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私と私のお話③ Nより〜『空よ』〜
水色の空がその日は一段と綺麗だった。
冬のこの日は何度も空を見上げてきた。北国では晴れている日がほとんどない、といってもいいほど冬は曇っているか雪が降っている。
時々晴れている日があるとNは空を見上げる。綺麗で色んな色をしている空が大好きだった。好きになった理由は分からない。気づいたら好きだった。
朝も昼の空も、夕方も夜空も大好きである。空は時々私の記憶を引っ張りだしてくる。
そう、今日のような青空のときも――。
子供の声が響く中、Nは家路に帰宅する。
「ただいま」
「おかえり」
同居している祖母が料理をしながら出迎える。
返ってきて早々と部屋着に着替える。無言で制服を和室のハンガーにかけた。そのままテレビを付けて観る。ローカル番組はつまらなく、チャンネルを切り替える。
勉強しなきゃ、と思う気持ちをよそに面白そうな番組を探している私。
「Nちゃん、今日何かあった?」
「んー、なんもないよ」
祖母にそう返事をして、いじっていたチャンネルを戻す。リュックを持って二階へ行く。気持ちが重い時は自室にいたい気分である。
部屋に行き、リュックを置き、ベッドに横になる。
三年生になり部活を引退してからずっとこうである。
特別にいいことも悪いこともない。でも気分が晴れないのだ。独りぼっちでいるような感じがする。
今は学校から家に帰ってきて静かに泣くのが多くなった。
時々、祖母にバレたり、バレそうになる。知られると厄介だから時々「あくびしただけだよ」と言って嘘をつく。
今日も泣きそうになる。
いや、もう目から涙が一つ、二つと零れている。
「なんで勉強ができないんだろう」
そう思った。勉強ができたら、頭が良かったら違ったのにと思った。
母親は私が勉強できないことをとても心配した。塾にも通ったが成績が上がらない。
今は家庭教師がついている。母は何故勉強できないことを嫌がるのだろう。できなくてもいいじゃないか、と思った。
家庭教師に言われた「こんなのもできないのか」「できて当然」と言われたことを母は知らない。
なぜ、あんなに頑張るのか分からなかった。今でも、当時、何の目的で必死になっていたのか不明である。でも、受験に受かることが一番であった。
そして、勉強して頭良くなって、母に怒られなくなるようにするためであったことだけは覚えている。
それ以外は記憶にない。
けれど、中学三年で望んでいたことが、高校生活を苦しめることになるなんて、中三の私は知らない。
何も思わず、多々ひたすら、試験に受かるためだけに本屋で無理やり泣いて買ったドリルを開く。
言葉は理解出来るが、何のためにやるのかが分からない。
ペンを持って同じ場所を繰り返し読む。
「それさっきも読んだよ」と心で言いながらノートに答えを書く。
空が引っ張り出してくるのは悲しい記憶ばかりである。
というより、楽しいときの記憶がどこかへ行ってしまった。
空は好きであるが、悲しみを持ってくる。
Nが中学3年生の受験期であった時のお話。この頃は、毎日帰ってきて一人泣いてばかりだった。でも家族にバレるとめんどくさいからテキトウに誤魔化していた。心配してくれた祖母はもういない。
この時から自分の気持ちを言葉にするのが嫌だった。全て否定されるから。
空は好きだけれど、悲しい気持ちになることが多い。特に冬なんかはそう。
Nの中学3年生であったこと。
登場人物
・N(私)→この記事を書いている本人。
・Y(私)→この記事を書いている本人のもう一人。Nが作り出したもう一人の自分。