吉祥寺

ふと見たくなる風景が、
ふと食べたくなるあの味が、
ふと見たくなる、あの人の顔が。

どんなに遠くて面倒でもこの衝動には勝つことができない。こういうのを使命感と呼ぶのか、それともただの欲望、あるいは発作?そんなことを考えている間に脳内世界の私は先に"そこ"に到着して、私の欲望を刺激し膨張させる。

しかし大抵の場合、"そこ"に辿り着いたところで何も解決しない。
あるのは想像通りの風景と期待を裏切らない味。
そこから先はいつだって自力で、"そこ"に行けば何か運命のようなものが何とかしてくれるんじゃないかというほのかな期待は音も立てずに打ち砕かれ、そこにいるのは固く握った拳を真っ赤にしたいつもの自分だけだ。

風呂上がりの火照った身体が夜風に冷まされるように、妄想で煮詰められた脳みそは井の頭池の一息にあしらわれて、
幻でも見せられていたのかと、ひとりJRの改札をくぐる。

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