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俺の月(剥ける魚と虹色)



龍の裾から小さな炎龍が這い出るところを見るのが僕は好きだ。そいつは普段、龍の首で寝ている。紅い目をじいとこじ開けたまま、僕の蝶々をたまに見つめているんだ。
星が満天だな。
僕の蝶々にも少し水浴びをさせてやろう。
図鑑には見つからない僕だけの蝶々。
悠真の黒い髪の中からも黒曜石の輝きをもつカラスがするりと出てきた。
薪に炎龍が巻き付くと真っ赤な炎が燃え盛り、火花が星屑のように飛んだ。
「兄者、えろうすんまへん。こやつらと旅に出ようかと思っとります」
「既にどえらい長旅やったようで、妹かどうかむしろよくわからん。何年越しじゃ」
あっちの方はなんだか大変そうだね。
僕がそっと蝶々を指に乗せると、カラスがアーと一声鳴いた。
「しかしこの魚、本当に剥けたぞ」
龍は魚のエラに手を突っ込んでひっぺがえしている最中だ。
ずるりと剥いた中身は薄く桃色をしている。
「なあ、このまま食べても美味いって月子言ってたよなあ」
悠真は大きめの葉を用意して待ちきれない様子だった。僕は僕で、龍がナイフで切り落とすたびに手がのびそうになる。腹が減った。
「じゃあな、ばかいも」
「おう、俺はまあ、村には帰れんな」
「当たり前じゃーぼけ」
妹の月子だけが飛び去る兄の姿を未練あり気に見つめている。帰りたいのかもしれない。
そういえば龍に、頼まれてたっけ。
龍の方を見ると、刺身になったカミダイとやら(タイの一種だろうか?)とスープが出来上がっていた。目が合う。
「月子、旅について話がある」龍が月子を呼ぶ。ちょっとタイミングが、いいとは言えないが......。
「もう食っていいよな!?」
悠真は言いながら食う男だ。僕も頂くが......しかし、なんというか甘い魚だ。塩っけもある。スープは塩と木の実を煮たもので出来ていた。思えば龍とは、幼い頃からずっと一緒に暮らしてきた。僕の蝶々は花や木の実を知らせる。悠真のカラスは肉のある方向を指す。
「あのな。お前のはなんだ?」
これをまず、月子には聞かねばならなかった。何も持たずにこの島でずっと居たようにはどうも思えなかった。身のこなしが速すぎる。人間ではない。
「俺か。見せたろうか」
不意に月子が、大きな羽音を立てた。
それは大きくて幾重にも重なった色合いの美しい虹色をしていた。ボロボロの浴衣とはちぐはぐで、大人になればさぞかし美しいであろう月子に、見惚れているのは悠真だけだ。
龍は僕と同じ疑問を持っていそうだ。
「なぜお前が変身する?使い魔ではないのか」
その問いに月子の羽が揺れた。
「実はこいつはな、ちょっとシャイなんじゃ」
後ろから出てきたのは、鳥とも人ともとれる半獣の女(多分)だった。
「く、口は聞けるのか?」
僕は驚いてしまった。身体まで虹色ではあったが、腹までは人の形をしている。
「話せますゆえ......何かご用がありませば申し付けくださって構わないのですが...しかし月子、男だらけではないの......もう14にもなるのだから...気兼ねしなさいな」
か細いその鈴の音は、どうも魔術がかかっていそうなくらい心地が良くて、僕は悠真が眠ったのを目の端に僕も眠りに誘われてしまった。



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