日本一のMCバトルイベント「KING OF KING」にいった。/2020年1月11日
KING OF KINGS(以下、「KOK」)にいった。
KOKとは、MCバトルの大会である。
と書くと、「MCバトル」の説明をせねばならぬ。めんどくさい。
けどまあ、どこのだれがこのテキストを読んでいるかわからないので、説明は厚めにしておいたほうがいいだろう。
「MCバトル」とは、2人(以上の場合もあるが、ややこしいので略す)のラッパーが、DJが流すビートに合わせて即興ラップでディスりあうイベントである。
その場で音楽にうまく乗れるか、即興でうまく相手をディスれるのか、あるいは相手のディスにうまく返せるか、などが競われる。
審査員は、遊びに来た観客たちやベテランラッパーなど、大会によって種々様々である。
ぐだぐだと説明するより、実際に観てもらったほうがはやい。
以下に例をあげておく。
関連動画を漁れば、公式・非公式を問わず、たくさんのMCバトルを観られるはずである。
以下、このテキスト内でも多めにリンクを貼ることにする。
さらに、数年前から、テレビ朝日で『フリースタイルダンジョン』というMCバトルの番組がはじまり、一時はヒップホップに興味がない層にまで膾炙した。
で、MCバトルは各地でいろんな大会が開かれている。そのなかで現在、いちばん優勝賞金が高く、チャンプになることで大きなプロップス(ヒップホップシーンからの尊敬、知名度)をえられるのが、KOKである。
KOKは各地の大会の優勝者と、独自の予選を勝ち抜いたラッパーたちで争われる。優勝賞金は300万円。
メジャーレーベルで活動するアーティストがまだまだ少なく、なんならリーガル・イリーガルを問わずさまざまな「副業」に従事せざるをえない、日本語ラップ界においては、莫大なマネーといえるだろう。
KOKは毎年、2019年シーズンの各大会優勝者がでそろったタイミングである1月の頭ごろに開催される。KOKは、その年のMCバトルシーンの集大成というわけだ。
前置きが長くなった。
2020年1月10日――ぼくは豊洲ピットで行われた「KING OF KINGS 2019」に参加した。
「観賞」あるいは「観戦」などと書かなかったのは、前述のとおり、MCバトルにおいては、観客が審査員を務めるからだ。KOKも例外ではない。ふたりのラッパーのよかったほうに観客は声援を送る。よりたくさんの声援を集めたラッパーが1ポイント。ほかに4人の審査員が1ポイントずつ持ち点を有している。
そして、5ポイントのうち過半数を獲得したラッパーが優勝。審査員はドローとジャッジすることも可能なので、過半数を保持できなかった場合は、延長戦となる。
つまり、ぼくたちヘッズもまた、「審査」という形で、イベントの進行にかかわることになる。だから、厳密な意味では観客ではない。
もちろん応援するラッパーもいるけど、審査をした上で、「相手のラッパーのほうがよかった」と判断した場合、ライバルに声援を送ることもある。
肝心のイベント内容は、熱いバウト連発で、非常に盛り上がったように思う。前年の優秀者呂布カルマのV2を阻止できるか――もっといえば、だれが彼を狩るかという「呂布カルマ包囲網」が形成されていた。
1回戦で呂布とあたるハメになった鎌倉の若手ラッパー・T-TANGGは、「今日はお前(呂布カルマ)が負けるのをみんな観に来てんだよ」と吠えていたが、たしかにそんな空気が会場を覆っていた気がしないでもない。
(参考動画)
KOKはイベントがはじまるまでトーナメント表が明かされず、なおかつ、組み合わせもいかなるプロセスで決定されているかあきらかにはなっていない。というかおそらく、KOK運営がなんとなくの青写真を描いたうえで、恣意的にトーナメント表をつくっている。
それに関しては、いかがなものかと思わないでもないけど、とにかく。
ディフェンディングチャンピオンである呂布カルマにいきなりぶつけられるT-TANGGは、酷なはなしではあるが、完全に当て馬である。個人的には、若手ラッパーのなかでいちばん好きなので、同情を禁じえない。
その後、呂布カルマは人気・実力ともにトップクラスのラッパー・MU-TONをぶつけられる。個人的にはこの試合が、本日のベストバウト。
(参考動画)
なんとか辛勝を果たした呂布。
しかし、つぎに立ちはだかるは、レペゼン宮崎のラッパー・Rawaxx。
呂布カルマとRawaxxは前年のKOK決勝でもぶつかっており、そのときは、「フリースタイルダンジョン」などのメディア出演を重ねる呂布を、Rawaxxがアンダーグラウンドから批判するというーーぶっちゃけ、ヒップホップ界ではよくある「オーバーグラウンド/アンダーグラウンド論争」が展開された。
しかしこのふたりは、そのまえに開催された大阪のMCバトルイベント「SPOTLIGHT」でも闘っており、その際も、似たようなテーマで争っていた。下の動画。
いずれも、論争に強い呂布カルマの圧勝という感じであった。
で、迎えた今年のKOK。
アンダーグラウンド、リアルなストリートであることにこだわるRawaxxは、三度おなじ論法でもって、呂布カルマを攻撃。正直、芸がない。しかし、それに呂布カルマは「俺に勝ちたいなら、べつの論点を探しな」と一蹴。今回も呂布の圧勝に思えた。個人的には。
結果は、意外にもRawaxxの勝利。ついに雪辱が叶った形であった。
個人の感覚がかならずしも観客多数の意見と一致するとはかぎらない。というか、KOKで勝ち上がるラッパーは実力自体はほぼ伯仲しているので、バトルのどこに注目するかで判定が変わるのもまた、おもしろい点だろう。
その後、Rawaxxは決勝に進出。青森の若手ラッパー・Authority.と延長にまでもつれた上で、みごと勝利をおさめた。
去年は1回戦で若手ラッパーが早々に姿を消していたので、負けたとはいえ、決勝まで残ったAuthority.はたいへん立派である。
ということで、今年もとても楽しいイベントだった。来年もいきます。
(終わり)
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