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連載小説「オボステルラ」 【第五章 巨きなものの声】  6話「巨大樹の街」(7)


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6話「巨大樹の街」(7)

 それから毎日、この店にウサギを売ることができるようになった。最初は3羽と言われたが、新鮮なウサギのニーズが思いの外あったらしく、すぐに5羽までに増えた。ついでに巨大鳥の矢で野鳥を射ったりリコルルを罠で獲ったりして、売って小遣いを稼いでいる。

 少しずつではあるが、手持ちのお金が増えていく。そのことが楽しくて、帰り道にまたあの割高なパンを買ってしまった。普段の自分の食事はいつものように狩りで獲った獲物や野草や掘った芋で賄っているが、穀物だけはどうしても手に入らないので、ついつい手が伸びてしまう。しかし、ウサギ1羽の売値とこのパン1個が同じ価格だということが、ゴナンはどうにも納得がいかないが。

(前は、パンなんて食べなくても平気だったのに…。贅沢なお腹になっちゃったな)

 そう思いつつも、少し心は軽い。元気に泉のふちの野営地へと戻り、夕ご飯の準備を始めた。

「……昼間も少し冷えるようになってきたな……」

 ゴナンは火をおこしながら、そう呟く。夜の冷え込みも日に日に厳しくなっていく。今はまだ毛皮で夜の寒さをしのげているが、もっと寒くなるのだろうか? ゴナンは、まだ疼くように痛い節々をさする。

 そんなことを心配しながらも、樹の麓にまた、木の枝と葉と木の皮で器用につくったテント状の小屋の中に入る。流石に『2棟目』なので、一発で成功し、とても上手に作れた。風や露を防いでくれるので、幾分か温かい。この街についてまだ、雨の日がないのも幸いだった。

 そうしてまた、いつものように、ミリアが縫った服の繕いの部分に触れながら、眠りに落ちていった。

*  *  *

 リカルドを待つまま、1週間が経った。

朝、目を覚ましたゴナンは、はっと気付いた。

(あ…、また、熱が……)

 体がひどくだるく、森の中で発熱したときよりも遙かに高い熱が出ている気がする。この前のはただの風邪だったようだが、これは『いつもの』だと、ゴナンは感じた。

(……やっぱり、人が多い街に来ると、こうなってしまうのかな……)

 咳は出ないものの、寒気もひどいし、節々の痛みが増している。喉が渇いているが、水を飲むため体を起こすのも辛い。ふらつく頭で必死に考える。

(どうしよう…、このまま動けないと……、このまま…)

 ゴナンがねぐらに選んだこの泉のほとりは、普段、全く人通りがない場所だ。街の人や観光客に見つからず煙たがれることもないのは都合がよかったが、今の状況では最悪だ。ルチカにもらった薬も飲みきってしまっている。が、ゴナンが日用品を買いそろえた雑貨店の一角に、薬を売っているコーナーがあったことを思い出した。

(……あそこで、熱冷ましを買えれば…。お金は、足りるかな…)

 ゴナンは何とか力を振り絞って体を起こし、体を引きずるようにして泉の水を飲むと、毛皮を羽織って、布に包んだお金だけを握りしめて、街に向かって歩き始めた。

 いつもなら片道30分程の道のりだが、途中休み休みしながら歩いたため、1時間以上かかってしまった。街中は今日も観光客でにぎわっているが、日中はまだ上着はいらないほどなのに分厚い毛皮を巻いてフラフラと歩く少年を怪しみ、手を差し伸べる人はいない。

(…もうちょっと、もうちょっとだ……)

 薬を手に入れたら、食材屋になんとか頼み込んで、お店の裏で少し休ませてもらおう。薬が効いたらきっと動けるようになるはずだ。

 ようやく、見覚えのある雑貨店が見えてきた。ホッとするゴナン。しかし、ここで気が抜けたのか、全身から力が抜け、視界がみるみる暗くなる。そのまま、ふらりと倒れゆく。

 その時…。

「…おい! 大丈夫か? 踏ん張れ!」

 ゴナンの体を支えてくれる人物がいた。このシチュエーションはデジャブだ。故郷の川辺での出会いと同じ、大きな手。黒髪で長身の男性…。

(リカルド…。会えた……)

 しかし、そこでゴナンの意識は途切れてしまった。




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