幸福の捕まえ方
「幸福と見えるものがえてして、欲望という、
自分でも制御できないものに翻弄されている
不自由な状態である」
カント『純粋理性批判』
「幸福」はみんな捕まえたいのに形がない。
とらえどころの無いものです。
今日はこのカントの言葉から、
「幸福」に形を与えて、捕まえやすいものにしたいと思います。
〈欲から離れて動けない〉
「幸福が欲望に翻弄されている」とはどんなことでしょう。
欲望にも色々ありますが、代表的なものは5つです。
珍しい美味しいものが食べたい「食欲」
プレミアムなモノが欲しい、お金が欲しい「財欲」
好きな人と一緒にいたい「色欲」
注目されたい、認められたい「名誉欲」
眠たい、楽がしたい「睡眠欲」
欲を満たしたときに「幸福」を感じます。
朝起きてから寝るまで何を考えて生活しているか、
頭の中を振り返ってみると大体上の5つにあてまはるのでは?
人によってどの欲が表に出るかは様々ですが、
自分の行動の動機を考えてみても、だいたいこの5つです。
「世界の人を幸せしたい」という気持ちを
詳しくでのぞいてみれば、
「多くの人に喜ばれたい、感謝されたい、認められたい」
という心ではないでしょうか。
立食パーティーでは
テーブルの大皿にチキンやポテト、
美味しそうな総菜が並びます。
どんどん手を出す人もあれば、手を出さない人もあります。
あなたはどちらのタイプですか?
いの一番に手を出して食べるのは「食欲」
遠慮するのは「名誉欲」でしょう。
「理性」という言葉もありますが、
欲を天秤にかけて、重くなった方に行動しているのかも知れません。
欲に動かされていることが分かります。
〈どこまでも膨張する欲〉
もう一つこの欲望がやっかいなのは、キリがないところです。
無ければないで「欲しい」と思うし、
あればあったで「もっと欲しい」と膨らんでいきます。
パソコンでデータをまとめたり、
文章を打ったり、デスクワークが多くなると
甘い物が欲しくなってきます。
近所のコンビニに行って箱入りのクッキーを買う。
一枚食べるともう一枚、止まらなくなって、一箱食べきってしまいます。
「ノミはノミの糞をし、象は象の糞をする」
お金や財産を多く持っている人ほど、欲も大きくなるという諺。
学生アルバイトの時は月10万も稼げば十分と思いますが、
収入が増えるほど100万、1千万、1億、10億...と
どんどん欲は膨張していくでしょう。
ロシアの文豪トルストイの短編に、
次のような寓話があります。
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昔、隣接する大国と小国があった。
人口が少なく広大な土地が遊休している大国にたいして、
小国は、人口密度が高く狭小な土地を取りあいコセコセしていた。
大国の王様があるとき、小国の農民たちに触れを出した。
「オレの国へくる者には、土地をほしいだけ与えよう」
「王様、ほしいほどとおっしゃいますが、本当でございましょうか」
半信半疑でやってきた小国の農夫たちはたずねる。
「ウソは言わない。見わたすかぎりといっても区切りがつかないから、
おまえたちが一日歩きまわってきた土地を与えることにしよう。
ただ一つ条件がある。朝、太陽が昇ると同時に出発し、
角々に標木を打ち、太陽の沈むまでに出発点にもどることだ。
その間、歩こうが走ろうが、おまえたちの勝手だが、
一刻でも遅れれば、一寸の土地も与えぬから注意せよ」
農夫たちは、その広大さを想像して胸おどらせた。
さっそく一人の男が申しでて翌朝、太陽とともに出発した。
最初は歩いていたが次第に足が速まり、やがて小走りになり、
本格的に走り始めた。歩くよりも走れば、
それだけ自分の土地が広くなるという欲からである。
当然、標木を打って曲がらねばならぬ所にきていても、
欲は、もっともっとと引きずった。
太陽が中天に輝いていることに驚き、標木を打って左へ曲がって走った。
昼食も走りながらすませる。午後は極度に疲れたが、
服も靴も脱ぎ捨てて走った。
もう夕日になっている。足は傷つき、血は流れ、
心臓は今にも破裂しそうだ。
しかし今倒れたら一切が水泡になる。
彼は出発点の丘をめざして必死に走る。
そのかいあって、太陽の沈む直前に帰着したが、同時に彼はぶっ倒れ、
後はピクリともしなかった。
王様は、家来に命じて半畳ほどの穴を掘らせ、農夫を埋めさせて、
つぶやいたという。
「この農夫は、あんな広大な土地はいらなかったのだ。
半畳の土地でよかったのに」
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「欲望」は自分でもコントロールがききません。
最初は「このぐらいあれば」と思うのですが、
満たすと「もっともっと」とせき立ててきます。
カントが
「幸福と見えるものがえてして
自分でも制御できないものに翻弄されている不自由な状態である」
と言っている通りです。
野菜やマスクの詰め放題。
ネットフリックスは月額1000円で見放題。
渋谷には毎月5000円でランチ食べ放題のお店がオープンしました。
「~し放題」には心惹かれます。
でもそこに落とし穴があったりします。
「あれもこれも」と見たり食べたりする中に
目が疲れたり、お腹が痛くなったり、
お腹も袋もぱんぱんになって、もう入らない!と
気持ちよさが苦しみになってしまいます。
自分の心なのに、自分ではどうしようもない。
ここが極めてやっかいところです。
暴れ馬を飼っているみたいな状態です。
やっつかいな欲の性質をまとめると以下の3つです。
①そこから離れて動けない
②キリがない
③コントロールが効かない
この馬をどうしたらよいでのでしょうか。
欲をお金に置き換えて考えてみましょう。
「お金」と聞くとなにか汚いイメージを持つ人もあるかも知れません。
お金というと「汚職」とか「詐欺」とか
トラブルにまつわることばかりメデイアで取り上げられるからでしょう。
そして学校ではほとんどお金について教えてくれません。
だから漠然と「お金」は汚いというイメージがあるのでしょう。
でも「お金」は決して悪いものではありません。
何に遣うか?が問題です。
10万円でパチンコを打つことも出来れば、贈り物をすることも出来る。
100億円で兵器の製造も出来れば、難民を助けることもできます。
何に遣うかでお金が生きるか死ぬか変わります。
お金に遣われないよう、お金を遣う人になる。
同じように、欲に遣われない人になる。
その「欲」で何をするか?が大事でしょう。
「あれがしたい」「これが欲しい」と思ったとき、
一呼吸おいて、その先はどうなるのか、
目的をよく確認するのが「幸福」を捕まえるコツではないでしょうか。
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