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自己否定の鎖を外し、元の私に戻る

無収入で離婚して、福岡で一人暮らしを始めて三週間。基本的にいつもご機嫌であろうとしているのですが、不意に「私はなんてダメなんだ」と自己否定を始めてしまうことも多かったです。以前書いたように、悲劇のヒロインをやりたかったのですね。

「稼ぎがない自分はなんてダメなんだ」
「遊んでばかりの自分は社会の役に立っていないのでは」
「好きなことだけしていていいのだろうか」
「親を悲しませてひどい娘だ」
「あんなにやさしかった夫に私は勝手なことばかりした」

全て自分で決めて、納得して行動してきたことなのに、こうした自己否定がぐるぐると頭の中を駆け巡ります。電車を待っているとき、お風呂で髪を洗っているとき、布団に入ったとき、急に襲われます(というか「襲われる」をやりたくてやってるのです)

そのたびに自分を許し、また自己否定しては許し……とにかく自分のあるがままを少しずつ受け入れていく日々でした。

「稼ぎがなくてもいいんだよ。私には素晴らしい価値があるんだよ」
「心からやりたいことをやっていいんだよ。遊びたいなら遊んでいいんだよ。自分のやりたいことをまっすぐやることが、人の役に立つということなんだよ」
「親の価値観を守ろうとしなくていいんだよ。言いなりにならなくていいんだよ。私は私の価値観を大切にしていいんだよ」
「自分の幸せのために生きていいんだよ。自分の幸せのために生きることは自分勝手ではないよ」

自分の腕や肩をやさしくさすりながら、自分に語りかけてきました。「大丈夫、私は私のままでいいんだよ。何も足そうとしなくていいんだよ。そのままで愛されているんだよ」と、繰り返し語りかけてきました。

つい最近気づいたことなのですが、私は辛いことが起こると、自分の腕や手のひらに爪を立てたり、つねったりしながら泣く癖がありました。無意識に自分に罰を与えていたのですね。「お前がダメな奴だから、こんな辛いことが起こるんだ。懲らしめてやる」と。でも、もう自分を痛めつけるのはやめて、とにかくやさしく触れようと決めました。

また、ある人が「一日に一回でいいので、自分の黒目(瞳孔)をじっと見つめてあげてください。自分の心が本当は何を思い、どう感じているのか、黒目とお話しすることで感じとってあげてください」と教えてくれました。自分の黒目を見つめるなんて、今まで思いつきもしませんでした。いざやってみると、私の黒目はいつも寂しそうに「自分を信じて」「自分をいじめないで」と私に伝えてくれているようでした。

福岡に来てから今日まで、毎日自分の好きなことをして暮らしています。近所の美味しいパン屋さんで買ったパンを公園のベンチで食べたり、カフェ巡りをしたり、可愛い秋服を買ったり。憧れのアンティーク家具もおうちに置きました。そんな風にやりたいことをまっすぐやりながら、四十年間も自分を縛り付けていた自己否定の鎖を一つひとつ解いています。行動と、自分にかけてあげる言葉がちぐはぐにならないよう意識しながら。

***

何ヶ月もずっと心に引っかかっていることがありました。仲の良かった友だちが、何も言わず離れてしまったのです。それも一人ではなく、数人です。私は「道が分かれてしまったのだ。お互いに別々の道を歩むことになったのだ」と思おうとしていました。でも先日ふと「自分が優位に立つために、相手が離れる状況を作っていたのだ」と気づいてしまったのです。「私は何もしていないのに、相手が勝手に離れた。それは相手に後ろめたいことや弱さがあるからだ」と決めつけることで、自分は正しいのだと思い込もうとしていました。悲劇のヒロインをやりたかったというのもあるでしょう。巻き込んで傷つけたうえに、人のせいにしてしまい、本当にごめんなさい。

でも、もう自分が優位に立とうとしたり、反対に自分を卑下したりしなくてもいいんだ。もちろん悲劇のヒロインになる必要もない。そんなことしなくても、私は愛される存在だった。人に上も下もない。この世の全員、誰とも比べられない特別な存在なのだ。みんな唯一無二で、素晴らしい才能があり、愛されているのだ。もちろん私も。

そんな言葉が降ってきて、目の前が急に明るくなったようでした。さまざまな人から何度も聞かされてきた「みんな唯一無二で素晴らしい。決して比較できない」という言葉を、生まれて初めて全身で実感できた気がしました。三週間、ひたすら自分を許し、愛することを続けていたからかもしれません。

長いあいだ、お気に入りの歌を聴けませんでした。たくさんの思い出が詰まっていて、聴くと離れてしまった人を思い出して苦しくなるからです。でも、おととい、ごく自然にその歌を流し、口ずさんでいました。その瞬間、大切な人が離れるようなことをした自分への憎しみや、離れてしまった相手への執着が、しゅわしゅわしゅわと溶けてなくなったようでした。そして、声をあげて泣いていました。

「元に……元に戻ったよおおおお」
「ようやく元の私に戻れたよおおおお」

自分も相手も許したら「ダメな奴だ」「足りない」「もっと頑張らないと」という鎖が全部取れて、生まれたての純粋無垢な赤ちゃんに戻れた気がしたのです。「元に戻れたんだよおおお」と何度も言っていました。何も足し算しないでいい、何も責めないでいいと、自分を許しきることができたのです。

泣きながら鏡で黒目を見つめたら、いつもよりくっきりと大きく、とても澄んで輝いていました。

「良かったねぇ」

黒目がそう言ってくれたから「良かったよぉ」と笑いながらまた泣きました。ふふふ、鏡の前で大騒ぎ。軽やかに生きてゆこうね。


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