母ちゃんが先に死んだら


八月のお盆に、隣町にある実家へ

盆礼にいこうかと思ったが、

母: 「今年は何にもしない予定だからこなくていいよ」

孫も見せるのに、そんな言い方。と思いつ、

翌日に顔を出しに行った。

すると、あら、昨日こなかったわね。と母。

じゃ、こなくていいなんて、言わなくていいじゃん。素直じゃないなとあたしはイラっとした。

そんな母と、自分の部屋で涼しくテレビをみている父にあいさつに行くと

父が、鼻をティッシュで押さえて、そこに洗濯ばさみをしていた。

「どうしたの?」

鼻血でもでたのか、折れたのかと思って聞くと、

父が、いや、ちょっと怪我して・・・と濁した。


母のところに戻ると、夕飯の支度をしながら母が、

急にあらたまった声で、

母; 「父ちゃんより、母ちゃんが先に死んだときのことを言っておかないといけない・・・」

と言い出した。

え、椎茸とか切りながら、ここでいうの?とあたしもビックリして聞いた。

すると、

母; 「もし、父ちゃんより、母ちゃんが先に死んだらね、父ちゃんの葬式のときね、」


なになになに?
なんか、話が重いのか、何かすごい事実でもあるのか、隠し子とか居た的な?

母; 「父ちゃんの棺のね、」

なになに


母; 「頭に、帽子かぶせてあげてね。遺影と遺体の頭が違うのが嫌なんだって」


は?


いつも頭の毛を気にして、365日帽子をかぶっている父ちゃん。

さっき、部屋にいったとき、20年ぶりくらいに、暑さのせいでか、無防備に帽子をとっている頭をみてしまった。

その流れで、この話。


「え?それだけ?もしかして、それ父ちゃんの遺言?」

だまって、うなづく母

母; 「母ちゃんが生きてたら、あたしがやるから、もしあたしが先に亡くなったら、父ちゃんの頭お願い」

人は、見た目が、10割と思っている父。

この親にして・・・


「あと、さっきさ、父ちゃん、鼻どうしたの?なんか怪我したってティッシュつけてたけど」

と言うと

あきれながら

母; 「あ~、あれね、洗濯ばさみを鼻にやると、鼻が高くなるって聞いたんだって」

・・・。


しょーもな。


昔は、この親で、ものすごく人生が暗いと思っていたが、

こんな親だからこそ

あたしも好きにしていられるんだろうなって思える。

親って

全力で自分を押し出してくれるくらいの

ネタの力を持っているな。



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