サンドバック
デッテは、ハナが可愛くて、仕方ない。
何をしても何をされても、ほとんど怒ることがない。
「おれ、ハナちゃん怒れないわ」
と言いだした。アホか。そんなのハナが思春期になって、変な男連れてきても同じセリフが言えるんかい!
デッテが怒れないとなると、自動的にわたしだけが、何かあるとハナを叱る役になる。わたしに叱られると、デッテに助けを求めにいくハナ。それを優しく抱きしめるデッテ。絵に描いたようなデッテの理想図だ。
「ハナちゃん、デッテ好き!」
可愛らしい言い方でべた惚れされると、
「どうせ、こんなに俺を好きでいてくれるのも今だけだ」
といいながらも、顔が崩れる男親。
しかし、ハナの言葉の殺傷力は健在のため、抱きしめられながら、ふと
「デッテ、こことここが臭い」
と襟元を指差す。デッテも苦笑いしながら
「ハナちゃん、これはね、加齢臭っていうんだよ。デッテが臭くてもデッテのこと好き?」
と聞くと、好き~!と答えるハナ。顔が崩れる男親。理想だ。
けれど、ハナも所詮女子というべきか、いつもデッテに首っ丈の可愛らしい女の子というわけがない。
ココと喧嘩したり、気に入らないことや、ヤキモキすることがあると、それもデッテに行く。
「もう!デッテ!!」
と言って、首に思い切りエルボー。あるときは、泣いたハナを抱き上げると、平手打ち。喉ぼとけに、正拳突き。
「おれ、まったく関係ないのに」と喉元押さえながら、涙目で言う。
ココにやられた仕返し、苛立ちを、八つ当たりしにデッテに向かっていくハナ。
泣いてもデッテ、怒ってもデッテ、デッテ大好き。
普段、怒らない、なんてやっているから、都合いい様に扱われるんだよ。
ハナのいいサンドバックになっている姿をみながら、ひそかにその状況をほくそ笑んでいる母だった。