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ひさしの下、ビルの内側

放浪の末にオレゴン州ポートランドにたどり着き、住み始めて3年目に突入。映画AKIRAのように荒れるアメリカの情勢の中、日々生きる希望をポートランドでコツコツ集めている。住む街のいいところを見つけることは、わたしの人生のいいところを見つけること。1988年生まれ、鎌倉育ち。


今日は少し、「住む街のいいところを見つけることは、わたしの人生のいいところを見つけること。」というコンセプトから少しだけ離れます。

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ポートランドのサウスイースト地区に、いつも通っているナチュロパス(統合医療)クリニックがある。去年の初冬だったと思う、パートナーのマックスにクリニックまで車で連れていってもらい、その付近で路駐できるスペースを探していると、ちょうどパトカーの後ろが空いていた。ここでいいかと思って駐車したとき、ちょうどそのパトカーから白人の、長い金髪をポニーテールにした女性警官が一人、緊張したおももちで降りてきた。分厚い防弾チョッキを身に着け、大きな拳銃をいくつか腰にぶらさげている。

彼女は歩道を素早く横切り、歩道横にあるビルのエントランスで睡眠を取っていたホームレスの黒人男性に、今すぐそこを立ち去るようにと警告した。

わたしもマックスもドキリとした。

成り行き次第では、彼がひどい暴力をふるわれたり、殺されてしまうかもしれない。そうしたら、すぐに車から出て介入しなければ。警察の一般市民、とくに黒人に対しての命を奪うほどの暴力は、アメリカでは大きな社会問題になっている。

彼の所持品は、薄いフリースのブランケット一枚だけだった。彼はそれをつかんで、ゆっくりと、少しふらつきながら立ち上がり、警官を一瞬だけにらみつけ、エントランスを無言で離れていった。

警官からは手を出さずに済んだことにほっとした、そんな雰囲気が伝わってきた。それから彼女は気を取り直したように、ビルのエントランスに歩みより、大きなガラスの扉を開けて中に入っていった。ビルで働く職員に報告でもするのかもしれない。

男性を追いかけて、なにか渡したいような気持ちになった。少しだけ、5ドルくらいの現金を持っていたから。でも、逆に失礼になるのではないか、偽善ではないかと迷って、結局なにもできなかった。迷っているうちに、彼はストリートの角を曲がってその姿は見えなくなった。

ビルの内側に入る資格がない人と、ある人。
雨や風をよけるために、ひさしの下を使うのは悪いことで、ブランケット一枚しか持っていない人を、ひさしの下から追い出すのは法を守ること。

彼がわたしたちの眼前から立ち去ったことで、とりあえずは何もしなくてよくなった。そして、わたしたちも、クリニックのあるビルの内側へ入っていった。


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ケリー奈々緒
はじめまして!アメリカに住んで約11年のNanaoです。ポートランドで日々コツコツと楽しみを見つけて生きてるよ。もしよかったら↑のリンクからInstagramも見てみてね。