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伝説の92に見る知識の欠如の重大さ
「伝説の92」とは
2007年3月に2ちゃんねるのスレッドで「92番」の書き込みをした女性を指す。彼女は自身の浮気が原因で離婚する際、「女性でも慰謝料を払うのか?」と質問し、さらに「離婚の慰謝料と浮気の慰謝料を差し引きしなければいけないのか?」と発言した。
この発言は、離婚時に必ず夫が妻に慰謝料を支払うと誤解していることを示しており、スレッド内で大きな反響を呼んだ。この出来事は「伝説の92」として今なお語り継がれている。
92について
彼女は、離婚時の慰謝料に関する基本的な法律知識を持っておらず、性別に関係なく有責配偶者が慰謝料を支払うという事実を理解していなかった。
自身の浮気が原因で離婚に至るにもかかわらず、慰謝料を受け取れると考えるなど、自己中心的な思考が見られた。
一般的な社会常識や倫理観に欠ける発言が多く、他者への配慮や責任感が不足していると受け取られた。
これらの問題点が、スレッド内での批判や嘲笑を招き、「伝説の92」として語り継がれる要因となった。
92の認知状態
92には、ある種の確証バイアスが存在したといえる。このバイアスは、自分の信念や価値観を強化する情報だけを受け入れ、それに反する情報を無視する心理傾向を意味する。
人間の脳は、認知的負荷を軽減する仕組みが存在する。
人間の脳は、膨大な情報を処理する際、効率を重視する。自分が信じていることをそのまま受け入れる方が、矛盾を解消するための思考や検証よりもエネルギーを節約できるため、偏った情報を信じることが多い。その結果、自分にとって都合の良い情報だけを収集・解釈し、現実とのギャップを無視する傾向が生まれる。
92の認知状態もまさしくこれがあてはまる。彼女は「慰謝料は男性が払う」という単純化した知識に依拠し、自分の行為を評価していた。加えて、92が「慰謝料は男性が払う」という偏った知識を信じ、それを補強するために2chスレに現れたというのは責任を軽視した行為であるといえる。自らの浮気という事実や、それに伴う責任を認めるのではなく、「自分も慰謝料を受け取れるのでは」という希望的観測を優先しており、極めて悪質である。
ジェンダーバイアスを助長する社会
日本の伝統的なジェンダー観として、歴史的に男性が家計を支える役割を担い、女性が家庭内の仕事を担うという価値観が強く存在していた。そのため、離婚や家庭内問題が発生した場合、経済的責任が男性にあるという固定観念が生まれたといえるだろう。
2000年代の日本では、未だに固定化されたジェンダー観が根強く残っていた。共働き家庭が増え始めた時代であったが、多くの過程では女性は家事育児を担うことが「当然」というフレームが存在した。
こうした悪質な考えは、メディアや物語の影響も無視できない。
2004年には「離婚弁護士」というドラマがあり、そこでは浮気による慰謝料を払うシナリオが多く展開された。ドラマや映画、フィクションの中では「浮気した夫が慰謝料を払う」というシナリオが頻繁に描かれることがある。これにより、「慰謝料は夫が妻に支払うもの」という誤解が一般化した可能性が高い。また、ワイドショーでは、不倫問題や離婚問題の報道の中で某タレントが「不倫は文化」と捉えられるような発言をした。また、多くのケースは男性有責であるため、「夫が悪い」「夫が慰謝料を払う」というイメージが強調されていた。視聴者はこれを一般的なルールとして捉えたと推察できる。
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また、こうしたワイドショーやドラマは多くの場合、女性が視聴するケースが多い。2000年代当時は、インターネット利用が拡大しつつあったが、未だにブログや掲示板が主流の時代で、情報の信頼性を検証することが困難であったこと、分かりやすい情報が少なかったこと、そもそも女性のインターネット利用頻度がそれほど多くなかったことなどが重なり、92のような女性が一定数存在したと推察できる。
以上の事から、伝説の92を生み出した背景には個人の認知能力の未熟さがあるが、それとは別に社会環境にも問題が存在したことは言うまでもないだろう。
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