不死者は定命者の夢を見る 第三幕
第三幕 おでんの男
セツナが不死宮と輪廻に出会い、不死宮の店を手伝いながら数か月が経過し、梅雨の時期になる頃、ふらりとにやけた男が現れた。
黒い服装に軽やかな服装。安上りのブランドのものでありそうなありきたりな服装。
あまり感情が読めなさそうな柔らかな笑み。
店長の昔からの知り合いの男らしく、物腰は柔らかくどこか軽薄そうで人懐こそうな声の男、顔は特別目立つような顔立ちはしておらす、マニアック玩具やゲームの話をするだけの謎の男、通商おでん。仕事は現場系の技術職という話だが、それなりに小説家としても活動をしていてそれなりに稼いでもいる。
「おでん、また珈琲で粘るのか」
不死宮に言われながらも肩をすくめながらため息をつくと
「金がねえ」
「堂々と言うな、お前また競馬か」
おでんの物言いにため息をつくと不死宮はまた珈琲を淹れる。
「出世払いだぞ」
「サンキュー、競馬にそんな仕組みあるかどうかわからないけどな」
おでんはうれしそうに不死宮の特製のブレンドのブラックの珈琲を飲む。
「セツナちゃんも大分慣れたみたいだね」
「まあな、覚えがいい、今では御老人達のよい相手になってくれてるよ」
不死宮は木目調のカウンターテーブルを拭きながら話す。
「それでなんで同族にした?」
おでんはにこやかに笑うと誰にも聞こえないように告げた。
「永遠は人を心から変質させる、お前はあの悲劇を再びおこすつもりか?」
不死宮は肩をすくめると煙草に火をつける。
「不死になり、此の世の全てを虐殺しようとしたあの涼宮の話か?それならば大丈夫だ」
「確証でもあるのか?」
「勘だよ」
おでんは珈琲をすすると
「…頭沸いてんのかといいたいとこだが、お前の勘はあたるからな」
はあとため息をつく。
「爺共にも声かけとくぞ、同族ができたって」
「怖いね」
「相談もせずに増やすからだ、ばあか」
おでんは珈琲をのみほすと
「友人として忠告だ、俺たちは不死であり不老であるが死なないわけじゃない、人間の亜種みたいなもんだ、戸籍や子孫として自分達をごまかしても気づく奴はいる」
煙草に火をつけて
「隣人になるやつはよほどの善人かよほどの狂人だ、それは俺たちが知っている話だろう?」
「そうだな」
「わかってたらいい」
おでんは煙草を吸い終わると
「またくるぜ、不死宮、今日は仕事があってね」
「無職じゃないのか」
「お前とは今度とことん話さないとな」
おでんは笑いながらその場をあとにした。
「死を忘れ永遠を生きたとき人間としての生き方は変容するか」
不死宮はそうつぶやいた