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メディアの迷走ー斎藤知事を巡る公選法違反疑惑とPR会社の主張ー


兵庫県知事選は思わぬ方向へとシフトしている。

きっかけは、斎藤知事の選挙公報を担当したとされるPR会社「merchu」のオーナー、折田楓氏の暴露noteである。

noteの中で折田氏は、斎藤知事の再選のために広報活動の一環として、「兵庫の躍動を止めない!」というキャッチコピーの作成や「#さいとう元知事がんばれ」というハッシュタグを考案したという。

記事の内容は以下の通り

コピーは、以前の「躍動する兵庫」から「兵庫の躍動を止めない!」へ。
カラーは、兵庫県旗の色を意識した「兵庫ブルー」をベースとした斎藤さんオリジナルの「さいとうブルー」に一新しました。斎藤さんの持つ、芯の強さと柔らかさを、グラデーションカラーで演出しています。

メインビジュアルの統一を徹底するため「デザインガイドブック」の作成も合わせて行いました。選挙カーや看板を制作してくださる業者に配布し、統一したデザインで素敵に仕上げていただきました。

その他にも、ポスターやチラシ、選挙公報の仕様について

今回、既存のやり方は通用しないと考えていたため、紙媒体も既存の型にははめず、斎藤さんのことを分かりやすく様々な年代の県民の皆さまに届けるためにはどうしたら良いのか、仕様やサイズの異なるそれぞれの媒体でのベストをデザインチームと日夜追求しました。

中略

中でも最も作成に時間を要したのが、こちらの公約スライドです。ご本人から上がってくる文字のみのワードファイルを読み解き、どのような方でも見やすいデザインを意識したスライドに仕上げるため、2024年10月23日に行われた記者発表のギリギリまで手直しをしていました。

また、PR会社のSNS運用に関しては以下のような言及もしている。

当選後の日経新聞の記事や大手テレビ局の複数のニュース番組でも、「400人のSNS投稿スタッフがいた」という次なる「デマ」がさも事実かのように流されてしまい、驚きを隠せないと同時に、「私の働きは400人分に見えていたんや!」と少し誇らしくもなりました。そのような仕事を、東京の大手代理店ではなく、兵庫県にある会社が手掛けたということもアピールしておきたいです

読み手に不信感を与えてしまった記事の修正


さて、興味深いのは折田氏のnoteは公選法違反疑惑を受けて「修正」された記事内容であるという点だ。

有志の行った「魚拓」を確認すると、

①斎藤知事との面識

修正前:兵庫県庁での複数の会議に広報PRの有識者として出席しているため、元々斎藤さんとは面識がありましたが、まさか本当に弊社オフィスにお越しくださるとは思っていなかったので、とてもうれしかったです。

修正後:文をすべて削除

②ハッシュタグの提案とメルチュ社内で斎藤氏と折田氏らが打ち合わせしている写真

修正前:「#さいとう元知事がんばれ」大作戦を提案中
修正後:「#さいとう元知事がんばれ」を説明中

修正前〈ご本人は私の提案を真剣に聞いてくださり、広報全般を任せていただくことになりました〉
修正後 文をすべて削除

③SNS運用に関して

修正前:SNS運用に関するフローを添付

修正前に添付された画像

修正後:画像を削除

④冒頭部分の削除と復活

「『広報』というお仕事の持つ底力、正しい情報を正しく発信し続けることの大変さや重要性について」という文章は、一時削除されていましたが、その後復活しています。

他にも修正箇所があるようだが、現時点で問題視されているのはこの四つの点である。

そして極めつけは以下の動画である

折田氏「広報全般を任せていただいておりまして、ポスターを作ったり、ビラを作ったり、SNS運用をやったり、YouTube運営をやったり、本当にこう選挙って広報の総合格闘技やなっていう風に思うですけど・・・・」

何が問題だったのか?

上記の記事だけを見れば、単なるPR会社の仕事であることは容易に想像がつくが、相手は選挙候補である。

当然ながら、選挙運動に関わる時点で一般人であろうと企業家であろうと、その行動は公職選挙法に拘束される。

兵庫県の選挙管理委員会の担当者によれば

「一般論として、業者に広報戦略を主体的に企画させたり投票の呼びかけをさせ、報酬を支払った場合、公選法違反となる場合がある

2013年のネット選挙解禁時に公開された総務省のガイドラインによれば、業者に選挙運動サイトを掲載する文案を主体的に企画・立案を行わせることや報酬を支払う場合には「買収」に該当する可能性があると記載されている。

折田氏のnoteを見る限り、選挙公報がビジネスとなっており、その全般を任されているかのような発言があることから、斎藤知事からの指示を受け、報
酬を得ていた可能性が高いのである。

公選法では、例えば事務員やうぐいす嬢などの運動員、手話に関してはアルバイトとしても問題ない。

しかし、電話をかけるなどで報酬を払うと「買収」に該当する。

ただし、報酬だったとしても、SNSではなく、ポスター制作やビラの作成費用であれば問題ない。これらはすべて公費で賄われる。

だが、折田氏のnoteには以下の文章も含まれていた。

私が監修者として、運用戦略立案、アカウントの立ち上げ、プロフィール作成、コンテンツ企画、文章フォーマット設計、情報選定、校正・推敲フローの確立、ファクトチェック、プライバシーへの配慮を責任をもって行い・・・・。

つまり、SNSを含めた広報全般を全て折田氏が行っていた可能性が高いのである。これは公職選挙法が禁じる「買収」に相当する可能性が高いのである。

斎藤知事の反論


当然ながら、斎藤知事はこの疑惑に反論した。

マスコミの取材では

「ポスター製作を依頼したのが事実」
「製作費として70万円ほど支払っています」
「あくまで斎藤元彦として依頼をしたのはポスターの制作など」
「ネット戦略は、ご意見やアイデアを聞いたが、斎藤元彦として主体的に対応した」
「私としては(折田氏は)個人としてボランティアで対応していただいたと」

この突然の事態に、斎藤元彦知事は困惑の表情を隠せない様子だった。


斎藤元彦事務所がPR会社に支払った報酬の内訳

また、斎藤元彦知事の代理人弁護士によれば、画像のようにPR会社へは「71万5000円」を支払ったことを公開した。

27日の会見では請求書も見せるとのこと。

ただし、代理人が公開したこの内訳に際して、PR会社が70万程度で破格の値段でSNS運用を請け負うだろうか?という懐疑的な意見が見受けられた。
というのも、メルチュは広島県でのSNS戦略で「1305万4800円」の事業を無競争で落札している。

つまり、SNS運用にも膨大な金額が必要であるということだ。

斎藤知事の代理人弁護士は「SNS」ではなく、選挙公報のデザイン制作などに報酬を支払ったとしている。

ただし、こちらにもネット上で反論が起きている。

ポスター関連の制作費用で70万は破格すぎて逆に怪しいということだ。これに関しては「着手金が70万なのではないか?」という指摘もあり、意見が分かれている。

ただし、これに関しても、「デザイン制作」であって当該アカウントが指摘する「印刷費」ではないことに注意しなければならない(宣伝費には含まれているかもしれないが)。

ただ、折田氏がインスタライブ配信の撮影を壇上で思い切り行っていた様子が撮影されていた。

つまり、ポスターデザインの制作だけではない「何か」を折田氏は行っていた。

だが、これは「折田氏が個人的にボランティアとして手伝っていた」と言われればそれまでかもしれない。
ただ、両社は金銭的な利害関係を持っているので、その反論が通用するだろうか?

筆者の「苦しい」見解


筆者の見解では、これは非常に不幸な認識の齟齬ではないか?と考えている。

第一に、事実として折田氏があまりにも「選挙運動」や「公職選挙法」に無知であるという点が目立っている。これは、折田氏のブログや動画、SNSなどを見ての印象である。

応援アカウントで期日前投票を呼び掛けているのもかなり素人である。通常、選挙プランナーであればそうした間違いは犯さないはずである。

つまり、折田氏は「選挙運動の常識を全く知らなかったのではないか?」ということである。

これはある一つの仮説を生み出す。

それは、折田氏が「選挙運動費用の相場も知らなかった可能性」である。

例えば、斎藤知事とその代理人は「71万でポスターデザインの制作をしてもらった」と主張している。これは事実であろう。

折田氏はそれを「広報全般の相場」と誤認し、全てを請け負ってしまったということである。そして折田氏は、受け取った70万の内訳を「誤解して全ての広報を行ってしまった」ということである。

ただし、この見解には苦しいものがある。
なぜなら、斎藤知事や事務所がその齟齬を認識していないはずがないからである。

斎藤陣営は藁にも縋る思いだったのではないだろうか?
斎藤知事のイメージはパワハラ告発によってかなり下がっており、そこに通常の選挙公報を専門とするPR会社が自社のブランドイメージを考えて、彼の依頼を拒否していたという内幕があるのかもしれない(普通はあり得ないが)。

そうでなければ、専門的でないPR会社に依頼しようとは考えないだろう。

そうした斎藤知事陣営の苦境が、こうした事態を招いたとしたら不運であるだろう。

開示請求ラッシュで見えてきた知事と折田氏の関係

インターネット有志が兵庫県に開示請求権を行使しており、折田氏に関連する情報を公開している。

折田氏は「空モビリティひょうご会議委員」に任命されており、同委員会の参加者には謝金が渡されるという。

つまり、以前より兵庫県政と折田氏は利害関係にあったことが伺えるのだ。

その利害関係の一つとして疑われているのは「ひょうごe-県民アプリ」のリニューアル

アプリ開発・運用に関して折田氏率いるメルチュが業務を行っていたことが明らかとなり、これらのことがきっかけで、斎藤知事と面識があったということがわかる。

400人のデジタルボランティアはデマ?

折田氏はデジタルボランティアを400人動員したとする日経新聞の記事に反論していた。

これは恐らくデマである公算が大きい。

ただ、日経新聞の当該記事は発見できなかった。恐らくだが、マスコミの報道を耳にしたネット上の反斎藤派が拡大解釈したデマである可能性が高い。

そのため、折田氏が「マスコミがデマを流した」とする見解もまたデマである可能性がある。

おそらく、ネット上の親斎藤派の有志を反斎藤派は折田氏が用意したデジタル運動員と曲解したのだろう。

何が正解なのか?

公職選挙法の「買収」に該当するかが争点となる。

こう見れば単純なように見えるが、折田氏や斎藤知事を巡る問題には様々な専門用語の応酬がある。

今のところ、我々ができることをこれを機会に「公職選挙法」をきちんと学ばなければならないということだ。

ただ、一つだけわかることは、この一件を笠に着て斎藤知事と折田氏に対する人格攻撃を行うのが「正解ではない」ということだ。

無論、筆者は、個人攻撃を行うSNSユーザーは批判されるべきであり、斎藤知事と折田氏は積極的にそうしたユーザーを訴訟しても良いと考えている。

ただし、大衆がここまで彼らを攻撃する原因が何か?と問われれば、それはマスコミのメディアスクラム・過熱報道に他ならない。

この件に関して、マスコミは「責任」を負わないのだ。これが親斎藤派の言う「マスコミは真実を述べない」という主張に直結している。

斎藤知事や誹謗中傷を行ったユーザーは痛い目を見るが、マスコミは彼らに「何の責任も負わない」のである。

マスコミ無責任論に関しては、徹底的に追及するべきだろう。

選挙コンサルやプランナーは悪か?

選挙公報や戦略を考えるプランナーの存在自体を問題視する意見もある。

2019年には以下のような問題もあった。

これは選挙コンサルタントに対して被告が「選挙カー運動員4人の手配名目で約75万円を支払った」ことに対して、公選法違反ではないかとする裁判である。

判決では「仲介者が不破被告のために選挙カー運動員を手配し、投票を呼びかけさせたことは選挙運動に該当する」と判断した。

公選法では「特定の選挙で候補者を当選させるため投票の呼びかけなど有利な行為をすることを選挙運動」と定義しており、報酬の支払いは禁じられている。

そのため、選挙コンサルタントが行うのは「候補者のイメージ戦略」や「票読み」などである。これらの相談料として報酬が得られる仕組みである。

注意しなければならないことは、選挙コンサルタントの活動の中に「選挙運動に該当する行動」があれば、その相談料は違法と判断される。

今回の折田氏の行動は「公選法を理解せずに、選挙活動にまで介入してしまった」ことを含め、プランナーやコンサルとしての常識が全くなかったと言わざるを得ない。

選挙プランナーの戸川氏は「守秘義務」や「個人情報の取り扱い」などにも言及した。

折田氏は、選挙プランナーや選挙コンサルタントとしてだけではなく、一企業の代表として、ビジネスウーマンとしての最低限のルールにも違反していた。

ビジネスは遊びではないのである。

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七尾えるも
この度はチップをありがとうございました。

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