リリのスープ 第二十章 いよいよステージへ

リリたちが、入ってゆくとテントの中では、外の暑さと同じくらいに熱気が漂っていた。
大会関係者たちが急がしそうに、行き来している。
通されたテントの中では、すでに出番を終えた人たちもいて、ほっと安堵している様にも見えた。
ナディンとリリは、すすめられた簡易椅子に座ると簡単に聴取をとられた。

「町の市場で、スープを売っていたということですが、具体的にどんな感じでうっていたんですか?」

リリは、こういうとき口から言葉が出てこなくなってしまうのを知っていたので、ナディンが率先して質問に答えた。

「お二人で、されていたんですよね?ご出身は、オークライナ州のサンウェイとありますが、どうしてシンディアで営まれていたんですか?」

その質問には、ナディンもリリも顔を見合わせた。
旅の途中だったといえば、さらにインタビュアーが食いついてきそうだったので、何となく話をうやむやにしようと

「昔自分たちが住んでいたことがあったので、懐かしくて」

と嘘をついた。インタビュアーはその嘘を疑う様子もなく、メモを取っていた。リリをみるとテントの外の会場が気になっている様子だった。
無理も無い。
ナディンは、いくつかの質問に答えるのを終えると、出番を待った。
そして、すぐにその時間はやってきた。

「⑭番、シンディアからやってきた、リリとナディン!」

ステージの階段を上がる前から、会場の歓声をきいていた。
リリもナディンも、緊張して、手がかじかむようだった。

ステージの中央まで歩いていくと、司会者が、

「ようこそ!初出場と聞いていますが、意気込みの方は?」

とマイクを向けてきた。リリはそれをみて固まってしまったので、ナディンがすぐさま、

「がんばりたいと思います」

と当たり障りない答えをした。司会者は、今日の会場は例年よりも熱気に包まれていて、いいコンディションだと言った。
うつむいていたリリも、それを聞いて、壇上から下を見下ろした。
顔にペイントをした若者や、暑さで、上半身裸の若者もいて、飲み物を頭からかぶっている。
興奮して、わからない奇声をあげながら大きな身体を揺らして踊っている中年の女性もいれば、なにやらこちらに手をかざして何事かを言っている男性もいた。
子供たちは、暑さのためには、ステージから遠く離れた噴水近くで水あびしてふざけている。日傘をさしながら談笑するお母さんたち。ビールをのみながらステージをみているお父さんたち。
木の陰の根元には、白髪の老夫婦が敷物の上で足を投げ出して座っている。
噴水で遊んでいた男の子に水をかけられてじゃれている大きなレトリバー。

そこまでの景色が見えたとき、リリは、緊張から立ち直った。
司会者が、最後に

「もし賞金50万ぺスを手に入れたとき、何に使いたいですか?」

と聞いた。ナディンは、

「そうですね、もっとたくさんの方にスープを知ってもらうための資金にしようかと思います」

と丁寧に答えると、その隣でリリがハッキリと

「家へ帰り、子供たちにスープを作って上げます」

と応えた。
それを聞いたナディンは驚いて振り向き、司会者は不思議そうに首をかしげたが、言葉を追求することなく、

「では、ありがとう!いよいよこれから試食の開始まで準備の方よろしく頼むよ」

とマイクをナディンたちから離した。
さっきと反対側の壇を降りると、そこのテントでは、試食するための百人分の料理の準備にとりかかる何組の出場者たちが立ち回っていた。
その中で、テントの一番奥に、ジョシュとシンもいて、彼らがこっちを向いてウィンクをしてきた。

リリとナディンは、エプロンをしめなおした。

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