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「顔のついたお金」に隠された力

バナー画像が治安悪いですが、大丈夫です、ほっこり話です。

はい、ちょっとお財布出して、開いて、中を見て。

カツアゲじゃないよ。

今あなたの手にあるお金って、どんなお金ですか?
お給料? 売上げ? お小遣い? まさか拾ったお金?

財布の中を覗く時、普通は「あと5000円だな、飲み会あるから後でATMに寄らなくちゃ」
そんなことを考えます。お金がどんなものか、考えることは稀ですよね。

でも、確実に人生を豊かにしてくれるお金があるんですよ。
「顔のついたお金」とわたしは呼んでいます。

そこで質問です。
今まであなたが人からもらって嬉しかったお金、ありませんでしたか?

恐る恐る納品した記事で、初めてもらったギャランティ。
旅先で往生した時、通りがかりの人が払ってくれた食事代。
諦められない夢のため、身内が工面してくれた学費。

形や金額は様々ですが、それらは金額以上の意味合いを持ち、自信や安心、そして勇気を、その時のあなたにもたらしてくれたのではないでしょうか。

お金には、特別な力があります。
もちろん、モノが買えるといった即物的なものではありません。

それをわたしに気づかせてくれたのが「しんえん」という定期イベントです。
しんえんは、音楽や演劇などさまざまなジャンルの演者が入り乱れながら、ライブハウスで月2回ほど行われていました。※現在はコロナの影響でオンライン化しています

このイベントは、お金について独自の使い方をすすめていました。

イベントルールはこうです。

(1)一人でいい。人といてもいい。
(2)誘われない限り、離れる人についていかない。
(3)お酒を人に勧めない。
(4)好意はお金で示す。

つまり、最初の2つでイベントでのスマートな距離感の取り方を教えるとともに、残りの2つでお酒が飲めない人への配慮もしています。

ーわたしはあなたに一杯おごりたい気分だからお金を渡すよ。あなたが飲みたかったらそのお金で買えばいいし、それ以外のことに使ってもいいよー

現金を渡すなんて!と最初はその生々しさにちょっとびっくりするかもしれませんが、このシステムは実にうまく回っていました。

お金という具体的なツールで自分の気持ちを表現できるので、口下手な人は助かる。
お金をもらった人は、自分が認められて嬉しくなる。
自分が嬉しくなった分、その気持ちを他の人にも届けたくなる。
お金をもらった人が、また他の人にお金を渡しにいく。

きれいに循環するにはいくつかの条件がありますが、このイベントは主催者の理念がしっかりと参加者に浸透し、さながら「ギバー(与える人)」の巣のようでした。

そして、巣から飛び立つ人もいるものです。

わたしは新宿ゴールデン街のバーで、自分の日として週に1回カウンターに立っています。

そこに、しんえんの常連であるじゃみーさんという人がやってきました。
まずわたしに1杯振舞ってから、ほどよいペースで数杯。
コロナの影響で仕事がなくなっちゃって大変なんだよね、なんて明るく他のお客とも和やかに会話を共有しながらの、粋な飲み方。

お会計は4000円だったところに、じゃみーさんは5000円札を差し出して「釣りは立花さんにあげますよ」と言いました。

いやいや、じゃみーさん、仕事なくなって大変な時じゃない。いいよいいよ!と突っ返すと、彼はさらに財布からありったけのお札を出して、他のお客に2000円ずつ配り始めたのです!

脈絡もなくお金をもらうことになった人たちは、もちろんしこたま驚きます。

しきりに遠慮する皆に、じゃみーさんは言いました。

「自分が持っててもしょうがないんです。みんなが大変な時だから、自分は交通費だけあればいいんです」と言い、空っぽになった財布を嬉しそうにひっくり返して見せてくれました。

ヤケになったり、酔いすぎていたからではありませんでした。
じゃみーさんは顔のついたお金の力を知っていて、その場に居合わせた人達にその力を分け与え、そしてさわやかに店を後にしていきました。

残された私たちは「このお金は簡単に使えないね」と口々に言いあいました。

特別な2000円だからといって、5000円分のものが買えるということはありません。
だけど、ただの2000円として、普段の買い物に使ったり貯金するのも違う気がしました。
何も変わり映えのしないお札なのに、それを手にするとじゃみーさんの顔と言葉が思い出されて、特別なものに思えて仕方がないのです。

それはまるで、お金に顔がついたかのようでした。
彼が「みんな大変だけどがんばろう」という気持ちを乗せて渡してくれたお金だから、自分たちが応援したい誰かのために使いたい、そんな想いが皆の胸に灯ったのです。

そう、顔のついたお金には隠された力があります。

<想いを運ぶ力>です。

これが同じ値段のハイボールだったら、ここまでにはなりませんでした。
不思議なもので、お金には人をふっと引き戻す力があります。

コロナの影響で世の中のお金の流れがぱったりと止まってしまった今、皆の気持ちも行き場を失ってしまいました。

イベントは中止続き、
モノは売れなくなり、
飲食店も時短営業。

そんな今だからこそ、顔のついたお金が必要です。

お金は額面以上に、人を動かす力を持つことができます。
そして、その力を持たせるのは一人一人の想いです。

とはいえ先が見えない中でお金を使うのは勇気がいることだし、自分の生活が成り立たなくなっては意味がありません。
だから、できる人だけで構いません。

自分が応援したい人、頑張って欲しいお店、好きな商品。
それらが思い浮かんだら、迷わないでください。

あなたにいて欲しい。
戻ってくるのを待っています。
頑張ってくれてありがとう。

そんな気持ちを届けるのは、今です。

自由な移動がはばかられる今だからこそ、お金にはばたいてもらいましょう。

顔のあるお金は、実は翼も持っているんです。

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