バスタフェロウズ感想レポ

「わずかな時を遡って別人の意識に入り込む」能力を持つ主人公テウタちゃんがその力を利用して過去に介入し、仲間と共に色々なものと向き合いながら出会った事件を解決に導いていくノベル型の乙女ゲームバスタフェロウズ【https://joqrextend.co.jp/extend/bustafellows/】のあらすじ感想レポです。

洋画のようなオシャレな作りの中、人物たちの一人の人間としての感情が物語の中だからと美化されず、かっこ悪い部分も矛盾もそのまま描かれている所に大きな魅力を感じています。
事情を抱えた若者たちが社会、人間、自分、色々なものと向き合っていく、深く考えさせられる作品でした。
乙女ゲームということで手に取る層がある程度限定されてしまうのがホントもったいない…と思い、プレイ予定のない人も見て解るようにあらすじもそこそこがっつり書いてあります。

※色々なトピックスの情報が各チャプターで小出しに提示され、同時進行していくのでうまく整理出来てなかったらごめんなさい。

まず主人公のテウタちゃんについて。
警察官から裏社会の人間へと転落し、殺されてしまった兄の事件を調べるべくジャーナリストを目指す女性です。
最初に一言、めっちゃ可愛い。
少女の感性と行動力、大人の女の知性と思慮深さが同居していて、少女から女への過渡期にあるからこその行動や発言が光る、魅力的な女の子にして立派な志を持った人物でした。時々主観が別の人物になった時に出てくる立ち絵の表情も一つ一つがものすごく可愛いです。
過去へ渡るという能力発現時のエフェクトも素敵でしたね。雨粒が止まって空へ昇っていく、アニメティックになりすぎない演出が海外ドラマや洋画のようでとてもオシャレでした。
二人の幼馴染、婦人警官のルカと人気ニュースキャスターのアダムとの関係性もお互いに大切だ、家族だと日頃から言葉でも行動でも伝え合っていて、しっかりと中身の詰まった愛情を感じ取れる素敵な間柄です。
ジャーナリストとしての仕事ぶりは「読者に意見を持たせようとする記事の書き方」に定評があります。具体的な記事は出て来ないんですが、すごく読んでみたい。

以降各エピソードとそれぞれキャラについての感想。分岐ルートは攻略順

【プロローグ~チャプター4】



【プロローグ&チャプター1】
時間を遡ってリンボの死を阻止したことをきっかけに攻略対象達のチーム、自分たちの正義に基づいて社会に裏から関わっていく所謂フィクサーの一員にテウタちゃんが加わり、裏社会に幅を利かせる大物の悪事を暴く1話。体験版で配信されている部分です。
社会の闇に切り込む痛快さがテンポよくスタイリッシュに描かれていました。キャラクター達のちょっとしたやりとりにガス抜きをさせてくれるような笑い要素もあり、心地よい緩急があります。

自分が考える正義に基づいて事件と人に関わっていく通称悪徳弁護士のリンボ
気怠い雰囲気ながらも鋭い警戒心を見せる賞金稼ぎであり殺し屋のシュウ
死体に話しかける変わった一面と真面目で仕事熱心な面を併せ持つ検死官のモズ
柔らかな物腰ながらも辛辣で女性との距離が近い、美容形成外科医にして変装の名人ヘルベチカ
ちょっと子供っぽくて初心な天才ハッカーのスケアクロウ

短いながらもそれぞれのキャラクターの個性も解りやすく印象的に紹介されていて、文字送りする手が止まりませんでした。終盤のスチルも本当にかっこよくて、これはハリウッド映画…!てなります。体験版でこんなに豪華でいいの!?とも思いました。
因みにここでさらっと儲けも出す所が「正義のヒーローってわけじゃない。自分たちが正しいと思うことをやってるだけだし、褒められるようなことをやってるわけでもない」と自覚している彼ららしいですね。

【チャプター2】
スラム街に暮らす少年イーディの復讐、ヘルベチカの後見人であるサウリ教授との出会いを通じて上層下層それぞれで生きる人間たちの溝や罪とは何か、そして人を殺すとはどういうことかを描いた1話。
冒頭で不法移民達から生まれた秘密で繋がる組織、ルイ・ロペスというグループが存在するという情報がもたらされます。

上層と下層の生活には明確に違いがある。では下層の人間は可哀想なのか、違いを感じる時点で既に差別なのか。
罪を実行した人間がそこへ至る原因となった周囲の行動は何も追及されないのか。
ゲームのプレイヤーに対して非常に難しい問題が提示されています。日常のやりとりでガス抜きはされていますが、考えても答えの出ない、個人の力では解決できない問題と向き合うもやもや感があります。
そして復讐を遂げてしまったイーディの怯える様子や「復讐をしてもすっきりはしない、人を殺せばこびりついて消えないものがある」というシュウの言葉がとても感覚的に「復讐というもの」を表現していました。「復讐を遂げても虚しい、死んだ人は帰ってこない」という一般的な言葉以上にずっしりと胸に落ちてきます。
そこまでの部分が長かったためかフィクサーのターンはあっさりめ。イーディには復讐を遂げたと思わせることで人を殺すことの重みを体験させ、そのうえで相手の罪を暴いて逮捕に持ち込む、コミカルさもあって全体のテイストを持ち上げてくれる快進撃でした。
難しい問題を扱ったチャプターでしたが、「人を殺すのは今でもずっと怖い」というシュウの言葉でこの作品の中で死というテーマを大切に扱おうとしていることが解ります。そしてテウタちゃんの「理解しきれなくても解ろうとする人間でありたい」という言葉や、テウタちゃん達の行きつけの店に出入りする少年アレックスの「事実をそのまま受け止めて疑問を持ち続ける」という言葉が自分の中に決して答えが出ない問題の場所を作ってくれる、「正面から向き合えなくても蓋をしない」という選択を与えてくれる大事な1話だったと思います。
イーディとはシュウルートで随分打ち解けることが出来ていて、そんな簡単にいくのかなとも思う反面、そうやって肩を並べられる世の中が来ればいいなとも思わせます。
余談として、リンボのお姉さんのヴァレリー様、素晴らしい貫禄で大好きです(笑)

【チャプター3】
テウタちゃんの親友、ルカ巡査の不正捜査の噂を気にかけつつ、製薬会社と大学の共同研究室で開発されたウイルスの存在を暴く1話。
新たに「ルイ・ロペスには非常に有力な人物も多く関わり、互いの秘密を守って協力し合っている」という情報が開示され、その関係者リストのデータチップがチャプター2の事件中フィクサーの手元に渡っていたことが解ります。

ここで死体に話しかける習慣があるモズが「人間はその死の理由を明らかにされるけれど動物はそうじゃない」と動物の死体を生きている人間と同じように解剖したり、「死者は生命活動を止めただけで別に何も変わらない」と死体を「この場にいる人間」として数えるなど独特な感性を披露し、「死ねば肉は腐って終わりだけれども、死はずっと続いていく。その先に何があるのかが知りたい」と語りました。
またモズに危険なウイルス感染の疑いが浮上し、テウタちゃんが能力を使おうとした際「遡って望む結果にならなかったらどうするのか、そんなに都合のいい力ではないはずだ」と能力の問題を指摘し、「医療の心得がある自分だけにウイルス感染の疑いがある現状が最良の状態だ」と諭すなどウイルスの存在を暴く過程よりもその中で語られる「死とは何か」や「時を遡る力を使うことの意味」に重点が置かれています。
メンバーの中でも特に独特に見えるモズの感覚が深く掘り下げられ、彼の風変りな行動がとても理論的な理由からくるものであったこと、彼自身はとても動物好きで親切な人であることが解ります。その一方で「確かにそうなんだけど…」と共感までは出来ず、ここからテウタちゃんとどう恋愛に発展していくのかが気になります。
ウイルス事件自体は波乱を起こすことなく解決されますが問題はその後、ウイルスの被験者にされた人達の多くが立場の弱い不法入国者だと気づいたルカが事実を隠蔽しようとする上官に撃たれ、ルカを発見し看取ったテウタちゃんは能力を使ってそれを防ぎます。
ルカの最期、とても印象的でした。何よりもまず救急車を呼ばなければいけないのに焦って思考が回り切っていない、そしてスマホを操作する指がうまく動かないテウタちゃんと、不正捜査の告白に次いで「高校生の時、見たことのある映画を一緒に見たくて見てないと嘘をついた」という日常のなんてことない秘密を告げるルカ。最期に思い出すのはきっとこんな何でもないことなんだろうなと思わせる、リアルな緊迫感とそれに対してちぐはぐな、けれど美しく噛みあう哀愁がありました。そして聞き取れませんでしたが「誰かを許してあげて欲しい」という懇願。その誰かが誰なのか、今後明かされて行くのかどうかも気にしていきたいですね。
その後時を遡って繋ぎとめたルカから明かされた不正捜査疑惑の真相は「難航する性犯罪の捜査を進めるため」というもの。「犯人が刑務所に入っても被害者にとって事件は終わらない、捜査のために被害者がこれ以上傷つかないようにしたかった」という言葉に彼女が女性だからこその共感や憤りを感じます。ルカの行動は法律上決して正しくはない、本来許してはいけない、けれどもどうしてもそれを糾弾したくない、そんな新たなままならなさがありました。それを「良心なき正義はいつか滅ぶ。ルカはその良心で正義を守った」とテウタちゃんが真っ向から肯定するのはゲームならではの都合の良さかもしれませんが、ずっとままならないものと向き合っているこの作品の中では少し気分を緩めてくれる安心感もあるかもしれません。
またこのチャプターの中で大きな動きこそしていませんでしたが、アダムもずっといいポジションにいてくれました。踏み込みすぎず、でも相手の心をそっとノックして心配や肯定の言葉を投げかけてくれる、お兄ちゃんのような本当に素敵な友人です。ただルカと比較するとテウタちゃんに対して明らかに異性としての好意があるように見えるのでどうして攻略対象じゃないのかしら…隠しエンド?という疑問が残りますね。

余談:フィクサーメンバー全員で夜を明かした際、ルカの「この部屋男臭い」の一言がとってもリアルで思わずふふりとしました。そこは美化されてないんだ…(笑)

【チャプター4】
ショッピングや恋バナを楽しむ女性陣達、コラムが受賞して夢への一歩を踏み出すテウタちゃん、冒頭は小休止のように見えましたが、不法移民の扱いについてや、テウタちゃんの能力がもたらす結果など色々な情報がこの後の分岐に向けて整えられていく一話でした。
謎の組織、ルイ・ロペスについては不法入国者の兄弟二人から「理不尽な社会の穴を埋めたいと」始まるも大きくなりすぎたことで次第に在り方が歪んでしまい、兄弟の殺し合いに発展してしまったという組織の概要とは違う始まりのエピソードが明かされます。

ショッピング中には同行していた行きつけの店の店主カルメンについて掘り下げられ、スラム街の出身で放蕩に耽る母と暮らしていたこと、今は仕事で離れている恋人が戻ってきたら身寄りのない少年アレックスを養子に迎えて三人で暮らそうと思っていることなどが語られました。カルメンはここまでのチャプターを通していつも朗らかで、チャプター2ではイーディとその家族に快く宿を提供したり、何かにつけてテウタちゃん達にサービスをしたりと本当に気立てのいい人物です。出入りする少年アレックスを可愛がり、男性従業員ペペのこともいつも気遣っていて、暗い生い立ちを感じさせるところはありませんでした。今回も男を作っては家を出て、別れては戻てきていた母に対して愛情と「人は同じ環境に居続けると変われなくなってしまう」という受け入れつつも達観した姿勢を見せています。テウタちゃん達とは違う「下層」を生きて自分の手で道を切り開いたカルメンはこれまで見て来た上層下層の壁を乗り越えた存在として力強く映りました。

テウタちゃんの受賞はルート分岐相手とのやりとりがあり、今現在での二人の距離感やお互いへの印象が見えるようになっています。
そしてアダムからもお祝いの花束が贈られ、やっぱりアダム、テウタちゃん好きだよね…?という疑問を残していきました。

そしてテウタちゃんの能力について、前チャプターでルカを助けたことで人二人の人生が大きく変わってしまいました。これまでは支障が無かったりむしろ好転したりしていましたが、はっきりと他人の人生を理不尽に傷つけてしまい、テウタちゃんは苦悩します。これを相談されたルカ達の答えは「自分の選択や行動で他人に影響が出るのは誰でもそうだ」というもの。それ自体に間違いはありませんが、テウタちゃんの場合は本来全く関わりのない人達に対して、テウタちゃんが既に終わった出来事を覆したために起こりました。ルカを助けないという選択肢は絶対にあり得なくても、やはりしこりが残る感じがします。そこを緩めてくれたのが、アダムの一言「ルカを助けてくれてありがとう」でした。”正しい”と胸を張れない、相手とその周囲からすればきっとたまったものじゃない、それでも自分は何度でもこの選択をする。この選択を「一緒に望んで」くれる人がいる。過去に干渉する要素がある作品では主人公の立ち位置によって結果や印象の良し悪しは別れがちですが、両方きっちり描かれて、答えを出し切れなくても受け止めて進んでいく所に作品として好感が持てました。

【リンボルート】


不法入国者の女性を愛し、彼女とその子供を救うために不正に手を掛けたリンボの親友ナヴィードとその不正を暴いたために母子を死なせてしまったリンボとの因縁。

まずは攻略対象であるリンボについて。
弁護士として並外れた有能さとまっすぐな正義感があり、それ故に世の中に対して傲慢に見えるときもありますが基本的には親切でノリのいい好青年。部屋着の時は気の抜けたTシャツに黒縁メガネだったり、時折口調が子供っぽいのもポイントが高いですね…
メイン攻略対象ということで他メンバーに比べてスチルが豊富で、バッドエンドも2種類ありました。

問題が深刻になっていく前の和やかな一幕として感謝祭のパーティが描かれます。ここでテウタちゃんとスケアクロウの料理下手っぷりが披露されますが「塩と砂糖を間違える」などの形式化された下手さではなく「肉を焼く直前に冷凍庫から出す」など「本当に普段料理をしない人」としてリアルなのが面白いです。このイベント中リンボとテウタちゃんの距離が急に縮まるような出来事はありませんでしたが、リンボがピアノが得意だと判明し、テウタちゃんがそれに拙い鼻歌を合わせる微笑ましいシーンがありました。

最初はちょっと馴れ馴れしいけれど気さくで親しみやすい人物として登場したナヴィードは次第にリンボに対しての悪意をちらつかせ始めました。
「自分たちは”正しいこと”なんて出来ない、選ぶしかない、選んだ自分を信じるしかない」迷うテウタちゃんにはそう言って背中を押しますが、自分の過去の選択にはそれを言い聞かせるリンボに対し、ナヴィードは復讐心からリンボを傷つけるためにどんどん手段を選ばなくなっていきます。親しみやすい表情のまま、リンボに傷ついて欲しいと語るナヴィードにはほの暗い狂気を感じました。個人的に憎しみをむき出しにした険しい顔よりもこういう演出の方が好きなのでぐっときましたね。
ナヴィードが攻撃を重ねる中、リンボを心配する仲間達と巻き込みたくないリンボの間でも衝突が起こります。「緩い繋がりの様に見せていてもここは譲らない」というのがあるだろうとは思っていましたが、「しっかり繋がっているけれど決して言葉にしない」という描き方をする作品も少なくない中、それぞれの言葉で全員がそれをはっきり口に出していたのが見ていて好ましかったです。
ちなみにここで一番感情的だったのがヘルベチカなのが少し意外でした。一番ドライに見せていて実は愛情深いのかもしれませんね。

ナヴィードの不正を告発したことは正しいと思ったし、実際に法的には正しかった。けれどそのせいで人が死んだ。そのせいで今大切な人が傷つけられるかもしれない。過去とこれから起こるかもしれないことへの恐怖に向き合うリンボと何も言わずに傍にいるテウタちゃんの間に特別な感情が生まれていき、二人と仲間たちはナヴィードとの事件にケリを付けようと動き出します。

エンディングは3種類
・バッド1
仲間達がナヴィードをこれ以上リンボに近づけさせまいと裏から手を回した結果、ナヴィードによりリンボとテウタちゃんが殺されてしまいます。
最期に見えたナヴィードの狂気で歪んだ笑顔、そしてプロローグの時とは違い、大切な存在を見つけたためか「どこへも行かせないで」と弱気に呟くリンボ、もの悲しいオルゴールの音色が実に印象的でした。
以前アメリカの海外ドラマでも死に瀕した人物が「僕をどこへも行かせないで」と訴える場面があったのですが、向こうでは同じような感覚になる人が多いのでしょうか

・バッド2
ナヴィードがテウタちゃんを殺し、テウタちゃんの死体を目の当たりにしたリンボがナヴィードを殺してしまいます。
昨日の友人の様子を報告するような和気あいあいとした口調でテウタちゃんが死ぬまでの様子を語り、思わず銃を向けるリンボに「彼女を死なせて、俺も殺して、お前は生きろ」と愉しそうに告げるナヴィードはもう手の施しようがない程に壊れていました。そして涙ながらに銃を手に苦悩し、それでもテウタちゃんを呼び続けずにいられないリンボ。とうとうリンボは引き金を引き、弾を撃ち尽くすまで発砲します。ここで流れていたのはリンボが感謝祭で演奏し、テウタちゃんが歌った曲「ショパン ノクターン第2番」ゆったりとロマンティックなクラシックです。殺人、復讐という緊迫したシーンでゆったりしたクラシックを流すセンス、そして感謝祭での何気ない一幕、今となっては戻らない、愛おしい時間がこんな風に生かされる演出に脱帽でした。
ノクターンをバックに銃を構えるリンボのスチルに時折テウタちゃんとの思い出のスチルが挟まれることで、テウタちゃんを失った衝撃がリンボの中で高まっていく様子にも臨場感があります。
その後、ナヴィード殺害容疑の裁判に現れたリンボに生気はなく、「もう何が正義か解らない。誰か教えてください」と途方に暮れたように訴えて目を閉じます。そしてここでは同じノクターンにテウタちゃんの鼻歌が乗せられたものが流れました。目を閉じたリンボの瞼にはきっとあの日の何気ない幸せが映っていると感じさせる、ずっしりと胸にのしかかるも美しい見事なエンディングだと思います。

・トゥルーエンド
ナヴィードがチャプター3でウイルスを作っていた会社から持ち出し、リンボに使用したナノマシンを無効化してナヴィードの企みを完封します。
リンボの命と引き換えに自殺してリンボを傷つける道具になるよう指示されたテウタちゃんは能力を使って事態を仲間に報告、機械である以上毒物と違って解毒剤がない、一方で自分でエネルギーを作り出せないというナノマシンの特性に対して取られた作戦は「リンボが一度心肺停止の状態になること」でした。ここでチャプター1と同じ「一度死ぬ」をふりでなく実際に仮死状態になるというのがうまいですね。
失敗したナヴィードは「他の奴はどうでもいい、正義のヒーローになんてならなくていい、ただ自分の好きな女を幸せにして、幸せになりたかった」と叩き付けるように激情を吐き出して自ら命を絶ちます。誰かを救うために不正を働く、それはチャプター3でルカがやったこと。他の人を押しのけても自分の大切な人に手を伸ばす、それはテウタちゃんがやったこと。ナヴィードの望みも普段誰もの中にあるもの。現在での事件はともかく、過去にナヴィードがしたことは決して正しい正しくないだけで論じることが出来ない、タイミングが違えば誰もが行きつく行動でした。「自分たちは”正しいこと”なんて出来ない、選ぶしかない、選んだ自分を信じるしかない」というリンボの言葉が実感を伴って響いてくる幕引きだと思います。
事件が解決し、リンボはテウタちゃんに「どんな手を使ってもテウタを助けたいと思ったけど自分が死にたくもなかった。ナヴィードを殺してでも生きたいと思った。テウタにも同じようなことを考えさせてるのかと思うと堪らなかった」と正直な気持ちを吐露します。それはごく当たり前の感情ですが、創作の中で語られる言葉としては少し珍しく思えました。また、取り戻した日常の中で、リンボは「もし自分とテウタが同じ状況になったらきっとナヴィードと同じことをする」と言い、姉のヴァレリーはリンボ対し「ヒーローなんかにならなくていい」と言いました。創作の中だからこそ…と誰かのために命をかけるかっこよさや、正義を守りつつ大切な人を諦めない強さが描かれがちな所を、誰もが持つ感情をかっこ悪い部分も含めてそのまま描いているのがこの作品の良さの一つだと思います。

事件を乗り越え、恋人同士になった二人は少し背伸びしたりしつつもお互いに気取らないフレッシュな若者カップル…という印象で見ていてとても安定感がありました。たまにすれ違ったりケンカもするけれど二人で楽しく並んで歩いていけるんだろうなと疑いなく思える素敵な二人だと思います。

【スケアクロウルート】


死んだと思われていたスケアクロウの父親を謎の組織、ルイ・ロペスから解放します。

スケアクロウについて
政府の機密情報から個人のATM口座まで自在にアクセス出来る天才的なエンジニアである一方、好みの女の子であるテウタちゃんに対して心の声がだだ漏れになっていたり、あれこれ想像しては一人で照れてしまったりとローティーンのような初々しさのある少年…ではなく青年。皆からもちょっとぞんざいにあしらわれていますが、好意も心配も素直に伝えられる、仲間たちの事が大好きな可愛い弟分です。
私服がラフなので部屋着とのギャップはあまりありませんでした。

大手警備会社が裏で軍事商品を扱っているという情報を辿る途中で敵側から傭兵が差し向けられ、相手の一撃を受けて攻撃的に豹変し掴みかかるスケアクロウ。それが敵の隙を作り、スケアクロウが絶大な信頼を寄せるエンジニアの助力もあってフィクサーは物理的、情報的にも無傷で情報を手にすることが出来ました。

スケアクロウルートでは話が正念場へ向かう前の和やかな一幕としてクリスマスが挟まれます。パーティイベント全員違うんでしょうかね。どのイベントかによって親密になっていく時間や何があったかも変わるので素敵な拘りだと思います。リンボの感謝祭は11/24だからそれよりは少しゆっくりな始まりですね。
クリスマスをそれらしく過ごしたことがないというスケアクロウのためにスタンダードなクリスマスパーティが催され、はしゃいで喜ぶスケアクロウが本当に可愛くて、これはパーティを準備した甲斐もひとしお!という感じでした。
パーティが終わった後、スケアクロウとテウタちゃんの二人でスケアクロウのお父さんがよく歌っていたという子守唄「Sweet and low」をピアノで弾き、たどたどしくも温かい音楽の中で夜は更けていきます。
そのまま平和に終わるのかと思いきや、スケアクロウの先日の様子を怪しんだシュウの糾弾によって彼の経歴が明かされました。優秀さ故に自分の力を過信して犯罪に手を染めてしまったこと、その結果大規模な停電を引き起こしてテロリストとして世間に認知されてしまったこと、犯罪から足を洗うために死を偽装し、その時に手を貸してくれたのが先日のエンジニアであったこと…そしてスケアクロウに停電を起こさせたのが先の軍事会社であり、その後も彼に犯罪の手助けをさせるために拷問と父親の殺害までしたとのこと。自分のしてしまったこと、そんなことをした人間であると知られて恥ずかしいとこぼすスケアクロウを仲間たちは自分達にも後ろ暗い所はあるんだと当たり前に受け入れます。ここで心に響いたのは「当時の事を実はあまり覚えてない。心を守るための作用だと言うけど、ちゃんと覚えていたいのに」と語るスケアクロウの姿でした。ビビリで前に出たがらない彼が恐らく人間にとって一番怖いものとちゃんと向き合いたいという意思を見せたこと、それは過去をちゃんと覚えていないが故のことだとしても、彼の意外な芯の強さはこれまでの子供っぽい部分とのギャップも相まってことさらに印象的でした。

改めて件のエンジニアを軍事会社から助け出すために行動を開始し、テウタちゃん、スケアクロウ、シュウの三人が辿り付いた海底コテージでエンジニア、殺されたはずのスケアクロウの父親と再開します。しかしその場には先の傭兵もおり、コテージが爆破されて三人は海の底へ。なんとか助かったものの、テウタちゃんの脳裏には海底で一度助かることを諦めたスケアクロウの表情がこびりつき、またスケアクロウも拷問の経験も相まってか、防衛本能が暴走してテウタちゃんの首を絞めてしまいます。テウタちゃんがスケアクロウに殺されかけて最初に思うのは彼に対する心配、気遣う気持ち。スケアクロウもテウタちゃんを始め皆の傍に胸を張って立っていられる、弱さから目を背けない自分になりたいという気持ちを自覚し、強めていき、外からはわからなくても互いを思う優しい絆が少しずつ強くなっていきます。
そんな中、軍事会社の傭兵から父親の開放と引き換えに身代わりになることと情報を要求され、スケアクロウは仲間との連絡を絶ちます。しかし向こうの目論見は情報だけを得て親子を始末すること。死を待つだけとなった状況の中、一瞬だけ外部と連絡を取るタイミングがあると知ったスケアクロウは思いつきました。「数時間前の俺にメッセージを送ればいいんだ!」

・バッドエンド
連携がうまくいかず、父親が死んでスケアクロウだけが生き残ります。
父親の死体の傍らにある銃を頭に当て、スケアクロウは穏やかな表情を見せました。臆病風に吹かれがちで、錯乱した時でさえ「死にたくない」と言っていた彼が最後に呟いたのは「今は生きてる方がずっと怖い、死ぬのは怖くない」。そして銃声の後、クリスマスに弾いた拙い子守唄が彼の安らかな眠りを見守るように響くのがもの悲しく、この後のテウタちゃんの後悔を思わせます。優しくて哀しい柔らかな終りでした。

・トゥルーエンド
無事に暗号を過去のスケアクロウに解読してもらい、二人を助け出します。
助けを待つだけの状態になった時は、不安を隠せないスケアクロウの肩をそっと抱く父親との親子らしい一幕があり、拙い言葉でテウタちゃんや仲間への気持ちを語るスケアクロウは子供っぽくて人間らしくて、愛しさが募りました。
救出後、2人が狙われる理由となった軍事会社の悪事を情報SNSフルサークルを始めとするあらゆる手段で世間にばら撒き、その情報価値を落とすことでフィクサーは無事に日常を取り戻しました。そしてスケアクロウはテウタちゃんに気持ちを伝え、彼女の助けを借りながら父親とたどたどしく交流を取り戻していきます。
子供っぽい二人の、恰好がつけきれない、嬉し恥ずかしい様子が非常に可愛く、落ち着いて見せていても所々でスケアクロウに似たそそっかしさを見せるお父さんも微笑ましいです。
事件のものはあっさりしていましたが、終始スケアクロウが吐露する心情が彼の子供っぽさ故にたどたどしくも正直で、言葉になりきらないからこそ沁み込んでくるように温かい、そんなシナリオだったと思います。

【シュウルート】


育ての親の教えに倣い、金目当ての殺し屋を始末していくシュウの最後の壁と家族の話

シュウについて。
気だるげな一匹狼気質の人物かと思いきや意外と付き合いがよく、積極的とは言わないまでもパーティの準備を手伝ったり、ちょっとした挨拶や心配をきちんと言葉にしてくれたりする一面もあります。リンボがいいお兄ちゃんの立ち位置にいるので頻繁ではありませんが、ふとした瞬間に面倒見の良さを見せてくれることも。
またヘビースモーカーでありながら煙草を嫌いだと言ったり、人を殺すのはずっと怖いと言ったり、人を殺した後にものすごく気が立っていたり、もし違う環境で生きていたら全然別の人物像だったのかもしれません。
部屋着は前髪をピンで留めていることがあるのがちょっと可愛いですね。

育ての親から引き継いだ金目当ての殺し屋を始末するという道、その後にやりたいと思えることがなく、なんとなく空虚なものを感じる瞬間があるシュウ。また危険でもある自分の生き方からいつ死ぬかわからないという感覚を持っていることを巡ってテウタちゃんと口論になります。
そんな二人の話し合いに一役買ってくれるのが、今回は季節イベントではなく移動遊園地。射撃ゲームでシュウに手ほどきを受け、射撃というキーワードから警官であったテウタちゃんの兄、そしてシュウの育ての親それぞれの思い出話に花が咲きます。死んだ家族の話は他人に気を遣わせてしまうけれど、楽しかった思い出を誰かに話したい時がある。普段は中々表に出ないシュウの面倒見と付き合いの良さが前面に出ていてとても温かい一幕です。
そして家族が死んだ後の気持ちを思い出してテウタちゃんに心づもりをしておいてほしいと思うシュウと、家族のように一緒に過ごしているからこそシュウに死を意識しながら生活して欲しくないテウタちゃん。互いの感情をただ話し、どちらの意見に合わせることもないけれどお互いに主張が違うことを許し合える、シュウの中にテウタちゃんが一歩踏み込んだ瞬間でした。
その後に訪れる転機は育ての親の実子にして仇、ヤンの登場でした。彼は育ての親が作り、今はシュウが持っていた危険な殺し屋のリストの一部を持っており、それと引き換えに”クローザー”という危険な殺し屋の始末の手伝いを依頼してきます。シュウにとっては兄弟のような存在であると同時にコンプレックスの対象でもあるヤンに一口では語れない愛憎を見せるシュウ。けれどクローザーの危険性に元から目を付けていたシュウはリストも手に入るなら断る理由がないと仲間達の手を借りて狙撃ポイントを吟味します。チャプター2で殺しは怖いと言っていましたが、作戦決行前に描写されたシュウには本当に恐怖を感じ、それを抑え込む描写がありました。覚悟を決めて、ずっとそれを生業としていて尚恐怖を感じるというキャラクターの心情はあまり見たことがないので新鮮であると同時にその重さをしっかり描こうとしていることに好感が持てました。あるいは彼が本来気質的には殺し屋には向いていなかったのではとも思えますね。
ところが、この一件はヤンの策略で、シュウはヤンの殺しの濡れ衣を着せられて逮捕されてしまいます。シュウを助けるためにテウタちゃんは時間を遡り、彼の死を偽装することでシュウを取り戻しました。事件が鎮まりつつある中、ヤンはテウタちゃんの前に現れ「育ての親はとある秘密で繋がった組織(十中八九ルイ・ロペス)を抜けたことが原因でクローザーに殺された」「クローザーは育ての親の意思を継いで殺し屋を始末している人間を狙っているからシュウを一時的に刑務所に入れてその間に自分がケリをつけたかった」ことを話します。それを聞いたシュウはヤンの容疑について元々疑念を持っていたものの、全てを失って感情の行き場が無く、ヤンを憎しみの標的にすることで自分を保っていたことを認めて、クローザーの妥当、ヤンとの和解へ動き出します。この過程でテウタちゃんからの好意に気づいて「他に好きになれるヤツを探した方がいい」と距離を置かせようとしますが、その時も自分もテウタちゃんが特別であると認める時も終始ゆったりと猫がくつろいでいるのにも似た様子で話していて、ホントにテウタちゃんに気を許しているのがよくわかる、展開に反して柔らかな時間でした。余談ですが、ヤンは登場すると大体何か一緒に飲もうないし食べようと誘ってくきていて、ひょっとしてぼっちご飯が嫌いなのかしらと思わせます。もしそうだったら可愛いですね。
クローザーに自分の存在を匂わせた直後、ヤンと腹を割って話をしている最中にテウタちゃんがクローザーに攫われます。クローザー、スケアクロウルートで出て来た傭兵さんだったんですね。シュウと互角にやりあっててびっくりしましたが、納得です。結構小柄で一人称がボクという意外性も素敵でした。それにしてもやり手というだけあって行動が素早い…クローザーの手口は人質とって標的を自殺させて本当に死んだかを24時間映像越しに監視して確認、その後人質を殺すというというもの。状況を打開すべくシュウに変装したヘルベチカがクローザーの用意した監視カメラの前で死ぬ演技をし、24時間の監視中にクローザーとテウタちゃんの居場所を特定して倒すという作戦が取られました。
本作、文字ウインドウが物語の視点となる人物のキャラクターカラーになる使用なんですが、シュウに変装したヘルベチカが指定された部屋へ向かう時のウインドウしっかりヘルベチカのピンクだったんですよね…最初は気づかず監視カメラのハッキング系トリックかと考えてました。「誰にでもなれる」とは言っていましたが、それまではいつも同じ女性の変装だったのでここでシュウに変装するのはなるほどと思いました。

・バッドエンド
シュウの死が作戦であることが伝わらずテウタちゃんが殺され、それを知ったシュウも出奔してしまいます。

世間にも仲間達にもテウタちゃんの死は知らされず行方不明として扱われ、休むことなく探し続けてとうとう泣き崩れるルカや、その可能性を考えつつも否定しようとする仲間たちが痛々しいです。
そしてクローザーを見つけたシュウは「殺しではなく復讐」だと、彼をなぶり殺しにします。
薄笑いを浮かべ、長く苦しむように急所を外しながら何発も銃を撃ち込む姿は、殺すことの恐怖をずっと持ち続けていたシュウがすっかり変わってしまったことをまざまざと見せてくれます。暗転した後に雨音だけが残り、全てがかき消されて飲み込まれていく、こちらも見事なエンディングでした。

・トゥルーエンド
シュウが生きているというメッセージを聞いて待つテウタちゃん。その横にいるクローザーをシュウが狙撃で倒し、彼女を助け出しました。
この時の狙撃距離は1312ヤード、メートルに直すと1312×0.9144=1199.7mつまり約1.2km…すごい
テウタちゃんを失うかもしれないという恐怖に駆られていたシュウは彼女に対して考えていた色々なことを置いて、ただ「好き」という気持ちを大切にしようと決意します。
真っ直ぐに好きだと伝える告白の仕方がとても誠実でよかった…んですが、その後は「私達付き合ってるんだろうか…?」てテウタちゃんに思われるような距離感になってしまったのがシュウらしくて微笑ましいというか安心するというか。
それを確かめる協力をするスケアクロウと盛り上がる男性陣のボーイズトーク、さり気なくテウタちゃんが可愛いと自慢するシュウ、「不安にさせるシュウが悪い」とバッサリ切り捨てるモズの日常らしい明るいやりとりにもふふりとしました。
男性陣にちゃかされて背中を押されたシュウは恋人らしいことをするにもまずやらなきゃいけないことがあるとずっと先送りにしていた古傷の手術を受けることにします。頭部の手術だから心配だと気もそぞろな仲間たちと、彼らに大丈夫だと言い含めていたのに看護師に呼ばれた際真っ先に返事をしたモズなど、細かい所で彼らの心配を感じられたのがよかったですね。
退院したシュウはテウタちゃんに「家族に会わせてほしい」と頼みます。自分にとって「家族」というのはとても大きな意味がある、だから大切なテウタちゃんの家族と関わりを持ちたいと話し、娘の恋人につっけんどんなテウタちゃんの父親に対しても「彼女がとても愛されていてうれしい」と伝えました。違う人生を歩んでいたらシュウはきっと誠実で家族思いの、全然違う人物像だったのだろうなと改めて感じるとともに、殺伐とした半生があって尚変わらない彼の本質的な魅力がよく解るエンディングとなっています。

【モズルート】


1年以上行方不明になっているモズの妹が通っていた高校で起きた殺人事件を追いながら大人と子供の過渡期にある高校生について掘り下げる話
要所で少女の独白があり、高校生の時そんなだったなぁと思わせる内容と心細げな呟きに苦みのある懐かしさを感じさせます。

モズについて
論理的に淡々と。人としての親切さや仲間達への親愛を示すときでもそれが一切崩れることがない一貫したキャラメイクが本当にすごいと思います。論理的な人物が物語が進むにつれて理論と感情にギャップが出る…という話は王道の良さがありますが、モズの場合は不可思議に見えていた行動の理論が明かされる、感情的になっても論理的といった内容になっていて、新鮮であると同時にその作り込みに脱帽しました。
人柄自体はとても親切で、メンバーの食事を用意したり、お留守番のスケアクロウにも昼食を置いて行ったりと最早お母さん状態です。
部屋着は普段着と同じくシンプルですが、カラーリングがガラッと変わるので少し印象が変わりますね。

名門校で死体が発見され、体面のためになんとか自殺ということにしたい学校側に対し、事件を担当するルカは大人の事情を全く気にしないモズと、信頼できるジャーナリストということでテウタちゃんに協力を仰ぎます。
「子供も大人も本質は変わらない、ただ違うのは行動に移せるかどうか、高校時代はその中間で大人でも子供でもない」
そう言って高校という場所は難しいと語るモズの様子から今回も深いテーマになるだろうなという期待が高まります。
そしてアイビーという少女から「前にも生徒がいなくなったのにいつの間にかなかったことみたいにされた」と渡された写真にはモズの妹、ユズが映っていました。
ユズちゃんの写真、天真爛漫な笑顔がとても可愛くて、でも目はモズと同じ色をしていて、二人がどんなふうに過ごしていたのかを見てみたいな…と思わせる素敵な写真でした。
名門の”学校”であることを盾に色々と秘密が多く、情報収集が難航する中での雨の日、テウタちゃんが仕事場にモズを迎えに行くと、彼は車に轢かれた犬の親子を看取った直後でした。いつものように淡々と、それでも助けられなかった命への哀惜を見せるモズ。ここでの選択肢で「犬はモズに感謝していると思う」ではなく「犬がどう思っていたかはわからない」を選択するのが正解なのが実にモズらしいと思いました。その後もう死んでしまった親子に対し、親犬の傷を縫合してあげるモズと仔犬の体を拭いてあげるテウタちゃん。つい先ほどまで全く関係がなかった犬にそこまで…と一瞬思わせるやりとりの後、モズが「どこかの家の家族かもしれないから動物保護局に連絡を入れておく」と言い、その一言で一連のやりとりの意味がガラリと変わるの感じる演出が見事でした。例えばそれが自分の飼っている犬だったら、傷を見て痛々しいと思い、治療や体を拭いてあげることを望むのは何ら不思議ではありません。多くの人が自分に近しい相手であれば抱ける感情がモズは誰に対しても抱ける、その人並み以上の優しさ、公平さが仕事外で動物の死骸の解剖し、どうして死んだのかを確かめる彼の行動に繋がっていた。今まで彼の言葉だけでは理解しきれなかった彼の行動が感覚で腑に落ちる瞬間でした。
その後匿名SNS、フルサークルに高校で自殺者や行方不明者が多数出ていることが当人たちの写真付きで投稿され、ジャーナリストであるテウタちゃんに学校側から疑いがかけられます。その連絡を入れたのは以前学校の案内もしてくれた若手教師トロイ、これはテウタちゃんに気があるのではと話すヘルベチカを見てモズが同行を申し出てくれました。ヘルベチカはこの時点でモズがかなりテウタちゃんに気持ちが傾いているのを察しているようです。さすがですね。
呼び出しの場は何故かリンボの姉であるヴァレリー検事とその同僚がいて、二人の口添えとモズの鋭い指摘によりあっさりと終わりました。トロイ先生も「高校生は多感で難しい」と話す程度でこれといったアプローチはなし…と思いきや彼が去った後、モズから「トロイはテウタに男性として興味を持っている。オスとしての性的アピールをする仕草があった」と言及がありました。いつもと同じ淡々とした様子で。ヤキモチまで理論的でびっくりしました。
そこへアイビーちゃんが通りかかり、浮かない顔の彼女の話を聴いてあげたいとテウタちゃんはモズと彼女を連れ出します。下手をしたら犯罪になりかねないですが、息苦しい時に学校に行かなくてもいいよと言ってくれる、話を聴いてくれる大人の存在っていいなって思いますよね。
連れ出した先でアイビーちゃんの口からユズちゃんと仲が良かったこと、けれどもユズちゃんがいつも自分の上を行ってしまうような気がして、心苦しさから離れて欲しいと言ってしまったことが語られます。一つ一つは大人から見たらただの勘違いで大したことないもの、本人もそれを解っていて、でも高校生にとっては大きくてなかなか消えないもの、ぐるぐるとままならない気持ちを抱えたまま酷いことを言ってしまったと苦しんでいたアイビーちゃんに二人は自分達もそうだった、大丈夫とそれぞれ語り掛けました。そういうことある、アレすごく辛い…と昔感じた胸が重くなる感覚を思い出した後、自分の妹が失踪する直前にひどいことを言ってしまったというアイビーちゃんに対して「若い頃は出口がないような感覚に襲われるのは普通のこと、だから悩んで、苦しんでいい、そう感じるのは間違ってない」と優しく言い切ったモズの言葉に昔の自分が許されたような、安心したような気持ちになりました。
晴れやかな顔になったアイビーちゃんから音楽祭、内容的にはプロムのチケットをもらい、物語は収束に向かって転がっていきます。
その夜、モズは「猫に話をしていたら相手が途中で寝てしまった。話を途中でやめるのは体に良くないから続きを聞いて欲しい」とテウタちゃんに両親が死んだとき、自分が検視官になるきっかけとなった出来事を語りました。犬親子やアイビーちゃんとのやりとりの中で少し人となりが解ってきた気がしていたのですが、また不思議な人物像がぶり返してきますね。そしてここで話し相手にテウタちゃんを選んだこともまた彼女に気を許している証拠でしょうか。
音楽祭当日、いつもと様子が違うと話を聞こうとすると、触れない程度に急接近するモズ。動揺しながらも改めて話を聞いてみると、両親が死んだときの事を思い出してからそれが頭を離れない、両親の死体がユズになっている所を想像してしまうと打ち明けてくれました。そこで気分を切り替えるには男性の場合性的に興奮するのが手っ取り早いという判断が論理的だけど突飛でモズらしい…そんな彼をテウタちゃんは優しくハグして落ち着かせてあげます。ここで音楽祭会場に入る直前、最後にモズがちょっと照れるのがものすごく貴重です。静かに照れていて可愛い。
音楽祭の会場入り後、トラブルで怪我をした生徒の所へモズが向かったタイミングでトロイ先生から電話があります。様子がおかしいと探してみると、生物室で血だまりに座り込む先生が。アイビーが誰かを殺すか自殺するかもしれないと自分を後回しにして彼女が向かった来賓質へ向かうように言われます。言われるままに走りながら救急車を呼ぼうとしますが、電波が悪いのかうまく通話ができません。そして辿り着いた来賓質からは火の手が上がり、中にアイビーらしき人影が倒れているのも見え、咄嗟にテウタちゃんは時間を遡ります。

・バッドエンド
トロイ先生を助けるようモズに指示を出しましたが、彼の怪我は偽装で、それに気づいたモズが撃たれてしまいます。

更に遡っても時は既にモズを助けられない時間にしか戻れず、モズは「君を助けられる今が一番いい状況だ」
とトロイ先生に気を付けるよう繰り返して死んでいきます。いつだって他の人が無事ならそれでいいと言いきれるモズは本当に優しくて潔いですね。
そしてうまくいくまで何度でも戻ろうとして、けれど力の使い過ぎで動けなくなっていくテウタちゃん。チャプター3で力についてやりとりをした際の「思い通りにならなかったらどうするのか、思い通りになるまで遡るのか、そんなに便利な力じゃないはず」というモズの言葉が立証されたまたも見事な展開でした。

・トゥルーエンド
火の中のアイビーを救出し、彼女を殺人鬼に仕立て上げようとしたトロイ先生から一連の事件の真相が語られます。

モズや警備員の制止を振り切って火の中に飛び込み、追って来たモズの助けもあってなんとか脱出に成功します。テウタちゃんの行動は危険な事だった、必死になって後を追ったと初めて感情的に起こるモズがとにかく印象的でした。
アイビーちゃんの首には痣があり、それはトロイ先生に絞められたと証言の食い違いが起こります。同時にアイビーちゃんのフルサークルアカウントから一連の事件は自分が起こし、これから自殺するという旨の投稿がありました。不信感が高まる中でトロイ先生を探すと、彼は錯乱した状態でテウタちゃんを捕らえて銃を突きつけ「世界を理解するには物語が必要だ」と場にそぐわない話を始めます。話が進むにつれ、物事には全てそれを起こした人間と理由が必要で、そのためにアイビーちゃんを今までの事件の犯人に仕立て上げようとしたこと、彼は学校で権力者の子供達がいじめ殺した生徒の死体を処理し、その後いじめた生徒を自ら殺し、その死の間際の瞳に宿る絶望と享受に触れて以降死に憑りつかれてしまったことが明らかになります。そしてただ一人、その絶望を見せなかったユズちゃんを殺せずに閉じ込めたことも。ユズちゃんは生きているかもしれないと警察の捜索が始まりますが、あの精神状態で監禁した人間の世話が出来たとはとても思えません。予想通り監禁場所に突入したルカからは「間に合わなかった」と告げられました。せき込む警官達の声や来ない方がいいというルカの言葉から遺体もかなりひどい状態であることが伺えます。それでもモズは構わずにユズの遺体を抱きしめ「遅くなってごめんね、会いたかった」と声をかけました。いつもと同じ「死体に話しかけるモズ」、けれどもそこにいつも感じる異様さはありませんでした。自分の家族や友人だったら死体であっても傍に行って声を掛ける、それをモズは他人であっても同じように出来るだけ。彼の本質がくっきりと見える、どうしようもない程優しくて悲しい瞬間でした。
ユズちゃんのために涙を流し、見えなくてもいいから傍にいて欲しいと最後のお別れで彼女に語り掛けたモズは「ユズが死んでも、どんな風に生きて、どんな風に死んだかは生きている人間に残っていく、それはすごく意味があることのような気がする」とテウタちゃんにこぼします。それが彼が以前語っていた「死はずっと続いていく」の意味であり、ゆきずりの動物たちの死骸を解剖する理由でした。
ユズちゃんの死と向き合いながら過ごして迎えたトロイ先生の裁判の日、重い刑を望む他の遺族たちに反してモズは彼に精神鑑定を勧めます。「精神鑑定は罪を軽くするためのものじゃない。人は病気で簡単に別人になる。彼の犯行が彼の人格によるものなのか、精神に異常あってのことなのか、きちんを見極めなければいけない」そう進言したモズはいつも通りの公正なモズで、そしてトロイの鑑定の結果、その生死にかかわらず絶対に許さないと言い切るお兄ちゃんでもありました。どこまでも論理的で、けれど感情もきちんと両立しているすごい人です。
そしてここにきて今まで要所で挟まれていた独白が亡きユズちゃんの心情であり、ずっと陽だまりのような印象があった彼女も高校生独特の孤独を抱えていたこと、それでもなお全てを受け入れる懐深い少女であったことが解りました。恐らく死に際であっただろうことが察せられてちょっと達観しすぎでは…もう少し平凡な子でもいいのでは…と思う部分もありましたが、トロイ先生が怖くて殺せなかったというにはこれくらいの度量が必要なのかなとも思いました。
ユズちゃんの葬儀の日、モズはテウタちゃんに一つの事実を明かします。
「昔一度だけ死体処理の仕事をしたことがある。そして状況証拠だがそれはテウタのお兄さんかもしれない」
そしてその告白以降、二人の距離は気まずいまま時間が過ぎていきます。それでも続く日常の中、ふとした瞬間にモズを思い出すテウタちゃんの中で彼への気持ちが静かに積もっていく様子が印象的でした。ここで仲良くなったアイビーとのやりとりが挟まれているのですが、彼女が「ダンスのペアがくじで決められて最悪!でも人気の子とペアになったらそれはそれで緊張でゲロ吐いちゃうかも」なんて年相応の様子を見せてくれてほっこりしました。
気まずいまま迎えた大晦日、それぞれ仕事のルカとアダムから電話があり、アダムの「友達でも恋人でも大切な人と一緒に過ごして欲しい」という言葉にモズを思い出してテウタちゃんはモズがいる検事局へ向かいます。久々に顔を付き合わせたモズはテウタちゃんにまとまらない心情をとつとつとこぼしていき「君に何も望まない、ただ君を待ち続けることを許してほしい」と告げました。処理した死体がテウタちゃんのお兄さんであったことは確証がないけれど不安で言わずにいられなかったという姿は論理的なモズには珍しく、その一方で何かを押し付けたり望んだりすることなくただ待ち続けたいという姿勢は彼らしい静かな思いやりを感じさせます。それを聞いたテウタちゃんから涙と共に溢れるのは「モズの声が自分を呼ぶ時、しっくりくる。あるべき場所に収まる感覚がする」という言葉。色々なこと、色々な気持ちが絡まってどうしたらいいのか、どうしたいのかも解らない、けれどお互いでないとダメなんだという確かな感覚がある。そんな捉えきれないものがそのまま表現されていてとても素敵な言い回しだと思いました。
エンディングの締めくくりはバレンタインデー。プロムに行ったことがなかった二人がモズプロデュースのプロム風デートに出かけ、いつもより少し特別な一日を過ごして終わります。
モズルートは事件前にお楽しみイベントが特になかったのでもしやこれが…?と思っているのですが、「事件前」という時期を限定しないところ、そして他の仲間達に比べて圧倒的に進展が遅い二人の関係などキャラクターや展開を重視しているのを感じられて更に好感が上がりました。

【ヘルベチカルート】


知り合いとの再会により現在とは全く異なる過去の自分と向き合うヘルベチカと仲間達。

ヘルベチカについて
常に敬語で穏やかな物腰ですが、発言をオブラートに包むということを全くせず初対面のテウタちゃんに点数をつけたりと非常に辛辣。その一方で仲間に何かあった時の行動が速く、リンボルートでは心配のあまり感情的になったりと愛情深い…というより懐に入れた相手へに対しての執着心が高いのかなと思わせます。
部屋着はカラーリングやシルエットがあまり変わりません。時々眼鏡を外した絵が見られますが最早美少女でした。

ヘルベチカの仕事を雑誌に載せるための取材を任されたテウタちゃん。出版社の興味はヘルベチカの仕事ではなく彼の美貌とそれによる売り上げですが、ヘルベチカは出版社にスラム街に住む患者の手術費を持たせることでそれを承諾します。「良くも悪くも人は9割見た目で判断される。美しくなるのは誰の為でもない、自分だけのため」そう言って自分の容姿に悩む患者に金銭という形で覚悟を問い、望む形に変えているヘルベチカ。それでいて「人間は本当は中身が全て。けれど自分自身でもわからない自分の中身が他人に伝わるわけがない。だから伝えたいものを表現するのが外見」と本音を語る彼は世の中を割り切り、確固たる信念を持っているようです。
仕事中、患者と話すヘルベチカはとても親切で相手を否定も肯定もしない、それでいて褒める所で相手への称賛を惜しまない、これはモテる…と思わせる会話術でした。
そんなヘルベチカは実はスラム街の出身で、後見人であるサウリ先生の整形手術によって現在の容姿を手に入れ、並々ならぬ努力の果てに現在の職についたようです。整形手術という仕事は変わるきっかけを相手に与えるだけ、それは以前自分がサウリ先生にしてもらったことだというヘルベチカからはサウリ教授への深い尊敬を感じました。他のルートでもイベントごとの際には必ずサウリ先生の所へ顔を出していて、仲の良い親子のようです。彼が自分の容姿に絶対的な自信を持っているのは単なる造形への自信ではなく、敬愛するサウリ教授の”作品”だからなんでしょうね。
ヘルベチカルートでのイベントごとはハロウィーンでした。メンバーの中で一番進展が速いですね…
パーティの中、話の流れで過去を語るヘルベチカ。スラムで育ったと一言で片づけられてしまう生い立ちにはその日の食事にも困る程の貧困と薬物売買の仕事、それに伴う薬物中毒と今からは想像もつかない生活があったようです。そして体中傷だらけでゴミ捨て場で死にかけていたところを運よくサウリ先生に拾われ、治療と教育を受けて現在に繋がったのだとか。いつもの辛辣なヘルベチカがサウリ教授に対しては素直に敬意と愛情を示すのも頷けるエピソードでした。
パーティ後にはヘルベチカが過去を語れる間柄になったことが嬉しいと言うテウタちゃんにキスしたいと言い出します。いやあ、手が速い。そこでの応酬はいつもの小難しいからかい交じりのやりとりでしたが、それでも彼女に対し単なる興味以上の感情が生まれ始めているのを感じさせました。
翌日、雑誌の取材を受けていた女性が殺害されたと連絡が入り、身元確認のため二人は現場に呼ばれます。最初はテウタちゃんが運転していたのに遺体写真を見てテウタちゃんがショックを受けた後はヘルベチカが自ら運転席に座っていて、細やかな描写にぐっときますね。
手術を受けて新しい生活が始まると希望に溢れていた彼女が何故…という衝撃と、憧れに踏み出してもそこが自分に合っていないこともある、だからもしかしたら元のスラムでの生活を選ぼうとしてしまったのかもしれない…という暗い想像にやりきれなさを隠し切れないヘルベチカとテウタちゃん。それは世間から見ればニュースにもならないよくある出来事、けれども誰にも認識されずに通り過ぎていく出来事にしたくないとやりきれない思いをそのままにしておけず、テウタちゃんは患者のことを記事にします。そしてその記事を真摯に受け止めてお礼を言うヘルベチカ。何かが違えば同じ顛末を辿っていたかもしれないヘルベチカにとってきっとそれは小さな救いであり、彼の中でテウタちゃんの存在が他の女性達と少し違うものになった瞬間だと感じさせる哀愁と優しさのある一幕でした。
患者の死により雑誌は内容を変更して出版されたものの売り上げは絶好調、味を占めた出版社が今度は治療をドキュメンタリー形式で載せたいと新たな治療希望者、顔面に痛々しい火傷のある女性マグダを連れてきます。ところがヘルベチカが彼女に薬物中毒の症状があると見抜き、先にそちらをを治療しなければ手術は受けられないと告げると、マグダはヘルベチカに向かい「なら自分はどうやって今の自分を手に入れたのか、過去からは逃げられない」と激昂しました。マグダの言葉を受け、自分の過去に目を向けようとスラム街へ足を運んだヘルベチカは彼女に大量の薬物を投与されてしまいます。テーマがテーマとはいえ乙女ゲームで薬物過剰摂取のゲロまみれで倒れてたというのもなかなか刺激の強い内容ですが、ヘルベチカのキャラクターポジションとしても衝撃が大きかったです。ボロボロの、言ってしまえばものすごく惨めな状態をスチルで出す判断の大胆さ、そこから語られるヘルベチカの凄惨な過去と演じた声優さんの演技にも引き込まれてしまいました。
そしてヘルベチカからマグダはヘルベチカがサウリ先生と出会う前、盗みの際に逃げ遅れて一人捕まってしまった仲間で、ヘルベチカが行き倒れたのも彼女を助けようとして、保身に走った他の仲間の制裁を受けたからだということが明らかになりました。
底辺から抜け出したヘルベチカに置いて行かれた寂しさと暗い羨望、その気持ちに「仲間は何があっても抜けられない」というギャングの掟を乗せて彼をニコラという名前であった頃に再び引きずり戻そうとするマグダ。彼女はテウタちゃんとモズを攫ってヘルベチカをおびき出し、自分と同じ火傷をさせることで過去を思い出させれば自分の元へ戻ってくると画策しました。マグダの策略はテウタちゃんの能力で防ぐことが出来ましたが、二人を助けるために駆けつけたヘルベチカはマグダの気が晴れるならと自ら顔を焼いてしまいます。結果的にマグダの思惑通りヘルベチカは顔に火傷を負ったものの、彼がニコラの振る舞いに戻ることはありませんでした。そのことに激昂したマグダは激情に任せてヘルベチカに殴りかかりますが、彼が火傷と殴打によって気を失うと今度は彼の死、そしてまた一人になることを恐れるあまり錯乱しそのまま自分に向けて発砲してしまいます。
取り残されてしまうという恐れから他人の足を引っ張ってしまうというのは色々な場面であることですが、マグダの言葉からも仲間と下層にたむろすことへの安心感と這い上がることを牽制する圧力を感じました。ヘルベチカも「自分の意思でそこにいたいならそれでいい。あっちはあっちでいい所だ」と言っていましたが、そういう仲間意識や安心感を指してのことなのかもしれませんね。ただもう這い上がることを許さない空気にそのまま変われなくなっていってしまうんだろうなという恐怖も感じました。
テウタちゃんが咄嗟に飛びかかったことでマグダは一命をとりとめ、ヘルベチカも命に別状はありませんでした。意識を取り戻し、治療を受けるヘルベチカにサウリ先生は訊ねます。
「望むならヘルベチカではなくニコラ・リッツに戻ることもできる。お前は何故生きている?」

バッドエンド
ヘルベチカは「ニコラ・リッツ」に戻って生きることを決め、仲間達と顔を合わせることなく出奔しました。
彼のその行動はテウタちゃんから仲間たちとの絆への熱量を薄め、フィクサーのメンバーとは時折協力は続けつつも自分の仕事、日常へと舵を切ります。テウタちゃんは夢に向かって大きく一歩を踏み出し、街を出ることになりました。その日すれ違ったニコラが何かを言いかけて、けれど諦めて歩き去ったことに気づくこともなく。

今までのメンバーとは違い死別ではありませんでしたが、繋がっていた仲間達の絆は無くならずともゆるやかにほどけていったんだろうなと思わせるあっさりとした様子に逆に寂しさが募ります。
所でニコラは怪我をした状態か横顔しか出ていないので、2で「ヘルベチカがニコラに変装する」なんて場面が出てちゃんと顔を確認出来たらなと思いました。

トゥルーエンド
自分の生きたいように生きたいと号泣し、「ヘルベチカ」として生きることを決めるヘルベチカ。そして「それがお前だ」と優しく声を掛けるサウリ先生はまさしくお父さんでした。
治療が終わり、顔の包帯を外す時ヘルベチカは久しぶりに自分の顔と向き合い「自分はヘルベチカだ」と確かめるように呟きながらテウタちゃんを抱きしめます。その様子から自分の顔、自分であること、それは普段当たり前だと思っているけれどそう感じていられるのは幸運な事で、何かのきっかけで顔が変わった時、気持ちが大きく揺らいだ時、「自分」の基盤が揺れることもあるのかもしれないと心に留めておきたいきもちになりました。
退院したヘルベチカはマグダも治療することを決めます。また、過去とも向き合いたいと薬物中毒治療の映像記録テウタちゃんと二人で再生しました。ここは映像を鑑賞する二人がスチルで移されていて、「ニコラ」は音声しか出ていないのですが、呂律が回らず、恥も外聞もなく薬物を求める様子が本当に痛々しくかったです。ヘルベチカのお声を担当されている声優さんは、私には粗野なキャラクターを演じている印象の強い方で、ヘルベチカのような役は珍しいなと思っていたのですが、ニコラという下地あってのヘルベチカであることを踏まえるととても拘り抜かれた人選ですね。そして赤裸々なセリフも見事に演じ切っていらして、改めてすごいなと思いました。
テウタちゃんは映像を見た上で「ニコラの時間があって今がある、今のヘルベチカが好き」と彼を受け入れ、ヘルベチカもテウタちゃんの温もりに浸ります。そのまま円満に行くのかと思いきや、元々女性との距離が近いヘルベチカの素行に対する不満をテウタちゃんが消化しきれず、早々に気まずくなってしまいました。どちらが悪いというよりも感覚が違うのがよく解るやりとりで、だからこそ見ていてもどかしいワンシーンでしたね。テウタちゃんがヘルベチカを避けて数日、ここで二人を心配してヘルベチカに声を掛けるのがスケアクロウだったのが少し意外でした。いつもよりも大人びた様子で二人を何とかしないといけないと感じているのがよく解り、本当に思いやりのある子ですね。テウタちゃんの方も幼馴染二人に背中を押され、二人は互いに特別だと思っている心情を打ち明けます。
テウタちゃんは皆に愛されてる、彼女は幸せになるべきと言うスケアクロウに彼女を一番愛しているのは自分だと迷いなく言い切ったり、アダムに劣等感交じりの嫉妬を感じているヘルベチカ、やはり愛情深いと言うよりも執着心が強いという表現の方がしっくりきました。

【フルサークルエンド】


作中を通して重要なヒントをくれたり、あるいは情報の拡散に役立ってくれた情報SNSフルサークル、そして終始謎の組織のままで終わっていたルイ・ロペスについて明らかにされるエンディングです。

ルイ・ロペスに関わりある人間は各界の上層部にも広く分布していることが解り、ますます謎と警戒が強まる中、チャプター4で話題に上ったカルメンの恋人が戻ってくるという知らせが入ります。当時は仕事だと伝えられていましたが、実際は昏睡状態で治療を続けていたこと、もうさして長くないことが明かされました。付き添った病院で一度は気落ちした様子を見せるも、すぐ笑顔を見せたカルメンの気丈さは本当に美しく映ります。病室でカルメンから語られる恋人はルイ・ロペスの始まりの兄弟の兄の物語そのものでした。そして穏やかながら、「会ったことはないが彼を殺そうとした弟を許さない」という静かな決意が印象的でした。
カルメンと従業員のペペが安心して病室に残れるよう、テウタちゃんは彼女の店で留守番をしているアレックスの様子を見に行きます。そこでルイ・ロペスの人間たちが話しているのを目撃し、アレックスこそがルイ・ロペスの始まりの兄弟の弟であり、彼もまた組織を利用しようとする人間に騙されて兄を手にかけてしまったことが解りました。のぞき見がバレたテウタちゃんは撃たれ、アレックスもまた用済みと撃たれる音を聞きながら、テウタちゃんは能力を使います。ここでテウタちゃんに駆け寄り、何故撃ったのかと吠えるアレックスの激しい表情は今までの大人しい人物像に対して衝撃的でしたが、それでもやはり悪人には見えませんでした。能力でアレックスを店から引き離し最悪の事態は回避するものの、事情を聞いたアレックスは「自分には全てを始めた責任がある」とテウタちゃんを気絶させてどこかへ行ってしまいます。
テウタちゃん、そしてアレックスと連絡がつかないと心配したカルメンと仲間達が駆けつけ、テウタちゃんが事情を話すと、カルメンもルイ・ロペスのメンバーあることが明かされました。そしてカルメンはずっと探していた弟アレックスに対する憎しみを露わにします。いつだって朗らかで愛情深かったカルメンがいつも可愛がっていたアレックスを「あのクソガキ」と罵る様子は一瞬手が止まる程に衝撃的で、これまでのチャプターの中でそれだけ気を使って描写されてきたのだろうなと感慨深いです。そして恋人の最期よりアレックスを殺すことを優先しようとしたカルメンを説得したのはペペの「どんな時でも家族を優先するべき」いう言葉、カルメン自身がいつも言っていた言葉でした。カルメンは恋人の最期に立ち会うべく病院へ向かい、フィクサーは襲撃を受けるアレックスの救出に向かいます。ルイ・ロペスの繋がりで事件は簡単にもみ消せると大胆な手を使う相手を仕留めたのは、恋人を看取って駆けつけたフルサークルのオーナーカルメンによる現場の動画配信でした。颯爽と現れたカルメンのかっこよさ、そしてアレックスを探して殺すために作ったフルサークルを一時的とはいえアレックスを助けるために使うというひねりの利いた展開が本当にアツかったです。敵が警察に引き渡されると、今度はアレックスに向き直るカルメン。恋人は死んだ、今すぐアレックスを殺したいと銃を手に彼に迫りますが、恋人は最後に自分ではなくアレックスの名前を呼んで死んだのだと結局殺す事は出来ませんでした。カルメンがいつも他者に愛情深く接していたから、ペペはカルメン言葉を大切にし、真摯に説得しました。それによってカルメンは恋人の最期に立ち会うことが出来、また彼にとって弟が今でも大切な存在であると知ることが出来ました。カルメンを救ったのは今まで彼女自身が周りに与えた優しさ、つまりカルメン自身だったと思わせる、哀しくて、けれど優しい結果だと思います。
襲撃で傷を負い、入院するアレックスのお舞いに行くテウタちゃん。アレックスはこれまでの生活について「全部自分のためだった」と言いますが、それでもカルメンに対する親愛に嘘があるようには見えず、ままならなさにぎゅーっと切なくなりました。ルイ・ロペス創始者としての彼は今までのような愛想はなく、下層の人間としての言葉を語ります。淡々と上層下層の間にある溝や彼らがどう生きて来たのかを語る姿に、今までのチャプターで彼がテウタちゃんにかけていた言葉が当時感じたよりもずっとずっと深い意味を持っていたと感じられて胸にずっしりと響きました。帰り際「嘘は自分のため、秘密を守るのは誰かのためなんだ」とアレックスは言い残しますが、作中、あるいは現実でそれを明確に実感できるものがなく、こちらのセリフはなんとなく引っかかったまま面会は終了しました。
一方カルメンは今は話すのも無理だとアレックスと顔を合わせることこそできないけれど、アレックスの様子を毎日病院に確認し、彼を養子にする準備を進め始めます。亡き恋人、彼の兄を愛した自分にはアレックスに対する責任があるのだと朗らかに笑うカルメンはいつも通りの彼女でした。アレックスとカルメン、全く違う思いを込めて責任という言葉を使った二人はもう少し時間が必要だけれどきっと素敵な家族になれると確信できるエンディングです。そこで終わるのかと思っていたら最後にフルサークルに一つの情報が投稿されます。「アダム・クルイローフは人殺しだ」と。

【オールド ラング サイン】


スコットランド民謡のタイトル、日本では「蛍の光」ですね。日本語歌詞は研鑽を重ね日々の終わりに友との別れを迎える…といった、勉学に勤しむ日々を歌っている印象があったのですが、原曲の歌詞は「大人になれば友情は褪せるだろうか、いやそんなことはない、昔を思って盃を交わそう」といった内容のようです。テウタちゃんと幼馴染二人の関係そのままですね。
ストーリーは脳腫瘍に侵されていくアダムが死んだはずのテウタの兄ゾラの幻覚に悩まされ、奇行へと走る中でゾラの死の真実が明らかになっていきます。

突如現れたゾラに対しもう死んだはずだと動揺を隠せないアダムと「お前が殺して、秘密を守ってくれる友たちと繋がって隠してもらったんだったか?」と自分の死を肯定しつつ「お前の目の前にいるだろう」と矛盾したことを言うゾラ。画面が少しブレていて、目の前のゾラが実は生きていたのか所謂幽霊か何かなのか解らないこの時点ではアダムの動揺が現れているようにも見える演出が巧みです。
次のシーンからは日常パートでも目に見えて画面がぼやけ、何かがおかしいと思えてきます。冒頭でもペンを落としたり人とぶつかるシーンが続いていて、後々思い返すと整合性が増す丁寧な作り込みを感じますね。
スケアクロウの家でアダムの誕生日を祝った帰り道、テウタちゃんに恋人が出来たことでアダムを気遣うルカに彼はゾラと会ったことを打ち明けます。話を聞いて「どうしたらいい」と座り込み、今までにない弱弱しさを見せるルカにただならぬものを感じて全容が見え切らないもどかしさが募りました。
再びゾラがアダムの前に現れ、テウタちゃんの話をするゾラに動揺するアダム。しかし現れたスチルの中でアダムの前には誰もいませんでした。やっぱり幻覚だったんだ…と確信すると同時に誰もいない空間に向かってしゃべり続ける様子の異様さにアダムに何があったのか、いつだってテウタちゃんやルカを気遣っていた彼がどうしてこんな目に遭わなくてはいけないのかと苦い気持ちになります。
その後アダムの番組に出演したサウリ教授からアダムが以前から何かしらの疾患を抱えているらしいことが示唆されました。所がそれに続く教授の言葉は「ルイ・ロペスも終わった。見ているのはとても楽しかった。でも一番美しいのは壊れ始めた時だ」とその場と、今までの彼の印象にそぐわないものでした。次の瞬間、フルサークルに投稿通知が届くと教授はその場を去り、アダムはまた現れたゾラの幻覚を追って飛び出します。フサークルエンドでの投稿は教授のものだったんでしょうね。周囲の人間に気を払うことも出来ず、足がもつれるアダムはもう明らかに正常とは言い難い状態でした。けれどそんな状態になってもテウタちゃんとルカを心配するアダムのブレなさが辛いです。
そのまま倒れて病院に担ぎ込まれたアダムの視界は更に狭まり、周囲の人間とゾラの幻覚が重なるまでになりっていました。過去の出来事と現在が混同し、ルカとテウタちゃんを守ることしか考えられなくなったアダムは病院を飛び出して人の車を奪い、猛スピードでどこかへ向かいます。早く行けばルカを助けられるかもしれない、そう言って辿り着いたのは郊外の廃屋。追って来たテウタちゃんとルカ、フィクサーのメンバーとサウリ教授の前で幻覚も交えて会話をするアダムからこの場所でゾラがルカに性的暴行を加え、更にテウタちゃんにも劣情を抱いていたこと、それを止めるためにアダムがゾラを殺したことが明かされます。
「黙っててごめんね、言えなかったんだ。アダムは助けたくれただけなんだ、悪くないんだ」と繰り返して泣き崩れるルカはいつもの快活なお巡りさんではなく、一人の性犯罪被害者の女の子でした。チャプター3で防がれた死の間際に「許してあげて」と言っていたのはアダムのことだったんですね。そして「犯人がどうなっても被害者にとって事件は終わらない」と言っていたルカは自分の中の終わらない事件をずっと抱え続けながら他の被害者たちを見ていた。ゾラの妹であるテウタちゃんの傍で消えない傷を抱えながらそれでも心から笑っていた二人、あまりの壮絶さに涙が止まりませんでした。
そしてその出来事を知っていてアダムが壊れていく様を観察していたというサウリ教授。何かが壊れていく様を好んで観察する彼はアダムのこと、ルイ・ロペスのこと全てを知り、ただ人にきっかけを与えていたと言います。
ここで本当に秀逸だなと思ったのがその前の会話でテウタちゃんに恋人が出来たことが明言されている、つまり攻略対象達の誰かとのエンディングが確定していて、どのエンディングを前提としても辛い展開であることです。
リンボ:テウタちゃんが親友に大切な人を殺され、ナヴィードと同じ立場になった
スケアクロウ&シュウ:人一倍家族という言葉に思い入れがある中でテウタちゃんの家族であるゾラの人間性が明らかになった
モズ:恋人が処理したかもしれない兄の遺体は親友の手によるものだった
ヘルベチカ:ずっと頼りになる良き父であったサウリ教授の破壊的な人間性が明らかになった
そしてずっとテウタちゃんを特別に想っている様子が見受けられたアダムはどのルートでも彼女の背中を優しく押してきました。またチャプター4でテウタちゃんが新人賞を受賞した際の祝福も、彼女がゾラの死について自分に辿り着く一歩を踏み出したと考えると意味がまた違ってきます。サウリ教授に「何を望むのか」と問われ「ただ愛するだけ」と答えた通り、アダムの行動には一貫してただ愛だけがありました。
ここまで読むとフルサークルエンドでのアレックスの「嘘は自分のためだが秘密は誰かのため」という言葉が蘇ります。三人の関係、アダムの将来、ルカの心、テウタちゃんの中に残るゾラの面影、それらはゾラの一件を秘密にすることで守られてきました。この場においては間違いなく「秘密は誰かのため」でした。
そして二人にずっと守られていたテウタちゃんが断罪を望むアダムに言ったのは「あなたは”差し迫った危険”を感じた。そうでしょ?」。それはチャプター2で人を殺したイーディにリンボが言った言葉です。時を遡って塗り替えた後のこの時間ではその出来事はもうありませんが、テウタちゃんの中にはその出来事が残っている。時間を遡るという力の今まで描かれていなかった側面が描かれ、塗り替えられて消えた過去が息を吹き返すような運びに思わずうなりました。
なんとか正当防衛にするためにゾラはもう人が変わっていたはずだというテウタちゃんに対し、アダムはテウタちゃんの中のゾラを守ろうと記憶と違う発言を繰り返しながら意識を失います。ゾラはアダムの記憶の中でテウタちゃんへの執着を露わにしていました。それが荒んだ生活の中で歪んでしまった兄妹愛、あるいは許されざるも純粋な恋だったのか、それともただの劣情だったのか、どちらにしても今までテウタちゃんが語っていた在りし日の彼とは違って世間の言う「殺されても仕方ない」と一瞬思わせてしまう人物像になっている所が辛いですね。
アダムはリンボの手腕もあり、証拠不十分で不起訴になります。療養に向かう車の中でテウタちゃんの肩に持たれ他愛ない話をするアダム。けれどそれすらも幻覚でアダムは一人眠っていました。

オールド ラング サインが流れるエンドロールの後、事件直前に祝われたアダムの誕生日の動画が流されます。彼がロウソクを吹き消す前に願ったのは「今がずっと続きますように」。そして降板になったはずのアダムのニュース番組ではアダムがキャスターとして「愛とはどのようなものか」を語り、最後に「身の内に流れる愛を感じられる僕は幸せです」と発信した後今までになかった「おやすみなさい」というあいさつで番組を締めくくります。その更に後、線路を歩く幼い3人の後ろ姿が大人へと変わり、最後にアダムだけが線路の上に残ってこちらを振り返るというイラストが提示され、アダムが亡くなったことが示唆されました。
辛く、悲しく、報われず、けれど愛に溢れたエンディングでした。泣きました…

アダムの死は名言されていませんが2ではどうなってしまうのでしょう。アダムが死んでしまったのはとても辛いのですが、続編が決まったからといってそれをなかったことになったらそれはそれでちょっと複雑です。


【印象に残ったゲーム内の演出について】


本作では色々な伏線やキャラクターの情報が各チャプターや分岐で小出しにされていて、物語としての読み応え、繋ぎ合わせていく快感が味わえます。その中で特に印象に残った演出やスタンスをまとめて紹介していきます

・製作陣のメッセージとキャラの立ち位置
前半の各チャプターの前後に主人公 テウタちゃんの幼馴染 アダムがキャスターを務めるニュース番組が挟まれ、そこで製作陣からプレイヤーへのメッセージや問いが投げかけられるのが印象的でした。ここで上手いなぁと思ったのが、「ニュースキャスターのアダム」がそのメッセージを語ることで「キャラ自身が製作陣の意図を語る道具にならない」「アダムのセリフとしてメッセージを語らせつつ、実際のアダムのパーソナリティとメッセージを切り離している」こと。時々「これは作者が言いたい事であってこのキャラが自分の考えに基づいて喋った台詞じゃないな」と思うシーンに出会うことがありますが、あくまで製作陣の言いたいことをそのままに、そういった状況を防いでいて、見事だなと思いました。

・音楽の使い方
ささやかなシーンの鼻歌をバッドエンドで流す、思い出の西部劇映画の音楽をアレンジしてラストに使う等ちょっとしたシーンの音楽を効果的に挟む演出が多々あり、その場の臨場感と手前のシーンへの思い入れを一気に盛り上げてくれました。そういう演出がとても好きなので興奮しましたね。

・性別、性的嗜好への寛容さ
テウタちゃん達の行きつけの店の店主カルメンはスタイル抜群の女性なのですが、声は男性声優さんが務めていらっしゃいます。プレイ中ずっと「元男の人…だよね?」と気になるのですが、キャラクター達は一貫してカルメンを女性として扱っていました。そんなカルメンの性別がはっきり明言されるのはフルーサクルエンド。「マイノリティのアタシ」というカルメンの一言で「あ、やっぱり元男の人なんだ」とやっと落ち着きます。
他にはヘルベチカルートにてアダムがルカに「僕たちの失恋に乾杯」と言うシーン、シュウルートにてヤンが「女なんだから傷が残らないようにしてやれ」とテウタちゃんを気遣った際シュウが「お前もだろ」と返すシーンがあります。
ルカに関しては単純に「最早恋人の様に仲がいい同性の友人」とも取れますが、作中でルカが男性に興味を示すシーンもないため確定はしていません。
ヤンについては中性的な顔をしていますが体、声は男性で、生まれ持った性別が女性ということはなさそうだったので、今の所男性として生活しているけれども心は女性なのかもしれないというところです。
ただ確実、不確実な部分含め性別や恋愛対象を当たり前のように相手の希望に合わせているように見え、そういった社会はとても理想的なのではないのかなと思いました。

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