東京OLごっこ
12月28日。世間は仕事納めの日だった。私も同じく仕事納めで、ランチのあと午後はデスクの整理と部署内の掃除をした。それはそれは念入りに。
仕事を納め、この仕事を辞めることに決めたのは約一ヶ月前である。
10月から入った職場の部屋は、三部署が入っており、みんなでお茶したりおすそ分けのお菓子を食べたり平和な日常を過ごしていた。他部署の方は、私を気遣ってくれて優しい人ばかりだった。
肝心の自分が配属された部署の仕事は、長期間にわたる案件を継続的にこなし、派遣なのに本部会議に出席しなくてはいけないところ。議事録をその場でパソコンカタカタするのではなく、会議資料にメモをして、ボイスレコーダーに録音したものを聞きながら起こさなければいけなかった。
たった2時間の会議のために一人20枚以上の紙を印刷する。そして会議終了後は、秘密保持のため即シュレッダー。紙がもったいないの極みである。ペーパーレスでiPadを導入して会議をおこなう会社を知っているからこそ、印刷代をケチってカラーコピーしてと言われるくらいの部署に無駄だと感じる。
平成30年がおわる。
この時代に逆行するようなことが、今でもふつうに、それが当たり前のこととして行われていることに違和感を感じた。違和感どころではない。「は?バカじゃないの?」と私の顔には書いてあったと思う。
私の上司(男性)は「女がコーヒー淹れるの当たり前、コピーや電話をとるのも女、俺の仕事じゃない」と本気で思っている人だ。そして、100キロ以上ある巨漢だ。
「人は見た目が9割」という新書と「人は見た目が100パーセント」とドラマを思い出した。人を見た目で判断してはいけないと刷り込まれている私たちにとって「性格は見た目に出ているのかもしれない、いや見た目からしか判断できないから見た目が重要なんだ」とおしえてくれたものである。
派遣会社の面談は、だいたい人事の方が同席したりするものだ。しかし、ここはなぜか巨漢の上司ともう一人の巨漢の職員と、同じ部署で働く派遣の方が面談に訪れた。こんな場面に派遣が同席するのは、ほぼない。
初対面であるこの面談で、うすうす気づいていた。少しおかしい部署かもしれないなぁと。まず問題の巨漢上司は、面談でこう言った。「残業はしないでほしい。自分のペースに合わせて今日は18時までやるとか、そういうのではなくきっかり定時で上がってほしい」もちろんこれは私にとって大歓迎だった。
しかし、実際に働いていたある日のことである。定時17時の15分前、16時45分に「今日中にメールを送ってほしいんだけど」と指示がきた。その説明も長く何回も繰り返して言う。1回で十分の指示を3回以上は繰り返して言わなければ気が済まないらしい。案の定、5分以上説明だけでかかった。
「悪いんだけど、今日中にやってほしいから少し残れる?」
この言葉を聞いたときに思ってしまった。「こいつはやっぱりバカなのか」と。すぐに私の口はこう言った。「今日はちょっと。」そもそも残るなと言われているのに、もっと前に指示できない巨漢上司が悪いと感じるのは私だけだろうか。
言っていることが矛盾している。それがとてつもなく、嫌だと感じた。
なんだか気持ち悪いと感じるのは何故だろう
巨漢とオブラートに言っているが、言い換えればタダのデブである。私は太っている人が昔から苦手なのかもしれない。(と言いつつ家族はぽっちゃりが多いのだけど)デブにストーカーされたわけでもないし、DVされたわけでもない。
なんだか見た目だけで苦手なのである。女子特有の「なんとなく」「生理的に無理」というやつだ。理解できないかもしれないけど、いやなもんはいやなのだ。
そんな私がいやだと思っている人・巨漢上司は、他部署の方にこんなことを言っていたらしい。「若くてかわいい子が入ってくる」「●●さん(私)と距離を縮めたいんだけど、どうすればいいかわからない」書いているだけで寒気がはしり、吐き気がした。他部署の方は「ランチでも誘ったら」とアドバイスしたらしいがその誘いはなくて、ほっとしている。
私も人を見た目で判断するように、向こうも見た目で判断をしているんだなぁとつくづく感じた。私は自分でいうのもいやだが若く見える。それはもう事実として受け入れることにした。言われるもんは言われるんだから、むしろ若作りしていこうと思う。
巨漢上司は、過去に面談で来た派遣の方が40代以降だったからという理由で、受け入れしなかったことがある。思考すべてが「きもちわるかった」
まだこんな風に女を見た目と年齢で判断する人が、たくさんいることにがっかりしたと同時に思ったのは、私も見た目で判断しているから嫌いなものは嫌いと言おうということだ。
巨漢とデブが嫌いなのは、やっぱり自分に甘いところが受け入れられない。
少しでも痩せたいと思うなら痩せる努力をするべきなのだ。病気で痩せることが難しいわけでない限り、人は本気になったら痩せられる。「俺はまだ本気になっていないだけ」とでも思っているなら、それは怠慢なんだ。
尊敬できる人が好きということ
私は、好き嫌いがはっきりしている。嫌いなもんは嫌いで、好きなもんはめちゃくちゃ好きだし一途に好きと言い続ける。
好きなものも変わりなくて、同じものばかり食べているし、同じものばかり飲んでいるし、同じ歌しか歌わないし、同じような仕事ばかりしてしまう。
スタバも書店も大学事務も2回ずつした。ぜんぶ嫌いになって辞めたわけではないし、今でも働いてよかったと思っている。だったら、なんで辞めたのかという質問が飛んできそうだ。
それはやっぱり人かもしれない。
同じ仕事をする以上、尊敬できる人といっしょに働きたい。昇進したら仕事をしなくなるのは何故だろうと考えたときに、今までやっていた仕事を人に任せるからだと思った。しかし、その仕事をやらなくていいわけではないし、部下が大変なときは手伝ったり、良い方向に導くために道筋を見つけてあげるべきなんじゃないだろうか。
自分の思った答えを部下が用意してこなかっただけで怒る人もいる。果たしてそれが正解なのだろうか。部下の意見が聞けなくなる人に多いのは、共感をまったくせずになかなか違う意見を受け入れることができない。かなしい結果である。
人に教えることが苦手な私でもわかるフィードバック
巨漢上司も、前の上司も人格を否定するようなフィードバックをしていた。そこまで言わなくてもいいんじゃないかと他人が思うくらいに。褒めるのは人前で、注意するのは一対一でということができないのだ。
人前でわざわざ注意をすることが、自分の偉さをアピールしているようだった。
マナー研修も、ハラスメント研修も受けているのに、なぜわからないものか。私には理解できなかった。やはり新しいことを学ぶには、古い記憶を捨てるしかないし、人間はほんとうに勉強しないと腐っていくだけだと感じる。
正しいフィードバックができる人の言葉は信じられる。何が悪いのか明確で、伝えるのがうまい。次はちゃんとやらなくちゃと思わせてくれる。ちゃんと人を見ているし、細かいことに気づく。そしてそれをちゃんと伝えるのだ。
私の働くうえでの鉄則は、ありがとうをきちんと伝えること。できていないときもあるかもしれない、それは余裕がないとき。ちゃんと覚えていて、あとからでも伝えるようにしようと決めていて、わざわざ言ったりする。
ありがとうは魔法の言葉だよ。と誰かが言っていた。すみませんと簡単に謝れない人は、まずありがとうって伝えるのがいちばんだ。
ありがとうのその先に
12月27日。私は同じ大学で働いていた他部署の方と、同じ部署の派遣の方とカラオケをしていた。ふたりには本当にお世話になって、ふたりがいなかったら一週間くらいで辞めていたとつくづく思う。
カラオケのあと、近くで美味しいごはんを食べて、色々話したりまったりしていると、派遣の方が青ざめてスマホを見ていた。
私は、今年いっぱいの明日で契約終了で、派遣の方は1月末までの予定だった。1月末までの予定が急遽「1月まで更新できないかもしれない」という連絡が派遣会社から入ったのだ。
更新できない理由は、1月の年始休みをとりすぎという理由だった。それは何日も前から共有してあるのにも関わらず、なぜ今日という日に巨漢上司は派遣会社にクレームをしたのだろうか。
9日まで休みということが気に入らないらしい。7日に出勤するなら1月末までの契約で可能ということらしい。その2日の差はいったい何なんだろうかと考えると、7日から来る私の後任の新しい派遣さんの受け入れができないからだという。
「おしえる人がいない」ということに気づき、自分がおしえたくないが故に派遣会社にクレームをつけたという顛末だった。(そもそも受け入れや引き継ぎもできない社員もどうかと思うのだが)
あきれる話である。
巨漢上司は何もかもが伝えるのが遅かった。そして、ただのクレーマーだった。派遣会社もブチ切れし、当事者である派遣の方も激おこである。
こんな年の瀬に何を言うとるんだ。
派遣の方と派遣会社の電話のやりとりを聞いていた私たちは、「もう明日行かなくていい」と野次をとばした。
そして、私がすべての任務をやり遂げると誓った。派遣の方の鍵を預かり、明日返却し、私物をまとめて郵送し、タイムカードを派遣会社に送らなければいけなかった。
出勤すると私はさっそく巨漢上司にバレないように、隣のデスクである派遣の方の私物をまとめた。IDと鍵をまとめて、タイムカードを計算して派遣会社に送った。デスクのメモを徐々に処分していった。私物を引き出しから取り出し、聞いていた住所に送る手配をした。
パソコンを起動して、デスクトップにあったフォルダは削除し、個人的な設定を初期化しておいた。いらないものは勝手にシュレッダーした。定時の1時間前くらいから本格的に掃除をしたふりをして、預かっていた鍵とIDが引き出しに入ってた設定にして、さらっと巨漢上司に渡す。
ついでに自分のものも返却し、定時になるのを待つばかりだった。
定時になる30分前から、もう一人の巨漢職員が請求書の件でずっとクレームの電話をしていた。請求書はメールではなく郵送がふつうだろという言い分だった。自分の常識を他人に押し付ける職場であることは間違いなかったなと悟り、私は去った。
これからもその価値観を他人に押しつけながら、彼らは生きていくだろう。
そして、もう二度と会うことはない。
東京OLごっこ
私は早く抜け出して、次の居場所を見つけるために走って駅に向かった。
単純に急いでいた。
ドキドキもしていた。
今日、自分のついたたくさんの嘘がバレたらどうしようという気持ちと、次の派遣先の面談にわくわくする気持ちでいっぱいだったのである。
昨日、他部署の方に品川で面談だというと「短期間で、じわじわ丸の内OLに最終的に近づいてほしい」と言われた。それもおもしろくてありかなと思った。品川から山手線のように、徐々に東京に近づくのだ。あいだで港区OLにもなれる。
私はなんだかんだ働くのが好きなのだ。
いろんなことがあった2018年だけど、2019年も楽しく働いて楽しくどこかに向かっていこうと思う。
ナナメドリです。ブログを書いてる人です。支援していただけたら、たくさん文章を書くことに使わせていただきます。