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越えがたい夜を越えた魔物たち -1
※この物語はフィクションであり、実在の登場人物や団体などとは関係ありません。また、魔物の画像がイエティであるというツッコミはご遠慮願います。
深く傷ついた人に越えがたい夜があるように
人を食い物にしながら息を潜め人間社会に紛れている魔物たちにも、越えがたい夜がある。
そして、それは魔物自身が魔物であることから逃避する以上、容赦なく幾度も幾度もやって来る。
だが魔物の多くは自分が魔物であることをやめない。
人間として生きることは、彼らを食い物にするという安易な道を外れることであり、自らにとって何ら得にならないことだからだ。
そうやって人間世界に生きながらも、その正体を人に知られることは死を意味する、言わば「地獄の住人」だ。
L
私が出会った魔物はLという雄の魔物だ。
魔物レベルは極めて低く、瀕死のスライム程度だ。
現れても素通りされ人を食い物にしたくてもできない雑魚ではあるが、唯一相手が瀕死の魔物を人間の子供と間違え、”知らないうちに子供が死にかかっているなんて!”と彼の両親のことまで考えてしまう、私のような間抜けでお節介なおばさんとなれば話しは別だ。
Lはなんとか大学に潜入しても、たったの1ヶ月で正体がバレるという安定の雑魚ぶりを発揮した。
大学内でのコミュニティから排除され、悪い噂を流され、酷いいじめを受けるも2年半通い続け、退学。
家族からは、”学校でのことはどうにもならないことだから、前を向いて歩くように”と言われた。
行き場のない思いを抱いたまま4年間引きこもり、ふとツイッターを始めた。
一日中、誰とも話さない・話せないところから、人と接する機会を得たたった一つの場所だった。
大学内で排除されたことから、ツイッターでは人間関係においての注意点などを発信した。
特に近づいてはいけない人、サイコパスやマキャベリストなどの危険な人について。
本にある内容のままにならないように、内容を煮詰めつつ独特の文体で。
Lとの出会い
ある日Lがツイッターで私をフォローした。
たまに私の投稿にコメントをしてくれたので、それに返したりもした。
そうして数ヶ月が経ち、ある朝載せたコーヒーの写真に、Lからの質問が幾度もあった。
ggrks
心の中で何度も思いつつも、フォロワーさんだからという一点で答えた。
そんなやりとりの中、最後の一言が”そのコーヒー、〇〇市にお伺いした時にプレゼントしますね。”だった。
ブロックの4文字としばらく格闘した。
”どうして私が会うことを了承した前提なのか。そもそもこっちで買った方が手に入りやすいものを、あなたがわざわざ買う理由は何なのか。”
これは後にそのまま彼に直接DMを通して言った言葉でもあるが、彼が意味を理解することは全くなかったようだ。
LからのDM
Lの言動は以降も、ところどころおかしかった。
斜め上どころか、とんでもない方向のものもいくつかあった。
ー4年間人と話さなかったという事実ー
そこが私の判断を鈍らせた。
故意でもなく、悪気もなく、ちょっと人とズレてるだけの人だと。
ある日LがDMをして来た。
きちんと”DMしていいですか”と聞く律儀さがその時だけはあった。
私が育児について投稿したことによるものだ。
育児についてなら自分は子育てについて学んでいるから相談に乗るということだ。
DMで自分から相談に乗ると言って来る人は、ほとんどの場合詐欺師であろう。
事実、私も彼は新しい手法を使う詐欺師だとしか思えなかった。
だからこそ、まだ広く知られていないその手法をツイッターで発信し注意喚起する目的で、敢えて彼との長すぎるDMに付き合ったのだ。
結果、私の期待した高額商品には出会えなかった。
出会えたのは、恐ろしく的外れで稚拙な答えと苛立ちだった。
”長い時間をかけて話した結果があれ!?しかも、育児をしたこともない人が自ら育児の相談に乗りますって言うこと自体がどうかと思う。離婚を考えている人に離婚に不利になるアドバイス「新しいパパを作るために彼氏を作りましょう」はあまりに無知すぎる”
これはその時の思ったことであり、実際彼に言ったことである。
以後、Lとはしばらく絡まなかった。
でも、私ははっきりと感じとってしまった。
彼には越えがたい夜があることを。
そしてそれを感じとることは、魔物にとっての「ターゲット」を意味するのであった。