炎上レポート:「咲-Saki- 全国編×雀魂」駅広告性的批判
日付:2022/11/26
結論:主観的な表現批判による逆炎上
2022年11月26日、JR大阪駅に掲示されていた、対戦型麻雀ゲーム「雀魂 -じゃんたま-」の「咲-Saki- 全国編」とのコラボ広告に対して、政治家が「性的なイラスト」だと批判的な投稿を行いTwitter上で炎上騒動となった。
このレポートでは、炎上の経緯とTwitter上の反応をまとめ、後からこの事件を振り返れるように記録を残していく。
この炎上のまとめ
発端となったツイートには、広告を批判した政治家への批判が多く寄せられ、逆炎上状態となった。
法的観点からは、広告自体にも広告の掲示場所にも問題はみられない。
広告を掲示した企業は「問題ない」との認識を示し、批判した政治家の意見を一蹴した。
概要
・発端となったツイート
2022年11月26日、立憲民主党の前衆議院議員・尾辻かな子が、該当の駅広告に対して「性的なイラストが堂々と掲示されてる」という批判的なツイートを投稿。これに対して多くの"いいね"が寄せられる一方、"引用"や"リプライ"では尾辻氏に批判的な意見が多く寄せられた。
以降では、該当の駅広告について、それぞれ擁護的な意見、批判的な意見を見て、論点を整理していく。
・表現への主な擁護的意見
擁護的な意見は「主観的な『性的』という判断への批判」、「法的観点からの擁護」、「批判者やその所属先である立憲民主党への不信感」が主で、概ね以下のような意見が見られた。
「性的」という基準が主観的で曖昧。
どこが「性的」かわからない。
「性的」だとは思うし人によって不快だとは思うが、広告として問題があるとは思えない。
法的な問題はなく、ルールに沿った経済活動の範囲内。
広告として問題があるとするなら批判者は根拠を示すべき。
立憲民主党が政権をとれば表現規制が進むだろう。
・表現への主な批判的意見
批判的な意見は「性的で不快な広告なので公共の場にはふさわしくない」という意見が主であった。
「性的」な広告は「不快」に思う人もいるから撤去するべき。
公共性の高い場所では、人が「不快」に感じる表現は撤去するべきだ。
・論点整理
擁護的・批判的な意見を双方みると、まず、擁護的な意見の中では該当の広告が「性的」かどうかで意見が分かれているものの、最終的には「法的に問題がない」との意見が両者を包括する。また、批判的な意見では、広告撤去の根拠として、「不快感」と「掲示場所の公共性の高さ」が根拠としてあがっている。以上から重要な論点は以下の2点となるだろう。
広告として法的な問題があるほど「性的」か?
公共の場では、誰かが不快に思う表現は撤去されるべきか?
そして、それぞれに対する結論を先に述べると以下となる。
該当広告は、人によっては「性的」に感じるかもしれないが、法律や条例に抵触するほど「性的」とは言えず、広告として法的な問題はない。
法的観点では、「公共の場」であるからこそ「個人の不快感」はある程度受け入れるべきとされており、「不快」というだけで「公共の場」の広告を撤去できるという法的根拠は存在しない。
・論点①:広告として問題があるほど「性的」か?
1つ目については、まず、ある表現が「性的」かどうかについて主観的に判断してしまうと、「アニメ調のイラストが全て性的に見える人」もいれば、「R18でない表現は性的ではないという人」まで様々であり、どこまでいっても個人の感想の域を出ない。
よって「性的」かの判断基準には法律や条例を基準に考えるのが筋である。具体的には刑法第175条で言うところのわいせつ物の基準や、地方自治体が条例で定める有害図書類の基準が存在するが、本件の広告がそれらに抵触するような表現であるとは到底思えない。
・論点②:公共の場では、誰かが不快に思う表現は撤去されるべきか?
2つ目については、まず「公共の場」について整理すると、一般的に、公共交通機関などの「公共の場」での表現は、「私人間」での表現と比べて「高い責任性」を持つと言われている。しかし、この責任性の高さはあくまで「私人間」での表現と比べた場合に高いというものであり、「公共の場」であっても無制限にその責任性を求められるものではない。
むしろ、法的には、「公共の場」でこそ個人の利益の保護はきわめて制約され、ある程度の不利益は受け入れるべきものとされており、「個人の不利益」が「経済活動の自由」や「表現の自由」に対して一方的に優先されるということはない。よって「個人の不快感」を元に「公共の場」の広告を撤去するべきとの意見には法的根拠が存在せず、妥当とすることはできない。
・「非立憲的」な行為
以上のように、本件の広告は法的観点からみて、広告自体にも掲示場所にも問題はない。尾辻氏のとった行為は雰囲気で自主規制を求める行為であり、憲法に定められた表現の自由を蔑ろにする「非立憲的」な行為であると言わざるを得ない。「立憲民主党」なのに「立憲的」でないというのも見慣れた皮肉となってしまったが、このような行為は政党への信頼を下げるだであろう。
・企業側の出した結論
本件については30日に、駅内広告の管理・運営を担当するJR西日本コミュニケーションズから見解が示された。企業としては該当の広告を「問題ない」と判断しており、尾辻氏の意見を参考にすることもなく一蹴した形である。Twitter上では企業のこの姿勢を支持する声が多くよせられた。
・参考:集計データ
最後に、本件をデータの側面から見てみる。データは Twitter API を通じて取得したものを筆者が独自に集計したものである(具体的な集計方法や詳細はこの後の参考データで補足)。
人数は本件に反応したユーザーの数を集計したもので、内訳は本件の広告への反応別のユーザー割合となっている。データ上は、広告に対してネガティブな意見のユーザーは約1割と一部であり、一方で、ポジティブな反応を見せたユーザーは約7割と多数を占めた。
・まとめ
本件について整理すると以下のようであった。
本件の広告は、人によっては「性的」に感じるかもしれないが、法律や条例に抵触するほど「性的」とは言えず、広告として法的な問題はない。
法的観点では、「公共の場」であるからこそ「個人の不快感」はある程度受け入れるべきとされており、「不快」というだけで「公共の場」の広告を撤去できるという法的根拠は存在しない。
法的に問題がないものを、個人の主観で公共の場から排除しようという行為は、表現の自由を蔑ろにする非立憲的行為である。
引用ツイート、リプライともに尾辻氏への批判が殺到しており、広告ではなく広告を批判した者が逆炎上している。
企業側としても広告を問題がないと認識しており、広告への批判に取り合わなかった。
データ上、本件の広告に擁護的な意見のユーザーが約7割と多数である。一方、批判的な意見のユーザーは約1割と一部である。
以上のような事実をまとめると、本件は、一政治家の主観による表現規制の試みに多くの批判が集まり、逆に表現の批判者自身が炎上し、最終的には企業も取り合わなかった事件と言えるだろう。
法的観点からは、広告自体にも広告の掲示場所にも問題はない。Twitter上の反応を見る限りでも、表現規制を支持する人は少数であり、多くの人は、主観的な判断に基づく表現規制を支持していない。多数の人が支持している、法的にも問題のない表現に対して、それでも規制を求めるのであれば、その根拠を客観的に説明するべきである。それを行わず、政治家という自身の立場も顧みないで、非立憲的な手法で表現を規制しようとするのであれば、そのあまりの無責任さを批判されるのは当然と言わざるを得ない。
本件は、昨今において、客観的な根拠を示さず表現を批判する行為は、逆炎上するリスクがあり、世間にも企業にも受け入れられることはないというよい事例と言えるだろう。今後もこのような対応をとる企業が増えることを祈るばかりである。
参考データ⓪:参考データまとめ
ここからは Twitter API で取得したデータや、発端となったツイートによせられた"いいね"が上位の引用やリプライといった、各種データを載せていく。冗長となるため、先に各項目へのリンクをまとめておく。一番需要がありそうな、元ツイートによせられた引用やリプライを"いいね"順にまとめたのは「参考データ③:引用・リプライ」となる。
参考データ①:データサマリ
ここからは、本件をデータの側面から詳細に見ていく。データは Twitter API を通じて取得しており、鍵アカは集計対象外である。ここで示されるデータが必ずしも実際のユーザー数という訳ではないことに留意されたい。
・反応ユーザー数
まず、本件に反応したユーザー数を見ていく。
上のグラフは、本件に関するツイートを「元ツイートからの距離」で集計範囲を分け、それぞれの反応したユーザー数を集計したものである。基本的には、炎上の規模が大きくなるほど「元ツイート」から離れた所での反応が増加し、炎上規模の目安としては、反応ユーザーが5万以内であれば小規模、10万以内であれば中規模、10万超えだと大規模だと言える。
本件の場合、反応したユーザー数は約14万ユーザーで「大規模な炎上」とみることができる。参考として、筆者が集計した他のデータと比較すると、温泉むすめの件が約20万、月曜日のたわわの件が約19万とそれよりは少ない。
・表現に対する姿勢
次に、本件に反応したユーザーの、「本件で問題とされた表現」や「表現の自由」に対する姿勢(ポジティブ、中立・不明、ネガティブ)を見ていく。
上のグラフは、前のグラフで示した集計範囲ごとに、各ユーザーの「表現に対する姿勢」の内訳を表したものである(具体的な集計方法は後述)。
本件の場合、表現にネガティブなユーザーは「元ツイート」を中心に見られ、「引用・リプライ」ではわずかにしか見られない。ネガティブな姿勢を示したユーザーは全体で約10%であり、「元ツイート」の意見を支持しているのは一部のユーザーだけであることがうかがえる。
なお、本件における、「ポジティブ」「ネガティブ」の意見の具体例は、先の「1. 概要」で記載そた「B. 表現に対する主な擁護意見」「C. 表現に対する主な批判意見」が、それぞれ「ポジティブ」「ネガティブ」に該当する。また、「広告としての問題性にまで言及しないものの、少なくとも性的な広告ではある」という主張は「中立・不明 」として扱った。
・補足:集計方法
「表現に対する姿勢」は、ユーザーごとに本件に関するツイートへの反応を集計したもので、以下の4つの流れで集計している。
ツイート単位で、「表現に対する姿勢」を分類
(ポジティブ、中立・不明、ネガティブ)その分類により、各ツイートに数値を設定
(ポジティブ = 1、中立・不明 = 0、ネガティブ = -1)ユーザーごとに、各ツイートへの反応を数値として集計
(反応が投稿・いいねなら設定した数値で集計し、それ以外は 0 で集計)集計した数値の合計値で、ユーザーごとに「表現に対する姿勢」を分類
(1以上でポジティブ、0で中立・不明、-1以下でネガティブ)
本件の場合は、「元ツイート」が1件、「引用・リプライ」が98件(引用55件、リプライ43件)、「その他」が25件で、合計124件のツイートが姿勢判断の対象になっている。
「引用・リプライ」については、一部のツイートのみしか集計していないように見えるが、それぞれ「いいね」「リツイート」の上位80%に該当するツイートの範囲を集計しており、分析上、十分なユーザーをカバーしている。「その他」については「いいね」が1,000以上のツイートを対象にした。集計についてのより詳しい説明はこちらを参照してほしい。
参考データ②:元ツイート
ここでは「元ツイート」の詳細を見ていく。
・反応ユーザーの内訳
上のグラフは、元ツイートの反応別のユーザー数を表し、折れ線グラフは反応ユーザー全体に対する各反応ユーザーの割合を表している。一般的なバズツイートは「リツイート > 引用ツイート < いいね」のような構図に収まりやすいが、炎上して批判が殺到するほど「引用ツイート」の割合が高くなる。
本件の場合は、「引用ツイート」に反応したユーザー数は「いいね」と近く、炎上度合いは高いと言える。
・拡散の推移
上のグラフは、元ツイートの「リツイート」「引用ツイート」「引用ツイートのリツイート」の推移を表したものである。「引用ツイートのリツイート」を見ると拡散の状況が判断しやすく、基本的には、炎上のピークは1~2日であり、3日もあれば炎上は鎮静化する。
本件の場合もピークは1~2日であり、3日には炎上はほぼ収まっている。
参考データ③:引用・リプライ
ここでは「引用・リプライ」の詳細を見ていく。
・「引用ツイート」のリツイート状況
上のグラフは、元ツイートの「引用ツイート」のリツイート状況である。上の凡例の数字は、取得した引用ツイートを「いいね」の多い順に並べたときの順位を表しており、グラフでは上位10ツイートまで掲載し、0には参考として、「元ツイート」のリツイート状況を置いた。
・いいねが上位の「引用ツイート」
最後に、本件で取得したツイートを「いいね」数が多い順に掲載していく。なお、以降の「No. 」は先のグラフの凡例の番号を示している。
No. 1
No. 2
No. 3
No. 4
No. 5
No. 6
No. 7
No. 8
No. 9
No. 10
・いいねが上位の「リプライ」
No. 1
No. 2
No. 3
No. 4
No. 5
No. 6
No. 7
No. 8
No. 9
No. 10
参考データ④:その他ツイート
ここでは「その他ツイート」(本件に関連した「引用・リプライ」以外のツイート)の詳細を見ていく。
・「その他ツイート」のリツイート状況
上のグラフは、「その他ツイート」のリツイート状況である。上の凡例の数字は、取得したツイートを「いいね」の多い順に並べたときの順位を表しており、グラフでは上位10ツイートまで掲載し、0には参考として、「元ツイート」のリツイート状況を置いた。
・いいねが上位の「その他ツイート」
「No. 」は先のグラフの凡例の番号を示している。
No. 1
No. 2
No. 3
No. 4
No. 5
No. 6
No. 7
No. 8
No. 9
No. 10
参考データ⑤:多様な広告
・国内・アニメ絵
・国内・実写
・海外・アニメ
・海外・実写
あとがき
まず、ここまで読んで頂いたことに感謝を申し上げたい。もし、この記事が何かのお役に立てたのであればうれしい限りである。
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