このままだと婚約指輪を自分で買う奇行に走りそう
プロポーズされた。
厳密に言うと、プロポーズさせた。
付き合って2年と少しの彼に、タイムリミットを伝え、その通り私の誕生日に旅行先の温泉宿で告げてもらった。
シチュエーションは、寝る直前。いつも眠りに落ちるその瞬間までおしゃべりの止まらない私たちは、この日も一緒に布団に入り、つまり地面に対して垂直ではなく平行になって明日の予定を話していた。すると並行の彼が少し改まって私へのこれまでの感謝を話したのち「結婚してください」と同じく並行の私に言ってくれた。受けた。
サプライズはなくとも、ちゃんと約束を守ってくれてええやんかいなと思うかもしれない。
実際、まわりの数人にプロポーズされて結婚する、という事実を伝えると、心からの「おめでとう」という言葉をもらえた。
でも私は期限ばかりを気にしすぎていたと、今更後悔をし始めている。一緒に暮らす彼と、両家顔合わせのことや結婚式のことを話し合いながらも、気付くと「もっといいプロポーズできたんちゃうんか」「やっぱり私がしたほうがよかったのでは」と考えてしまうのである。
私が彼にタイムリミットを提示したのは、今年の頭あたりだったと思う。
「だらだらと同棲するのは良くないよ」と結婚したばかりの同級生からアドバイスをもらっていた私は、酔った勢いで彼にこう聞いた。
「プロポーズしたい? されたい?」
「したい、かな」
「じゃあ次の誕生日までかなあ!」
「わかった笑」
私は、本気で「する」「される」の選択肢を出していた。彼が「されたい」と答えたのなら、彼の喜ぶシチュエーションやプレゼントを準備してプロポーズを敢行するつもりだった。「プロポーズは男がするもの、という古い考え方じゃないし、結婚はお互いに幸せにし合うもんだからな!」と常々思っているうえに、そう考えている自分が好きでもある。自分が好きな自分でいることは大事だ。こうした私の(勝手な)覚悟を飛び越えて「プロポーズしたい」と言うもんだから、これは待つしかない、こっちはこっちでできることをやろうと、日々の仕事や家事に追われながらも、ご機嫌に過ごすことを心がけた。
昨年10月に同棲を始め、プロポーズへのカウントダウンが始まったのが今年1月。私の誕生日は8月。その間にわかったことがある。
彼はお金を貯めるのが下手だ。
あー残念!
意味のわからないタイミングで15万する服を買おうとしたり(結婚式前に買われると困るので結果すぐ買わせた)、共通カードを作っているのに自分のお金で日用品を買ってきたり、残業代をつけるのをサボったり……。
「貯まる」「貯まらない」の一番の分かれ目、こういうこまごましたところだと知らないようだ。
「口座にこれぐらいの金額はないと不安」のラインが私と全然違うことに気付いてからは、彼の(これまでは心強かった)大丈夫!なんとかなる!に迂闊に頼れなくなった。
そして、この先の長い生活を想像してつい口走ってしまった。
「婚約指輪は別になくてもいいで」と。
ポジティブで素直な彼は、私の言葉通り手ぶらで、平行で、プロポーズした。
いや、ちょっと待て。手ぶらでいいとは言っていない。
「お金は、結婚式や旅行で2人のために使う用に残しておこう。だから高価なものはいらないよ。思いがこもってたらなんでもうれしい!」の意味だった。
……この言葉通り言わなければ伝わらないのか?
というか、結婚したいんやんな?私と。
あれ?? もしかして彼は……決められた日付に「結婚してください」と言わされただけの人?
もっと言うと、指示されたことをちゃんと遂行したのに私に責められている被害者?
そう思い至ってから、ほんのちょっとだけ、落ち込んだ。
誰も悪くないはずなのにモヤモヤし続けている。
こういうときの私の悪いクセ、それは
「自分で」「金で」解決しようとするところだ。
奔放サバサバ(色気有)ガールなら「もっかいウチの満足いくプロポーズして!」「わ、わかったよ」となる。でも私は奔放サバサバ(色気有)ガールではないので、思いついても口に出すことはできない。
そこで、「じゃあ自分で婚約指輪を買ってやろう」となるわけです。2、3個何かを飛ばしていること、絶対にこれが解決策ではないことはわかっても、具体的なその2、3個が本当にわからないのだ。
自分で婚約指輪を買ったところで、うれしいのか。彼になんと思わせるのか。人に言うのか。
あかん、どの段階を切り取ってもキッショいエピソードでしかない。
こうして冷静になることでなんとか思い留まっているが、いつまたその波が来るかわからない。
新たなタイムリミットは婚姻届を出す年明けだ、耐えろ! コミュニケーションを取れ!