コミュニケーション難民への鎮魂歌
【会話上手=聞き上手?という洗脳】
『自分は人と話をするのが苦手です。
なにを話していいのか分からないし、どうやったら会話が盛り上がるのか分かりません。
先日も酒の席で、友達の輪の中に入ることができず、ただ会話の合間に相槌をうっているだけで時間が過ぎていきました。
そういうとき、ひとりぼっちになってしまったような気するし、自分の会話力のなさにがっかりしてしまいます。
とてもつらいです。
どうしたら会話上手になれますか?』
私は仕事柄、よくこういった質問を受けることがあります。
コミュニケーションで、何かしら悩んでいる人たちは多いです。
すでに行われている会話についていけないとき、さみしい思いをする。
話をしているのに盛り上がらないとき「自分の話がつまらないのかな……」と不安になる。
聞き上手になろうと一生懸命話を聞こうとするのだけど、そうしようとすればするほど話をすることがなくなってしまって、会話が途切れてしまう。
自分の話を聞く能力がひくいのかな、とおちこんだりもします。
そんなことはありません。
自分の話がつまらないから、聞き上手になるスキルがないから、会話が上手くいかないのではないのですよ。
会話が続かない、盛り上がらなくて悩んでいる人たちの話をよくよくきいてみると、ある共通点が浮かび上がってきます。
実は……ほとんどの人が会話における基本ルールを守れていないんですね。
私もむかしは口下手だったのでさまざまな本を買い漁り、読みふけりましたが結果的に何も変わりませんでした。
当時は「聞き上手になれば、会話の達人になれる!」と信じていましたが、それが今から思えば失敗の元だったんですよ。
聞き上手になろうとすればするほど、会話の本質からどんどん外れてしまっていたからです。
【会話における《超ど基本》ルール】
本屋に足を運べば、コミュニケーション術について様々な本が置いてありますよね。
雑談力だとか、聞き上手になるための法則だとか、大人の会話術だとか。
『お湯を入れたら3分でできます!』みたいな本がたくさん売られているのです。
ですがほとんどの人達は洗脳されてしまったかのように、会話の本質から外れたままカップラーメンみたいなテクニックだけを試して失敗し、自信をなくしていく。
みな麺がのびているんです。
おいしいわけないじゃないですか。
あのですね。
もうやめましょう。
こういったことは、プラモデルを組み立てるための説明書をろくに読みもしないのに、めちゃくちゃカッコよく仕上げる塗装のしかたを勉強しているようなものです。
会話におけるシンプルなルールは次の一つです。
『自分の話したいことを話す。それについて相手に質問する。』
「えっ?それだけ!?」と思いましたか。
拍子抜けしてしまうくらいに簡単なのですが、会話が上手く行っているときは、必ずこのルールに則って会話が流れていきます。
あなたも楽しかった会話を思い出してみると思いあたる節があるでしょう。
会話がストレスもなくスムーズに展開されていくのは、会話の基本レールに乗って走っているからなんですよ。
これから少しづつ説明していきますね。
たとえば天気と洗濯物の話。
私「最近、雨が多くて洗濯物が乾かないんだけど。そっちはどう?」
相手「分かるー。ジメジメして中々乾かないよね……。乾かないと臭いもひどいし。」
私「そうなんだよねー。部屋干しするしかないから、大変だよねえ。洗剤も部屋干し用のもの使ってるんだけど、臭いを抑えるために特別何かやってることってある?」
こんな風にスムーズに会話が流れていくのは『私はこうおもう。あなたはどうおもう?』
というルールが忠実に守られているからです。
これが会話のど基本。
つまり本質ということになります。
ではもう一つ例を挙げましょうか。
A「最近仕事がいそがしらしくって、彼氏がなかなかかまってくれないし、デートする時間もないから、一緒にいられる時間が少なすぎてめっちゃさみしいよ~。Bは彼氏と上手くいってるの?」
B「それはさみしくなっちゃうよね。実はAとはちょっと違うかもしれないんだけど、彼近頃なんだか素っ気ないし、そろそろ別れちゃうかのかなーってすごく不安なんだ。もしかして、好きな人でもできちゃったのかなあ……」
Aさんも会話のルールに則って、自分の話をする⇒質問をするということをしています。
そうすることで、ごくごく自然に会話が流れていくんですね。
逆に、本質から外れて会話をしようとするとどうなるんでしょう?
多くの人達が犯しがちな、会話に於けるルール違反とはなにか。
それは聞き(訊き)上手になろうとする、ということなのです。
【気まずい会話:事故理由No.1】
ではあなたは、先ほどの会話のBさんだとしましょう。
もしもあなたが何の前触れもなしに、Aさんにこう訊かれたらどう思うか考えてみてください。
A「Bは彼氏と上手くいってるの?」
突然目の前に壁が反り立って来たかのように、なんとなく、質問に答えにくくありませんか?
言葉がのどの奥に引っかかって、上手く出てこないというか。
出そうで出ない、というか。
「もしかして、Aは彼氏と上手く行ってないからこういうことを聞くのかな。」
「最近私と彼氏の仲が良くないってのを、誰かから訊いてAは心配して聞いてくれてるのかな。」
こんな風にいろいろと余計なことを考えてしまうかもしれません。
結果として、なんとなく答えにくかったり、どう答えたらいいのか考える時間が必然的に多くなるので、会話のテンポが悪くなり場がギクシャクしてしまいます。
これが会話における違和感(盛り上がりに欠ける感)の正体です。
もちろんAさんに他意はないことの方が多いのにもかかわらず、です。
さてここではAさんとBさんは、おたがい心を許せる友達だったので、会話が質問からはじまってもこの程度の気まずさで済みました。
かすり傷みたいなものです。
では、とくに仲よくもない人からいきなり「Bは彼氏と上手くいってるの?」という質問をされたらどう思いますか。
もしも初対面の人だったら?
気まずいってもんじゃないでしょう。
さっきの気まずさがかすり傷だったとしたら、この場合の気まずさはアルマゲドン級だと思います。
人によっては気まずいどころか、不快感、ましてや怒りさえも湧いてくるかもしれませんよね。
多くの人が会話ベタになってしまう理由。
それは聞き上手、つまり訊き上手になろうと躍起になってしまうこと。
質問ばかりしていることが、会話上手になろうともがいているあなたの足を引っ張っているという事実に、あなたは気が付いていたでしょうか。
自分の意見や思っていること考えていることを口に出さず、相手に質問ばかりする、というのは会話界では重罪にあたります。
別の言葉で端的に言えば、『尋問』という言葉がふさわしい。
あなたはすてきな会話をして、相手のことを楽しませたいと思っています。
もっともっと相手のことを知りたいと思っています。
あなたはその人の心からの理解者、共感者になりたいですか。
それとも、警察署のうす暗くホコリ臭い取調室ではたらく尋問官になりたいですか。
会話上手になるためには、まず自分の思っていること、話したいことを話すのが基本中の基本なんですね。
【キャッチボールを超える比喩】
『会話はキャッチボール』とはよく言われますよね。
この喩えの素晴らしいところは、会話のシンプルな本質を100%余すところなく、表しているところだと私は思っています。
自分がボールを投げる。(自分はこう思う。『提起』)
「返してくれ〜と」声をかける。(あなたはどう思う?『質問』)
相手がボールを投げ返してくれる。(相手はこう思う。『返答』)
相手の返投(返答)をちゃんと受けとめる。(えー!そうなんだ。ふむふむ。分かるわー。は?何いってんの?『適切なリアクション』)
余談になりますが、私は未だかつてキャッチボール以上に会話の本質を表した比喩を聞いたことがありません。
もしもこれを超える喩えを誰かが発明したとしたら、ノーベルコミュニケーション賞を与えてあげてください。
さて、キャッチボールと同じように会話では自分からボールを投げることが本質から外れないための必然であり、唯一の方法です。
しかし今まで聞き上手になろうとしていた人たちにとって、自分の思っていることを素直に話す、というアクションはかなりハードルが高いことのように思えます。
そもそも多くの人たちが、なぜ聞き上手になろうとしていたのか。
自分のことを素直に話さなくてもいいということが、サプリのようにお手軽で楽な営みだったからということでしょう。
自分の話をしなければ、間違うこともない。
自分の話をしなければ、つまらないヤツだと思われることもない。
傷つくことがないから。
恥をかくこともなくなる。
でもちょっと考えてみてください。
もしも会話における正解が自分の話をしないことなんだとしたら、人と人が会話をする大義名分というか、根底が揺らいでしまいます。
それにもともと、日本人は外国人と比べて自己主張することが少ないです。
『空気を読む』という言葉があるとおり、日本人は最初から共感能力の比較的高い文化で育っているのですから、これ以上聞き上手になってしまったらあなたは単なる尋問上手になってしまいます!(笑)
【では一体何を話せば良いのか】
結論から言うと『なんでもいい』ということになります。
身もフタもないことを言っているように思えるかもしれないのですが、私は投げやりでもなんでもなく、かなり大真面目に言っています。
あなたの話したいことを話してください。
天気のこと、朝職場に着く前に起こった出来事。
趣味のこと、だいすきな食べ物のこと。
付き合っている人のこと、今ハマっている音楽のこと。
たいせつな家族のこと。
お昼ごはんはなにを食べようか。
あなたが日頃どんなことを考え、なにを思い、なにを伝えたいか。
それが会話のタネになります。
全てはそこから始まるのです。
その上で「あなたはどう思う?」と聞けばいいんです。
チェスのルールを守らずに、チェックメイト出来るプレイヤーはこの世界に存在しません。
会話のルールにしたがって会話をすることこそが、あなたがちょっぴり会話上手になるための第一歩になるんですよ。
テクニックを覚えるのは、会話上手になるための身体や筋肉ができてから。
それはもうちょっとだけ、先のおはなし。
【ななびのちっちゃなあとがき】
何かものごとが上手く行かないときは、パラダイムシフトを起こさなければならないタイミングであることがよくあります。
自分の進んでいる道がゴールに向かって続いているのか。
細かく細かく見直すクセを付けましょう。
さて、感想は随時受け付けています。遠慮せずに書き込んでやってください。
あと、動物にエサをやらないでください。
ですが、きつねは質問などが大好物です(*´ェ`*)
読んでくださって、ARIGATO! ななび