
この講演会には口コミで市内外からも数人の難聴者が参加していました。「リアルタイムでの文字表示を初めて見た」「他の仲間たちにもぜひ見てもらいたかった」「坂本さん一人で設定から訂正まで全てをできるのはすごい」「大きな講演会では是非UDトークを付けてほしい」とたくさんの良い感想が寄せられました。
また、聴覚障害を持ってない方や舞台関係者からも「こんなに面白いものがあるんだ」「今からの時代は新しいものを積極的に使っていかないといけませんね」との言葉をかけていただきました。今回は試験的な取り組みでUDトークを使いましたが、大きな手応えを感じました。まだまだ改善点はありますが、これを機に周知が広がり、いろんな場所で活用できればと思っています。
この講演会でのUDトーク利用にあたって様々な準備をしてくださった坂本さん。快く承諾してくださった草野さん。そして何より、背中を押して実行に移してくださった主催の島原市そして社会教育課の皆様に心より感謝申し上げます。