【2021年版】犬猫の殺処分数は3.3万匹に減少。数値規制が施行され「調整」と「挑戦」の年へ。
2020年12月25日、犬猫の殺処分数値が更新されました。環境省の「犬・猫の引取り及び負傷動物の収容状況」では、2019年度(令和元年)に殺処分された犬猫は3万2743匹であったことを公開しました。
最新の数値と社会情勢について、保護犬猫マッチングサイトOMUSUBI(お結び)事業責任者の井島がまとめます。
犬猫の殺処分数は前年から15%減少も、猫は犬の5倍
2019年度の殺処分は前年の3.8万匹から3.3万匹まで減少。犬の殺処分が5,635 匹、猫の殺処分2.7万匹と、依然として猫の殺処分が犬を上回り、約5倍という結果となりました。猫は繁殖能力が高く、飼養者の管理不足による想定外の妊娠・出産を繰り返し多頭飼育崩壊に陥るケースや野外繁殖の問題が根強く残ります。
避妊・去勢手術は「人間のエゴだ」と批判もありますが、これ以上不幸な命を増やさないために、現代社会に必要な活動です。2021年はより避妊・去勢手術やTNR活動への理解が深まり、野外で暮らす猫たちとの共生の在り方を考えていく必要があるでしょう。
保護犬・保護猫への関心度は5年前に比べ約6倍に。返還・譲渡数は横ばい。
行政が(センター等で)引き取った犬猫の数は9.1万匹→8.5万匹で前年比7%減少しました。そのうち、元の飼い主や里親へ返還・譲渡されたのは5.3万匹でほぼ横ばいの傾向です。
近年の自治体と保護団体による飼養者教育・譲渡促進の努力によって、殺処分問題や保護犬・保護猫への関心度は高まりつつあります。検索キーワードのトレンドを調べてみるとその傾向がよく分かります。5年前と比べて保護犬は5倍、保護猫は7倍と増加しています。
最近では民間運送会社と行政が殺処分を回避するため協定を結ぶ動きなど、ペット業界に限らず「解決すべき問題」として捉える動きが加速しています。
犬猫の殺処分、3つの分類とは?
2018年度分の数値更新から、殺処分数は3つの項目に分類・内訳して公開されるようになりました。とても大事なポイントなので、ぜひ下記リンク先も確認してください。
集計方法に関しては「ごまかしが効く」と否定的な声もあります。しかし殺処分の数値を分類・集計することで、今まで曖昧だった地域別の課題や注力すべき施策の共通認識化が進めやすくなる期待もあります。
今後もブラシュアップを前提に、推進して欲しい取り組みだと感じています。
今後も殺処分数は減少していくのか?その理由とは?
環境省が公開している殺処分数推移グラフからも分かるように、殺処分数は毎年減少しています。昨今の情勢を鑑みれば、今後も(緩やかだったとしても)減少が続くと考えられていました。
しかし殺処分を回避するために保護団体の負荷は増加しており、ギリギリのキャパシティで運用されているところも多いです。また、保護犬猫からの譲渡をより一般化するには、譲渡条件や時間(手間)の壁を越えるためサポート強化の必要性も浮き彫りになってきました。
また、今年は新型コロナが及ぼした変化や動物愛護法改正に伴う数値規制など、ペット業界にも大きな影響が生まれています。
それぞれの状況を深堀るのにこの場だけでは足りませんが、現状と懸念を少しまとめてみましょう。
1_コロナ禍のペット需要と保護依頼増加
2020年は新型コロナの感染拡大によって、ライフスタイルの変化が見受けられた年でした。終わりの見えない自粛期間に突入すると、生活に癒しを求めペットを迎える家庭も少なくありませんでした。
執筆段階では正確なデータは出ていないところが多いものの、OMUSUBIも感染拡大前に比べ月間応募数が2倍以上となりました。一般社団法人ペットフード協会の全国犬猫飼育実態調査では「1年以内飼育開始者(新規飼育者)の飼育頭数は19年と比べて増加し、増加率もそれ以前の年に比べて大きい。」とペット需要増加の傾向を捉えています。
一方で、生活・就業環境の変化をきっかけにペットを手放す飼い主さんや、コロナ禍でペットを迎え「想像と異なる」「やはり経済的に厳しい」という保護依頼を寄せるケースもありました。
OMUSUBIが実施した保護団体さんへの新型コロナ影響アンケート調査では、感染拡大に伴う譲渡会の中止、感染対策のための人員不足、支援の減少など「影響を受けている」と回答する団体が90%でした。
OMUSUBIでは譲渡機会の創出、他企業コラボを通した支援企画に注力した一年でした。しかし2021年、多くの業界で疲弊が見えてくると思います。その中で自分たちがすべきことをしっかりと見極め取り組んでいきたいです。
2_事業者への数値規制が2021年から開始
2019年の動物愛護管理法の改正に伴い、犬猫を扱う事業者への数値基準が設けられることになりました。2020年12月25日の動物愛護部会では、最終的な数値基準と施行に向けた経過措置期間についての議論が行われました。
悪質な繁殖業者(ブリーダー)の排除に着眼した意見が主な議論ポイントとなっていました。今回の数値規制は2021年6月から施行され、段階的な経過措置を経て3年後に完全施行となります。
経過措置が設けられたことは賛否両論あるのが現実です。しかし、個人的には健全化に向けて市場が動いた時に、行き場を失う犬猫のセーフティネットが存在しないことを懸念していたため、運用・推進すべき規制の理想と、遺棄・殺処分など避けるべき現実。その折衷として長すぎも短すぎもしないのではないかと感じているのが正直な感想です。
私自身も様々な意見や情報を元に学んでいきたい部分です。
数値基準策定の検討会にはほぼ参加してきましたが、「これは客観的な判断が可能な、定量的な基準になっているか」が細かく確認されながら進んでいた印象でした。肌触りの良い数値をつくることもできますが、現実的に運用され、悪質な運営を続けている事業者にとって不動の壁にならなければいけません。
発信される意見や情報を見ていると、事業者にとっては「短い猶予の厳しすぎる基準」動物愛護を念頭に置く方にとっては「長い猶予の緩すぎる基準」と捉えられているようです。
その中でも「正しく運用する事業者が正しく評価されるきっかけになって欲しい」と願う事業者の声もあります。
社会システムを作り上げるというのは、このような多種多様な意見・事実・理想を練り込んだ先にあるのだろうなと思います。社会を嘆き、敵対視するのではなく「これから進む道を正解にできるかどうかは、自分次第かもしれない」そんな想いで議論や相互理解に取り組む社会であって欲しいと願っていますし、私自身も視野広く、視座高く意識を持ちながら尽力しようと思います。
数値基準と経過措置期間が明確になったことで、事業者はいよいよ数値基準の遵守に向けて本格的な調整に入ることが予想されます。数値規制の実際の運用に向けたガイドライン等はこれから検討が進められるようなので、引き続き要注目ですね。
新型コロナの影響もあり、当初想定されていたような運用体制の実現など、懸念事項はたくさんあります。ただ分かるのは、業界の新たなスタンダードを築いていく数年になるということ。
さまざまなニュースが取り沙汰されていますが、それがどのように数字として現れてくるかは正直予想の域を出ない状況です。殺処分を減らすも増やすも、悪質な事業者を減らせるかも、官・民や業界・愛護の垣根を越えて協働できるかにかかってくるのではないかと感じています。
そのため、社会的な合意形成に向けた「調整」と新たな社会に向けての「挑戦」の年としました。
一番の当事者である動物たちが「こうしてよ!!」と主張してくれたら。何度夢見たか分かりません。
でも彼らは静かに耐え震えるしかない。そして彼らの中にも多様な主張があるでしょう。
ならば、多種多様な意見を調整し、社会的合意形成を通して実現する挑戦の年にしましょう。