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年の瀬とスターバックス

 クリスマスが過ぎ、辺りはすっかり正月モードだ。片田舎の駅構内であっても例外ではない。
 年の瀬というものは忙しいのだろうが、私には暇が出来た。

 せっかくだから、スターバックス(以下:スタバ)にでも寄るか。そう思いたった私は、よく利用する駅構内にある店のスタバに向かった。

 スタバは私が中学生の時に日本に上陸したような気がする。
 当初はメニューが呪文にしか見えなかったというのもあり、敷居が高いという印象があった。とはいえ、それは初上陸時の話である。

 今は、特急が止まらないような片田舎の駅にもあるのだ。なんというか、時の流れを感じる。

 さて、スタバに来た。限定のフラペチーノとモカが柱のところに大きく張り出されている。
 今は正月だからか、どちらも抹茶風味だ。よし、モカの方にしよう。私は頼むものを決めた。

 もっとも、私は殆どの場合、限定のものしか頼まないのだが。何故限定のものしか頼まないのかというと「限定のメニューはだいたい甘いのでハズレはないだろう」と考えているからだ。

 別に甘い飲み物が特別に好きとか、そういうわけではないが。それに、私が好きなのはブラックコーヒーである。

 注文するために、レジに並ぶ。私の前に、数名並んでいる。長蛇というわけではないので、すぐに順番が回ってくるだろう。私は待っている間、店内を見回す。

 時刻は夕方どきだ。店内には、老若男女、満遍なくいる。本屋が併設されているということもあってか、どことなくゆったりとした雰囲気の店内だ。私はこういうところも気に入っている。
 席には余裕があるようだ。決めた、店内で飲むか。

「お待たせしました」
 店員に呼ばれたので、私はレジに向かう。

「これをお願いします」
 私は限定メニューを指し示した。一応言っておくが、ここではきちんとメニュー名を言っている。だが名前が呪文のようなので、覚えていられないのだ。

 検索すればいいのだろうが、それを記載したらしたで、読む側が面倒くさくならないだろうか。それに、ここではメニュー名は重要ではないし。

 店員がメニューを復唱したので、私は「はい」と返事をする。
 会計を済ませるために、バックパックから財布を取り出そうとした、その時である。

「そのキーホルダー、可愛いですね。ほっぺちゃんでしたっけ?」

「高校生の時に初上陸したと言っていなかったか。いい歳だろう。なんでファンシーなキーホルダーをつけてるんだ」という突っ込みをしたいものも中にはいるだろう。そこは、一先ずおいといてほしい。

 見知らぬ人に、キーホルダーに食いつかれる。これは私のウン10年という人生では、初めてのことだ。

 もしかしたら、これを読んでいる方の中には、私のようにバッグにつけたキーホルダーに食いつかれる、という経験をされた方がおられるかもしれない。

 しかし、しつこいようだが私にとっては人生初のことなのだ。だから改めて、こういった形で文章化してみたわけである。

 また、その店員は「トッピングは何にしますか?」と尋ねてきた。

 わざわざトッピングのことまで尋ねてくるとは、なんて営業スキルが高いんだ。そう思ったが、これはマニュアル通りだろう。尚、トッピングは頼んだことがない。

 とにかく、キーホルダーに食いつかれたということが印象に残っている。その印象が店員の一挙一動に何らかの意味があるように見せたのだろうか。
 印象に残っているといえば、その店員はハキハキとした受け答えをしていたような気がする。

 それにしても、片田舎のスタバにキーホルダーに目をつけるような人物がいるとは。

 これは、誰も気に止めないようなことに目が向くということだ。ダイバーシティだと叫ばれる昨今だ。このような目線を持つことこそ、重要なのではないだろうか。
 願わくば、スタバのバイトに甘んじることなく、大成せんことを。

 私は心の中でそう勝手に願いながら、店内の席で限定の抹茶ラテを飲む。その抹茶ラテは香ばしい風味がした。そういえば、抹茶玄米とか書いてあったような気がする。

「抹茶系ドリンクにハズレなし」
 私は口の中で抹茶を存分に堪能した。

 ちなみに私がつけていたキーホルダーはモルカーのアビーである。店員に「ほっぺちゃんですか?」と聞かれたとき、私は「モルカーです」と訂正した。

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