多くのことを学び~人との絆深めた舞台に~

第88回

難聴ソルのゆんたくTime

 

2018(平成30)年8月5日 島原新聞掲載

 

去る7月21日、長崎市の長崎ブリックホールで市民ミュージカル『赤い花の記憶 天主堂物語』の公演が大成功のうちに終了しました。ご覧になった方もいらっしゃると思います。

 

私は、聴覚障害者に舞台鑑賞してもらうため、UDサポーターの坂本朋恵さんと一緒に3か月間、今回の公演に関わってきました。当日まで色々うまくいかないこともたくさんありました。当日も思いがけないことが起こりました。泣きたくなることもありましたが、終演を迎えた今も熱い気持ちや思いが冷めずにいます。私の人生において、忘れられない感動の舞台となりました。

 

ミュージカル自体に感動したというのは言うまでもありません。さらに私の心が熱いのは、聴覚障害者に新しい演劇鑑賞の扉を開くことができたという思いがあるからです。当日までの道のりは本当に長いものでした。また、当日は予想外のトラブルにも遭いました。

 

まずはネット環境の変化に見舞われ、字幕がうまく作動しなくなったのです。前日まではきちんと問題なく作動していたのに、当日になってトラブルが発生。本当に慌てました。当日のホールの状態やお客さんの入り具合で変わってきたようです。

 

少しでも良い状況になるように坂本さんが頑張ってくださったので、昼の部は舞台に合わせた字幕をリアルタイムで出すことができました。

 

しかし、夜の部ではなぜか電波状態が悪く、スムーズに字幕表示ができなくなりました。結局、夜の部を鑑賞した難聴者からは「リアルタイムで出ず、少し不便だったが、初めての取り組みとしては評価する。今後少しずつ改善していくことを期待する」と感想をいただきました。

 

前日までは問題なかったのに本番でうまく作動しなかったことは、私としてもとてもとても残念で悔しいことでした。

 

こういうこともありましたが、この初めての取り組みは次のような感想もいただいています。

 

「映画やテレビと違って舞台には字幕が出ないから、難聴者にとっては苦痛な面があった。しかし、今回はミュージカルの内容もさることながら、字幕のあることのありがたさに感動し、胸がいっぱいになった」

「大型字幕スクリーンにできればもっと良いものになるだろう。健聴者にとってもミュージカルの言葉はわかりにくいこともあるし、高齢で耳が遠くなった方々にとっても良いことではないか。初めてにしては大成功」

 

こういう意見をいただくと、ここまで諦めずにやってきて良かったと改めて思います。

 

もう一つ嬉しいことは、当日に「私も難聴者ですが、タブレットを利用できますか」と声をかけて下さった方がいらっしゃいました。たまたま観劇に来ていて、字幕席の張り紙を見て声をかけられたようです。一つ予備のタブレットがあったのでそれを活用してもらいました。

 

返してもらう際に「とても良かったです。感動しました」と言われたそうです。急な要望にも対応できたことが嬉しく、またそれを喜んでもらえたことで嬉しさが倍になりました。これが本当のライブですね。

 

何が起こるか分からない状況の中で柔軟に対応できたことが、辛かったことを吹き飛ばすぐらいの大きな充実感になりました。

 

今回のミュージカルでの字幕支援について最初は、「私自身が字幕で見たい!」という思いから始めたのですが、だんだんと話が大きくなって大変なところもありました。具体的な機材の準備、劇団やスタッフの人との調整、何度も練習を見に行って字幕のリハーサルを行うなど、なぜ私たちがここまでしないといけないのだろう、と心が折れそうになることもありました。

 

しかし、一生懸命頑張っている姪を見るにつけて、本番では字幕で観たいという思いが私の背中を押しました。

 

そして、黙々と準備を進めてくださる坂本さんが、その場から逃げ出したくなる私の心を引きとめてくれたのです。

 

坂本さんとは二人三脚。本当にありがとう。

 

たくさんのことを学び感じ、人との絆を深めた市民ミュージカルでした。

 

当日、私は難聴者の対応でゆっくり舞台を見ることはできませんでしたが、リハーサルの時に観た舞台の素晴らしさは忘れられません。

 

カーテンコールで歌われた歌詞に「つぼみふくらみ、赤い花咲いた」という歌詞があります。

 

苦難の禁教期を乗り越え、それまで耐えて守り続けていた心の中の大切なものが、ようやく日の目を見るときが来たという喜び。その喜びがここに凝縮されているのが伝わり、本当に感動しました。

 

私自身もまた、聴覚障害者の世界を広げる活動を地道に行い、時間はかかっても必ずいつかは花が咲くと信じて前に進みたいと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?