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2020年、犬猫の殺処分問題の現状と課題とは?

こんにちは、OMUSUBI(お結び)事業責任者の井島です。数年前に比べると、殺処分問題についてメディアが取り上げることも増え、犬猫を取り巻く社会問題への関心の高まりを感じます。

キーワードの検索推移が見られるGoogle Trendで「保護犬」「保護猫」を確認すると、5年前に比べて約6倍~8倍に増加しています。

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日本での殺処分数は年々減少傾向にあり、これは行政や保護団体の精力的な保護・譲渡活動や、日本社会で保護犬・保護猫の存在認知が進んできたことが要因として挙げられます。

一方で、殺処分を行う行政窓口に過度な批判が殺到したり、「殺処分ゼロ」の数値目標を目指す行政からの依頼で保護団体に負荷が集中したり、盲目的な殺処分ゼロ推進から弊害も生まれつつある状況です。

今回のnoteでは殺処分問題の現状と課題整理の重要性について書いてみようと思います。「殺処分問題に興味がある」「サマリを知りたい」という方は参考にしてください。

■日本の殺処分数は減少傾向

殺処分数の環境省データは大体11〜12月頃に更新される傾向にあります。平成30年度は年間3.8万匹の犬猫が殺処分されています。10年前は27万匹/年だったため、大幅に減少したことがわかります(依然として手放しに喜べる数字ではないですが…)。

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■殺処分される命の80%は「猫」

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あまり言及されないのですが、殺処分の8割は猫が占め、そのうち5割はまだ離乳前の仔猫です。地域にもよりますが、離乳前の仔猫の保護先や授乳する人手が確保できない場合、即日処分になることもあります。

※殺処分状況・数値は環境省「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況」で確認することができます。

■殺処分数3つの分類

平成30年度分から殺処分数を3つに分類する取り組みが新しく開始されました。

■殺処分の分類
1. 譲渡することが適切ではない(治癒の見込みがない病気や攻撃性がある等)
2. 愛玩動物、伴侶動物として家庭で飼養できる動物の殺処分
3. 引取り後の死亡

参照:動物愛護管理行政事務提要の「殺処分数」の分類

施設に引き取られる犬猫の中には、回復の見込みがない病気や怪我を負っているケースもあります。

身体的・精神的苦痛を持ちながら収容し続けることはアニマルウェルフェア(動物福祉)の観点からも好ましくないと考える傾向もあり、盲目的な「ゼロ」の達成ではなく、本質的な「ゼロ」を目指すために今後ブラシュアップし、運用・活用されることを期待しています。

■引き取り元の割合は「所有者不明」が最も高い

平成30年度は9万匹の犬猫が保健所など行政施設に引き取られています。

最近ACジャパンのCMで、優しい絵のタッチの親子が「親切な人に見つけてもらってね」と子犬に別れを告げるシーンがあります。それに対し「優しそうに聞こえても、犯罪者のセリフです」というナレーションが動物遺棄は犯罪であることをストレートに伝えており反響を呼びました。

犬猫が保健所にたどり着くまでのエピソードで「引越しをするから連れて行けない」「病気になってしまったから手放したい」など、無責任な飼い主による事例は多く語られます。

しかし、引き取り数の割合は「所有者不明」が最も高く、犬の場合89%、猫の場合は81%が所有者不明で引き取られている状況です。

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この状況を鑑みると「殺処分数の減少」を目指す場合、無責任な飼育放棄を防止すると同時に、所有者の明確化、所有者がいない犬猫の環境改善(TNR活動を通した野外繁殖の減少)等も重要視する必要があるでしょう。

※現状は犬猫のマイクロチップ装着率は低い状況ですが、2019年の動物愛護管理法でマイクロチップの装着が義務化されました。

▶︎行政は引き取らなければいけないのか?
昔、保健所が犬猫の引き取りを求められた場合拒否することができませんでした。しかし2012年の動物愛護管理法の改正で、所有者からの引き取りを拒否することが出来る事由が明記されます。これは終生飼養を促すことで、殺処分の減少を図ったものです。

しかし所有者ではないと偽り引き取りを強要するケースや違法に遺棄するケースなど、課題は残っています。そして2019年の改正では、所有者不明の犬猫の場合でも、相当の理由がない限り引き取りを拒否できる事項が追加されました。

■保護犬猫は未だマイナーな選択肢

保護犬・保護猫への関心は数年前に比べ高まっているものの、実際に保護されている犬猫を迎える割合はそこまで高くありません。保護犬から迎えた方は全体の7%、保護猫は15%に止まっていると言われています(※一般社団法人ペットフード協会資料から)。

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上記の数値を見てみると、保護犬猫の存在の認知も広がりつつあっても、主要な選択肢というには遠い現状です。

保護犬猫からの譲渡は、お金を払って即お迎えできるペットショップよりも時間も手間も覚悟も必要になります。時に譲渡条件の厳しさで心が折れてしまう方も多く、「保護犬/猫から迎えようとしたけど、審査で落ちてしまい結局ペットショップから迎えた」という話も珍しくはありません。

譲渡前の審査基準は保護団体によって千差万別ですが、安易なお迎えによる飼育放棄・ネグレクト、里親詐欺(※)を最大限回避する目的があるという点で共通しています。一度辛い思いをした犬猫の第二の人生を思うリスクヘッジと譲渡一般化へのバランスが、非常に難しいポイントです。

※意図的に里親希望者を装い、譲渡された動物を虐待する事件もあります。

■新型コロナの影響はペット市場にも

新型コロナ禍においてペット流通市場も影響を受けていました。特に外出自粛期間の長期化により、ペット需要の増加が顕著に現れていたように思います(保護犬猫マッチングサイトOMUSUBIでは月間応募数が通常の2倍に)。

保護犬・保護猫を迎えることを検討する方が多いことはポジティブですが、ステイホームが推奨される生活様式がずっと続く訳ではありません。そのため安易なお迎えによる飼育放棄・ネグレクトを懸念する声も多く出ています。保護団体の場合は希望者に対して譲渡審査を設けることがほとんどですが、ペットショップ等からお迎えするのは容易です。

また、生活環境の変化や経済的な理由で愛犬・愛猫を手放す判断をする方も出てきています。この辺りがどのくらい数値に影響しているのか把握できるのは来年以降となりそうですが、社会に変化が起きるとき、その影響は動物たちへも地続きであることを念頭におくべきでしょう。

■動物愛護管理法の改正、期待と懸念

2019年の動物愛護管理法の改正では、一部の悪徳な繁殖・販売業者を排除することを目的に数値規制が導入されることになり、2021年6月から施行されます。客観的に判断できる明確な基準が設けられることで、課題の多さを指摘されていた繁殖・販売業者の健全化への一歩となる事が期待されています。

一方で、数値基準のすり合わせ議論のみが注目され、規制強化の影響で廃業が予想される業者から漏れ出し、行き場を失う犬猫のセーフティネットをどう構築するかの議論が未完全な印象です。

そのように気になる状況もあったため、OMUSUBIでは数値規制に関して共同で保護団体アンケート調査を実施しました。

元々キャパオーバーで活動している団体が多い中、数値規制は保護団体(第二種動物取扱)も準用対象になる背景もあり、漏れ出す犬猫のセーフティネットを保護団体が主体となり構築することは難しい現状が垣間見えます。

そうすると繁殖・販売を行う事業者による譲渡推進の必要性が明白になる訳ですが、「数値規制のみ敷くからあとは事業者の自助努力、自己責任だ!」という社会のスタンスでは、結局被害を被るのは犬猫たちなのではないかと感じています(個人的には)。

殺処分問題は生体流通の課題のみが引き起こしているものではありません。業界を構成するステークホルダーは間接的にでもこの問題に関わっており、私たちOMUSUBIも例外ではありません。

数値規制がペット業界の健全化へと作用するか、それとも探れないほど深く潜る闇を作ってしまうのか。それは各企業・個人の当事者意識と「業界側と愛護側」という消極的で無意味な壁を崩せるかにかかっているのではないかと思います。

関連記事:動物愛護管理法改正|犬猫の数値規制4つのポイント

■殺処分問題の解決に向けて必要なこと

殺処分問題においてさまざまな角度からの意見や施策が混ざってしまうことは往々にしてありますが、私たちはレイヤーとして区切り課題・施策整理をすることで、議論ポイントの明確化を図っています。

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例えば繁殖・販売レイヤーにおいては、悪質な繁殖・飼養環境での過剰繁殖や流通過程での犬猫の死亡、犬猫の特性を無視した販売環境などが課題に挙げられます。取り組みとして今回の数値規制の導入や、そもそも「ペットショップで買わないで」と非売を求める運動もあります。

また、保護レイヤーに関しては、盲目的な「殺処分ゼロ」が求められるあまり保護団体への負荷が増大していることが懸念されています。「保護団体さんが可哀想」という感情の話ではなく、限界まで保護を引き受けるあまり、管理コントロールを失い多頭飼育崩壊に陥るケースもあるのです。

保護団体自体が持続可能な活動を意識することも大切ですが、行政側の適切な協力や社会の支援が必要です。

私たちが運営する保護犬猫マッチングサイトOMUSUBI(お結び)の場合、プラットフォームとして保護犬猫の認知拡大・譲渡促進を目指しつつ、登録保護団体さんを対象にした支援企画や個別でのオンライン活用サポートも実施しています。

このように、例えば殺処分問題解決のために何か活動したいと考えた際、どのような要因が存在するか、数字の内訳はどうなっているか、自分がアプローチできる部分はどこか等を把握することで、対象課題の明確化や具体的な指標の策定に繋がるのではないでしょうか。

最後に|殺処分問題における数字の役割は「共通言語」

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ここで少しだけ、私の想いを書かせてください。

言葉を話さない動物を対象に動物福祉(アニマルウェルフェア)の実現を目指す時、人間はある種の自己投影で動物たちの声を予想するしかありません(もちろんデータや研究を元に立証できることも多い)。

すると、課題解決のための議論でも、多様な価値観の中では感情論と主観で飽和してしまうことが多々あります。少し意見が異なると敵対視し、情報も意見も交わさずお互いそっぽを向き、多角的な視点を取り入れた解決策を生む機会を殺してしまうのです。

それはペット流通市場の健全化を遅らせ、極論、殺処分の持続を助長するようなものだとも思っています。目指す社会は同じはずなのに、私たち自身が遅れの原因、壁になってしまうのです。

その中で数値だけは、多様な価値観の中で唯一の共通言語として機能します。しかし数年前の数値が引用されるなど、まだまだ軽視されているように感じることも多いのが事実です。

もちろん私も「この問題は完全に掌握した!!」と思っている訳ではありません。ただ、自分がペット流通市場の課題に向き合う時にまとまってて欲しかったなーと思う情報を整理し、少しでも同じ想いの方の役に立てればと思っています。

全ての命が尊重され、犬や猫、もちろん人にとっても優しい社会になりますように。

(追記)2020年12月に公開された最新の殺処分数値は下記noteにまとめてあります。

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井島 七海 | PETOKOTO
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