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【miss you考察】ドロップアウトした世界でワンマンショーをするのも、案外悪くない

みなさん、Mr.Childrenは好きですか?

いや、もういっそ好きでも嫌いでもどっちでもいいのです。2023年10月4日に発売されたMr.Childrenの新アルバム「miss you」があまりにも良すぎて、そして意味深すぎて、考察が止まらないので、とりあえず勝手に語らせてください!!

(職業ライターとはいえ音楽に特別精通しているわけではないいちファンの考察なので、「こんな考えもあるのね〜」くらいの生暖かい気持ちで読んでくれると嬉しいです)

「miss you」は「SENSE」の苦悩を回収している?

さて、「miss you」を語る前に、まず2010年発売された「SENSE」というアルバムについてお話させてください。

映画版ONE PIECEの主題歌となった「fanfare」や、NTTのCMソングに起用された「365日」などが収録されているこのアルバム。

発売直前まで収録曲どころかタイトルさえ発表されず、テレビや雑誌などのメディア出演も行わないことで話題となりました。

当時のミスチルは、あと数年でデビュー20周年を迎えようとしていました。スポンサーが求めるものではなく、純粋に自分たちが作りたいもの、ファンに「ポジティブな驚き」を与えられるものを作りたかったのかもしれない。だから、プロモーション活動を一切行わないことで、できる限り業界のしがらみを排除した「SENSE」をリリースすることに。とはいえ、「fanfare」や「365日」といったタイアップ曲も収録されていることから、すべてが自分たちの思うがまま、とはいきませんでした。

もうすぐデビューから20年が経つ。世間からは「日本でも有数の成功したバンド」とみなされている。なのにいまだに業界のしがらみから抜け出せない。でも、売上競争から離脱した世界で生きていけるか、想像することさえも怖い。

「イメージはドロップアウトした世界 さぁどうでしょう!?誰もみないワンマンショー」

「そんな風に自分を甘やかすのでしょう 指示してくれるスポンサーに媚を売る 挙句には「死にたい」とか言い出すんでしょう!?」

Mr.Children「I」より

アルバム「SENSE」は、上記のような苦悩を綴った「I」という楽曲からスタートしています。

過去の自分を受け入れるために、過去を超える


さて、話を本題の「miss you」に戻します。 本作「miss you」は、すべて新曲かつノンタイアップでリリースされました。発売から約2週間が経ちましたが、現状テレビや雑誌といったメディア出演もありません。

これらの点からも「SENSE」と通じるものを感じていて、私は(あくまで個人的な解釈ですが)「miss you」は「SENSE」で抱いていた苦悩の回収にチャレンジしたアルバムなんじゃないかと思っています。

そう思った理由を、本作に収録されている歌詞を用いて解説していきます。

まずmiss youの1曲目である「I MISS YOU」

「二十歳前想像していたより20年も長生きしちまった それは確かに感謝しなくちゃね」

Mr.Children「I MISS YOU」より

このようにバンドの活動が想像以上に長く続いたことを肯定しつつも、

「誰に聴いて欲しくてこんな歌歌ってる?」

「それが僕らしくて殺したいくらい嫌いです」

Mr.Children「I MISS YOU」より

と、しがらみから抜け出したかった、でも抜け出す勇気が持てずに悩み苦しんだ末、「死にたい」と言っては周りを振り回していた過去の自分を「殺したい」と悔いているような描写が伺えます。

2曲目の「Fifty's map〜おとなの地図」では、

「求められるクオリティ今日も必死で応えるだけ 「偶然」に助けられなんとかやって来ただけのこと」

Mr.Children「Fifty's map〜おとなの地図」より

と、これまでの活躍をスポンサーの需要に答えた結果の“偶然の賜物”と揶揄しつつも、

「自由ってやつはティーンエイジャーにだけ かかる魔法じゃないはずだろう」
「先のことなど何も恐れずに この瞬間を生きていれたら」

Mr.Children「Fifty's map〜おとなの地図」より

と、もっと自由に、何にも囚われることなく音楽を楽しみたい、追求したいという意志が見え隠れしているように思えます。

ミスチルは「スポンサーに媚を売る」のを辞め、「ドロップアウトした世界」に行くことを求めているのでしょうか…。

(ちなみにFifty's mapのMVは、本作品のテーマである「優しい驚き」が詰め込まれているのでまだ見たことない人はぜひ見てほしい…!)


そのヒントは、少し飛んで11曲目の「黄昏と積み木」にありました。

「欲張らないでいれば人生は意外と楽しい」

Mr.Children「黄昏と積み木」より

と、ドロップアウトを望んでいるかと思えば、

「高望みしないでいれば成長も遠ざかっていく」

Mr.Children「黄昏と積み木」より

なんてギラギラと野心的な一面も。いまだに、相対するふたつの感情に振り回されている様子を描いています。

しかしその葛藤を綴った直後に、

「そんな迷いにも(二人なら)答え以上の意味がある」

Mr.Children「黄昏と積み木」より

と、迷いに対して前向きさを見せています。 そして曲の最後は、

「小さな願いを 一緒に積み上げよう
背伸びしなくても明日を見渡せる高さまで 一つずつ 丁寧に」

Mr.Children「黄昏と積み木」より

という言葉で締めくくられています。 最前線を走り続けるか、降りるかはまだ分からない。しばらくは答えが出ないかもしれない。それでも立ち止まるのではなくて、今の自分たちができることから一つ一つ全うしていきたい。そうしたら、いつか見たい景色が見れるはず。

13曲収録されている「miss you」。アルバムの終盤で、「SENSE」のときには見られなかった、自分たちの立ち位置に対する苦悩や葛藤を受け入れる様子が綴られているように感じました。

そして12曲目の「deja-vu」

「誰の中にもブレーキとそしてアクセルがあるから
僕ら前へ踏み込んでいかなくちゃな」

Mr.Children「deja-vu」より

これまでの自分達を肯定しつつも、これからは自分達なりに前に進んでいくことを示唆しているように見えます。 そして極めつけが

「あぁ僕なんかを見つけてくれてありがとう」

Mr.Children「deja-vu」より

という歌詞。

1曲目では「殺したいくらい嫌い」と過去の自分を呪っていた。12曲目の時点でも「僕“なんか”」と言っちゃうくらいには、自分を認められていないようです。それでも、過去の自分がいたから見つけてもらえた事実は変わらない。

この「見つけてくれてありがとう」は、ファンやスタッフといった応援してくれる人たちはもちろん、これまではネガティブな対象であった「スポンサー」にも向けられていると思うんです。スポンサーがいなかったら、ここまでたくさんの人に見つけてもらえなかった。愛してもらえなかった、と。

「miss you」に至るまでのミスチルの楽曲は、現状や未来は肯定しつつも、過去は否定したり、ネガティブに捉えたりする歌詞が多かった印象があります。それがここにきてやっと、死にたかった自分も、周りを振り回した自分も、嫌だと思いながらスポンサーに媚を売っていた自分も含めて、過去の自分がいたから今がある。現状だけでなく、過去も全てを受け入れられるようになったのかな、と。

そこでまず挑戦してみたかったのが、SENSEのときにも完全には達成できなかった、完全ノンタイアップの「miss you」なのではないか。過去を受け入れるためにも、約10年前は挑戦しきれなかった世界に、再び挑戦し、越えようとしている。その先に、憧れと恐怖の対象である「ドロップアウトした世界」を垣間見ようとしているのかな、と思ったのです。

さて、約10年前に「I」で歌っていた「イメージはドロップアウトした世界 さぁどうでしょう!?誰も見ないワンマンショー」への解は、「miss you」を通じて出せたのでしょうか。

その答えは、アルバム最後の曲「おはよう」に綴られていると私は思いました。

「おかえり 荷物を置いてすぐで気が引けるけど
ほんのちょっとだけ付き合ってほしい こんなメロディができたよ」

Mr.Children「おはよう」より

これが、今のMr.Childrenが思うドロップアウトした世界のイメージかと思いました。きっと、SENSEで想像していた世界より、優しくて温かい世界なんじゃないでしょうか。

やりたいことをやるためにノンタイアップを続けていたら、届く人はどんどん限られてくる。でも、一人でも届けたい相手がいて、聞いてくれる相手がいる限り、音楽を作り続けたい。奏で続けたい。そしてその状態は、僕たちにとってきっと不幸ではない。 そんな未来へのビジョンが、この歌詞には詰め込まれているように思いました。

そして、このビジョンをより明確なものにするために、今回はいつもより圧倒的にキャパの狭いホールツアーを組んだのかな、と思ったのです。

https://tour.mrchildren.jp/


スポンサーに媚を売るのも、振り返れば悪いことばかりじゃなかった。ドロップアウトした世界も、想像してみたら多分不幸ではない気がする。でも、前者はいわずもがなだけど、後者は未経験。だからこそ、後者を覗き込んでみたくなった。ある種の好奇心というか、純粋ないたずら心のようなものが、「miss you」の発売やそれに伴うツアーの原動力だったのかな、と思うのです。

これまでにない構成や楽曲で、話題になっている「miss you」。しかし、そういった意味でも、これまでにないチャレンジングなアルバムなんじゃないかな、と考えてみた次第です。考察以上!

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