「スコーレNo.4」文庫装画の仕事と物語のこと〜「知りたい」と「好き」は同義語
こんにちは。
今日は先日の続きで、宮下奈都さんの「スコーレNo.4」の内容について少し…&私の思うところについて書こうと思います。
〜あらすじ〜
自由奔放な妹・七葉(なのは)に比べて自分は平凡だと思っている女の子・津川麻子。そんな彼女も、中学、高校、大学、就職を通して
4つのスコーレ(学校)と出会い、少女から女性へと変わっていく。
そして、遅まきながらやっと気づいた大切なものとは…。
ひとりの女性が悩み苦しみながらも成長する姿を淡く切なく美しく描かれています。
↑こちらは単行本が出版された2年後に文庫化されたもの。
単行本とはまた違う絵柄で主人公を描かせていただきました。
なんという幸運…!
同じ作品で単行本・文庫本とともに描ける機会(しかも違う絵柄で)はありそうで実はあまりありません。(私の場合ですが)一般的にも出版社側の意図で、描き手やデザイナーを変えるケースの方が多い気がします。
自己肯定感低めの麻子。
妹と比べて容姿はパッとしないし、地味である…と自分自身で思い込んだまま大人になってしまった。
そんな麻子は就職先の商社で思いがけず高級靴店の配属になり、一生懸命働くも「靴を愛せない」と悩むも…徐々に気持ちに変化が。
「知りたい」と「好き」は同義語なのよ。
彼女は母の言葉を思い出す。
読みながら、私は自分の仕事のことを思う。
「知りたい」と「好き」は同義語…
少女から大人への成長の段階で、感受性の豊かであるが故のさまざまな葛藤。その末に見つける光がなんとも心地よく、爽快です。
何か派手な出来事が起こるわけではないのですが、4つのスコーレ(スコーレはスクールの語源となった言葉)を通して麻子の人間的な成長の様子に共感、親近感が湧き、その繊細かつ豊かな表現力・比喩に強く引き込まれます。出来事というよりも人間への描写が忠実で深い感動を呼ぶ。
私は麻子の中に自分をみていたのですね。自信を持てない心の揺らぎや、自分では言葉にできなかった気持ちを代筆してもらっているかのような心地よさと追体験。
特別に自分を変えなくても、地味でも目の前の「今」に向き合っていれば…辿り着けるあたたかな場所。
「どうしても忘れられないもの、拘ってしまうもの、深く愛してしまうもの。そういうものこそが扉になる。(中略)いいことも、悪いことも、涙が出そうなくらいうれしいことも、切ないことも、扉の向こうの深いところでつながっている」
遠回りしているように思われる日々は決して無駄ではない、と。
不安や迷いの中で模索しながら、少しづつ自分の大切なものを積み上げていく。
特異ではない普通の主人公、誰でも抱えうる葛藤…
そんな麻子の出した答えを、私は何度でもなぞる。
これからもずっと。
これは宮下さんの消えることのない魔法なんだと思う。
時を経るごとに豊かに湧き上がる泉のよう。
今の生活に、今の仕事に、今の人間関係にもやもやを抱えている方にぜひ読んでいただきたい作品です。
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