作品概要
伊坂幸太郎先生の作家生活25周年記念作品。物語は『所在不明の人工知能〈天軸〉の暴走で、世界が混乱に陥る近未来。開発者が遺した絵画〈楽園〉を手掛かりに五十九彦、三瑚嬢、蝶八隗の選ばれし三人は、〈天軸〉の在処を探す旅に出る――。』という短編。
雑感
伊坂先生らしく現代社会のトピックをユーモアと皮肉のスパイスで程よく味付けした構成や、物語の世界観を巧妙に表した装丁や挿絵が素敵な点など、全104ページというボリューム以上の満足感。
ちなみに、YouTubeのナレーターにアニメ『薬屋のひとりごと』猫猫役や『幼女戦記』ターニャ役などを務める声優の悠木碧さんを起用したのは個人的に大正解だと思っていて、可愛らしくもどこか陰りを帯びた語り口で、皮肉を語らせれば唯一無二の存在感を示す彼女は、実に適役だったかと(オタ成分がダダ漏れしてすみません・・・笑)。
惹かれたフレーズ
さて、本作で惹かれたフレーズをいくつか引用(作品の内容に直接触れますので、未読の方はご注意を)。
23ページ、小説『山椒魚』について
37ページ、アダムとイブの原罪について
44ページ、キャベツとアオムシの関係について
69ページ、人口知能『天竺』の暴走の原因について
77ページ、自然の集合知について
最後に(感想のまとめ)
世界が混乱した原因探しの旅のなか、旅の仲間はどんなものにもストーリーがあると思い込むのは人間の性質と語りつつ、行き着いた先がインターネットやAIの対極にある『NI』という結論。そして物語の結末へ。テクノロジーへの皮肉なのか、自然の摂理に関わる警鐘なのか、受け止めは様々と思いますが、実に楽しませてもらいました。
それにしても本作、先ほど紹介したような印象的なフレーズを密度を高めて紡ぎ、伝えたいことの解像度を徐々に上げていく様が実に美しかった。特に、81ページからラストまでの仕上げは、特にお気に入りのパート。
更に言えば、そんな感想に装丁や挿絵のイメージがマッチしたことで、一冊の本としての完成度が非常に高まったと思っています。
以上、作家生活25周年を飾るにふさわしい『楽園の楽園』のお話でした。