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記者会見の意義と矛盾するフジの対応
フジテレビは10時間に及ぶ記者会見を実施した。これによって果たして世間を騒がせている問題の全容が把握できたのだろうか?
厳密にはこれは「改革の始まりに過ぎない」と位置付けるイギリスの投資会社が存在する。それは間違いないだろう。
そもそもなぜ記者会見を行うのか?
フジテレビは、タレントの中居正広さんと女性との性的なトラブルに関連し、社内のガバナンスやコンプライアンス体制の不備が指摘されたことを受けて、1月27日に記者会見を開いた。
この会見では、嘉納会長と港社長の辞任が発表されたが、日枝久相談役の進退については明確な説明がなく、経営体制の刷新に対する疑問の声も上がっている。
この会見に先立って、同社は1月17日にも記者会見を実施した。しかし、公共のテレビ局であるにもかかわらず、動画撮影を禁止したことが批判を招き、「紙芝居会見」「テレビメディアの自殺」と揶揄された。この対応がさらなる批判を呼び、再度の記者会見開催に至った。
そのため、記者会見の本来の目的は以下の通りである。
①フジテレビが実施した中居氏と被害女性に対するコンプライアンス対応の説明
②フジテレビが実施したコンプライアンス遅延の説明(中居氏の起用継続の理由やヒアリング調査の実態など)
③フジテレビがなぜコンプライアンス推進室に報告するような相談体制を取らなかったのかの説明(社長主導の理由・人権意識の欠如)
④上納システムの有無(人権侵害はあったのか?)
⑤日枝相談役の役割と体制について(人権侵害を誘発しかねない企業体制が存在するのか?)
⑥フジテレビの今後のコンプライアンス刷新計画(今後どうするのか?)
⑦なぜ「紙芝居会見」を実施したのかの説明
⑧会長及び社長の辞任理由の説明
これらを説明する必要があった。
日枝相談役の存在
しかし、特に④と⑤を説明するためには「日枝相談役」が会見の場に現れずとも釈明する文書や映像を公開する必要がある。記者会見の中でフジ側は「管理権を持つのはあくまでも会長と社長」として「相談役の業務範囲外」と日枝相談役を擁護することに終始していたが、これは理由にはならない。
なぜなら日枝相談役はフジテレビに絶大な影響力を持つ経営者であり、現在のフジメディアHDの経営体制を構築したのは他ならぬ彼だからである。
記者から40回近く日枝相談役に対する言及があったのも、このフジテレビ問題の最大の要因に日枝相談役の存在があるのは確実だからである。
当初は隠蔽を画策していた?
会見では中居氏と被害女性の性的問題に関する①と②、③、④の説明が多くあった。当然ながらフジテレビが「中居氏と女性の関係」を議論する必要はない。しかし、女性からの「相談」を受けた関連社員A氏が2カ月かかって港前社長に報告し、それから2年余りコンプライアンス推進室に通報しなかったのは「隠蔽」を疑われても仕方がないのである。
港前社長は「彼女の心身の常態を最優先にし」、「少人数でという希望、女性の心身の状態等をそばで見ている医師や、接触している社員がそう判断して、なるべく少人数で職場復帰できるまで寄り添っていこうということで進めてきた」と主張している。
しかし、この主張にはいくつもの疑問が残る。
確かに性被害を受けた女性に対する「心身の健康の考慮」や「職場復帰の支援」は重要な事柄である。そのため、医師の意見や社員の意見を参考に資、女性の精神的負担を軽減しようとしたと受け取ることは自然であるだろう。
会見では女性の「心身の状態」や「少人数でという希望」がどの程度女性自身の意思に基づいていたのかが不明である。外部から見た場合、「会社側が独自に判断し、彼女にとっての最善ではなかった可能性」が捨てきれないのである。
さらに「少人数の対応」や「寄り添う」という行動が、問題を外部に公表しないための保身であったのではないかという疑念が生じる。この場合、女性の心身の健康が優先されているようで、実際には会社側の利益が優先された可能性があるのだ。
ここで1月17日の「紙芝居会見」後の女性の主張を紹介したい。
「私自身の被害について社内でどのくらいの人が知っているのか、とアナウンス室局次長の佐々木(恭子)さんに確認したら『3人だけ』と言われていたんです。それが会見では社長も知っていて、かつ相手方からも連絡を受けていたのにそのまま複数の番組を続けさせていた。もしトラブルが世間に公にならなかったら、ずっとテレビに出続けていたのかと思い、深く絶望しました」
「最初に相談が始まった経緯について、港さんは私の様子がおかしいと気づいた社員が『声をかけた』と説明していました。ですが、私から上司に声をかけて相談したのに、微妙に話を変えられたなと」
「(港社長の誕生日会の出席では)私は港社長とはほぼ初対面なので、『なんで私が?』とは思いましたが、(編制幹部の)Aさんに言われて参加させられました。会見で港社長は『飲み会の参加は自由』と仰っていました。ですが、偉い人との飲み会を若手社員が断われるわけないじゃないですか。今のように不透明なまま調査をしても、フジの実態が明らかになるのかは疑問です」
このことから、以下のことが分かる。
①フジテレビは被害女性に対して知っているのは「3人だけ」と報告していた
②しかし、実際は「社長も」知っていた。
③被害女性は「社長が知っていることを知らされていなかった」
④社長が知っていたにも関わらず「フジテレビは問題を先送り」していた
この女性の証言が事実であれば、フジテレビは隠蔽を画策した可能性もあるのだ。
隠蔽を画策していたという疑いのもう一つの点は、港前社長の対応について「コンプライアンス推進室に報告していなかった」という事実である。
社内の適切なコンプライアンスプロセスを踏まず、独自の判断で進めたということは、問題を公にせず、隠蔽しようとする意図があった可能性を示唆している。このような行動は、会社の利益を優先し、女性の本当のケアを軽視したと思われる。
問題がコンプライアンス推進室に報告されていれば、適切な調査や対応が行われ、透明性が確保されていたはずである。しかし、それを避けたことで、港前社長が問題を矮小化し、世間からの批判を回避しようとした意図が疑われる。
加えて、表向きは「女性の心身を最優先に」としながらも、コンプライアンス推進室への報告がなされなかったことで、女性本人の意思や福祉が軽視され、むしろ会社の都合で対応が進められた可能性が出てくる。
コンプライアンスの失敗
コンプライアンスに関する社内規則を無視し、問題を独断で処理しようとした行為は、フジテレビ全体のガバナンスやコンプライアンスの弱さを示している。特に、こうした問題は企業の信頼性に直接影響を与えるため、重大な対応ミスである。コンプライアンス推進室への報告がなければ、組織全体での課題の共有や再発防止策の議論が行われる機会を失っている。このことは、女性への配慮のみならず、同様の事態を防ぐための組織的対応がなされないリスクを生じさせるのである。
港前社長「コンプライアンス推進室など、会社全体にはその他にもフォローする組織もありました。もう少し女性のお手伝いをしてあげればよかったかなという思いがあります」と会見の中で説明している。
後の祭りである。
フジテレビは「(コンプライアンスに関する)ルールはありますし、機能もしています」と話している。
特殊な案件だったという苦しい言い訳
港前社長「この案件に関してはいわば特殊な案件として進めてきたということが現実です」
遠藤副会長は「今回のケースは非常にプライバシーの観点から共有しづらいもので難しい問題でした。通常ではそんなことはない。一番多いのはセクシュアルハラスメント関連ですが、その時はその方のメンタルヘルス(心の健康)を一番に考えている。1度(報告を)上げて、もう1度その方と話すといったことでやっている」
先日の会見で、フジテレビは中居氏と女性の問題を「特殊な件」「プライバシーの観点から共有が難しい」と釈明していた。
しかし、ちょっと待ってほしい
特殊な件であり、プライバシーに配慮しなければならないのならばそもそも人事に影響を与える社長クラスが事態を把握しているのはおかしいのではないだろうか?
そもそも、それほど特殊な事情であるならばそれこそ「コンプライアンス推進室」に通報し、専門家の意見を聞く必要があるだろう。
個人情報取り扱いに関して法的にも素人である部類の人物が手を出してよい問題ではない。
この点でフジテレビの釈明は整合性が全くないのである。
記者の質問では
「特殊なのは性加害の可能性ではなくて、大物タレントの中居氏がいたからでは?」と核心を突くような内容も飛び交った。つまり、影響力も地位もない人物のハラスメント事案は「特殊ではない」というフレームワークになっている可能性もある。
この点でフジテレビの会見目的である①と②、③に関する説明は禍根を残す形となったのである。
フジテレビは第三者委員会を設置し、社内のガバナンスやコンプライアンス体制の見直しを進める意向を示した。これは記者会見の最低限の内容であり、具体的にどうするかは不明である。
結局、記者会見の目的は遂行できたのか?
それは誰にもわからない。
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