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深夜の妄想レッスン

最近マッチングした人は、いい感じの人だった。結婚願望あり、真面目で誠実そうなプロフィール、理系で半導体設計の仕事をしていて、IT系の私とも話が合いそうだ。写真や文学にも精通していて、理系なのにそういうギャップがたまらなくて、彼なら90分の映画を3時間は考察してくれそうだ。極めつけはメガネで色白。そして温泉旅行好き。

あぁ、もう既に好きだ、あなたが温泉を好きなこと以上に私があなたを好きだ。。論理的な帰結として、私にはもう、二人の将来が見えるのだ。


雪景色の銀山温泉で浴衣を着て外に出る。寒いねーって言って、そっと彼が手を繋いでくれて、二人で家族へのお土産を見に行く。彼はとても家族思いで、両親と2つ下の妹、それぞれの食の好みがわかっていて、一人一人にきちんと選び、そして、私の両親にも何か買おうかと提案してくれるのだ。えー別に良いよそんなのと素っ気ない態度をとりながら、内心では「あーやっぱりこの人と家族になったら最高だよな、苗字くれよ、はよくれぇい!!」って思っている。
一生懸命選んでいる彼を横目に、私はいつの間にか出店の野川豆腐の醤油の匂いに誘われている。二切れ200円もするのだけど何の躊躇もなく買い、リスのようにめいいっぱい口に頬張る。夕食前なのに…と言いたげな彼は呆れ顔だったけど、それが最高に愛らしい。
外はすっかり日が暮れ、私達は食べ歩きをしながら宿へと戻る。豆腐の湯気なのか寒いからなのか、二人の吐息は大量に白い蒸気として舞い、周囲のガス燈の光が散乱する。オレンジのもやが街全体を覆っているかのような風景に、これが白昼夢と言うやつかとぼんやりしながらも、彼の手のぬくもりだけは確かな現実として噛みしめていた。



長々語っているが、まだ彼とは一通もやり取りはしていない。他人だ。イニシャルしか知らないし、2個下の妹の存在も分からない。それなのにもうヴァージンロード手前まで話が進んでいる。

彼の月のいいね数は200超えで、男性でこの数値は破壊的。もう、これは攻めるしかない。行くしかないのである。当たり障りのない会話ではきっと埋もれてしまうだろうから、なんとかファーストインプレッションで引っかかる何かを植え付けねばならない。

そして、一球入魂の初メッセージがこれ(ほぼデフォルメ無し)。

「今、半導体ってコロナ影響で需要が減少することを見込んだせいで現在、世界的に不足状態ですよね、お仕事はやっぱり忙しいでしょうか???
私はIT系なんですが大打撃で、CPUが作れず、サーバの調達が遅れ、その後のアプリテストもどんどん遅れる。いやもう、とんでもなくカオス状況です笑笑」





あれから72時間が経過した。いまだ返信が無い。彼はグリーンランプ。ログインをしている。返信まだかなー、まだなのかな???いや、いま打鍵中なのかなwwww????とソワソワして就寝。





翌日深夜、冷静に振り返る。うん、大分キモチワルイ。今客観的にこの文章を見たが、文字面だけで「なんか早口で喋ってそう」というのが分かる。このメッセージを送った私は、私から見て嫌いなタイプだった。他人の話の途中で勝手に要約を始め、聞かれてもない見解を語るヤツだこいつは。

仕事が忙しい、ちょっと疲れてるのかな。。だからこんなこと書いちゃうんだよね…って自分に言い聞かせないと死ぬ。まじで。



おしまい


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