Day6】ss7 〜1000字
彼女は家から全然出ない。そして僕も。
遠い昔に外出したことがある気がするけれど、今現在は海へ誘っても、山へ誘っても頷かない。流行りのカフェや演劇や、家の庭でさえ。
生活用品は魔法の通販で賄えているけれど、僕の気持ちはもう限界だった。
「もういい、僕一人で出掛けるよ!」
彼女は僕を止めない。初めて料理をしたいと言ったときも、癇癪をおこしてクッションを切り刻んだときも。口では止めても無理には止めなかった。僕自身に傷をつけようとしたときだって、悲しそうな顔で話しかけてくるだけ。
今回だってどうせそんなものだろう。
本当に、本当に駄目ならきっと止めてくれるはず。
僕のことをどう思っているのかわからない不安と閉じ込められているストレスが、綯交ぜになって弾けた。
玄関の戸の前に立つ
「〜〜〜〜〜〜!」
彼女は僕から少し離れたところで何か叫んでいるけれど、ぼんやりと水を通したかのような声でよく聞こえない。
ほら、やっぱり止めない。そう思いながらドアノブに手をのばす。
刹那
あれ?どうして家から出てはいけないんだっけ…?
何か、何か忘れている?
思い出そうとしても何も出てこない。
コップを倒してしまったときと同じように
ドアノブに向かう自らの手をただただ眺めることしかできない。
気がついたら僕はドアノブを握っていて、あたりは静寂に包まれていた。
何か頭をよぎった気がするんだけど、なんだったっけ?
……それより僕はこの玄関を開けなくちゃ。
太陽の光が降り注ぐ、ソトへ
《やっと、出てきたね》
ソトは真っ黒に塗りつぶされていた。
窓の外とは違って陽の光もさやさやとそよぐ木の葉と風も何もなくて
《愚かな子だよ、ずぅっと守られていたというのに。
自ら箱庭から出てきてしまうなんて》
振り返ってもあの暖かな家はない。ぬくもりを感じる玄関、ココアが置かれていた木のテーブル、そして彼女の姿も。
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