見出し画像

鼻歌を歌うように夢を叶えて

お家に絵を飾りたいなぁ。

いつからか、ずっと思い描いていたことでした。友だちのお家に遊びに行ったとき、素敵な絵が部屋にごく自然に馴染んでいるのを見て「あぁ、豊かだなぁ」と羨ましく思ったものです。朝目覚めたとき、家族とご飯を食べているとき、落ち込むことがあったとき、壁に掛けている絵がふと目に入るたびに、心に幸せなそよ風が吹くのだろうなぁと想像していました。

でも、我が家は賃貸だからなぁ。壁に傷をつけたらいけないしなぁ。

そうやって願いを打ち消し、諦めてきました。我が家は全然おしゃれじゃないから、せっかく飾ったとしても絵が可哀想だとも思っていました。

***

離婚して、縁もゆかりもない福岡で一人暮らしをしようと決めたとき、新居がなかなか見つかりませんでした。「絶対に南向きがいい!」「追い焚き機能も必要!」などと、たくさんの条件をあげていたからかもしれません。SUUMOで物件が少しヒットするものの、部屋の写真を見ると「なんか違う……」と心がストップをかけます。

やっぱり住み慣れた関西で探したほうがいいのだろうか。そう悩みましたが「福岡に住みたい」という自分の直感を信じたい気持ちもあります。「今回でお家が見つからなかったら、福岡で暮らすのは潔く諦めよう」と決め、七月末に兵庫から福岡へ家を探しに行きました。

福岡の気になるエリアの不動産屋さんに入り、希望を細かく伝えます。髪がアッシュグレーのオールバックで、ピタッとしたベストを着た、いかにもやり手っぽい男性が「お任せくださいね〜。いくつか候補をお出ししますね」とにこやかに頷いてくれました。おぉ、なんて心強い。

やはり私の出した条件は厳しいのか、すぐに入居できる物件は二つしかありませんでした。やり手風のスタッフさんも「うーん、なかなかないですねぇ」とお手上げな雰囲気です。でも、二軒のうち一軒の写真を見た瞬間「あ、ここに住みたい!」と強く思いました。明るく心地よい空気が流れている気がしたのです。「出会えたかも」という興奮を抑えつつ、内見に向かいました。

ピンときたお家の玄関を不動産屋さんが開けた瞬間、たくさんの光が私に押し寄せてきました。『となりのトトロ』に出てくるまっくろくろすけの「まっしろ」バージョンが、どばぁぁぁと流れてきたイメージです。部屋の奥の窓からは眩いほどの陽射し。「やっぱりここだ!」と思い、その場で「ここにします」と伝えました。

しかし、我ながら慌て者だなぁと思うのですが、当の物件は、散々こだわっていた条件にぴったり一致していなかったことに申し込み後に気づきました。南向きじゃなくて西向きだし、追い焚き機能もなかった。あまりにも物件が見つからないから、不動産屋さんが条件を緩めていたようです。

入居の審査期間中、「本当にあの物件でいいのだろうか」と少し迷いました。でも、内見のときに感じた、体がふわっと浮くような心のときめき!!あのときめきを信じようと思いました。ひと昔前の私なら、頭で考えた条件に縛られたままで「やっぱりここじゃない!」と突っぱねていたかもしれません。

いざ新居に引越したら、とても驚きました。なんと、絵を吊り下げるためのピクチャーレールが天井についていたのです!えっ、嘘でしょ、賃貸マンションなのに?!内見時によく見ていなかった自分の間抜けさに呆れながらも、喜びのあまり一人でぴょんぴょん飛び跳ねました。「いつかお家に絵を飾りたい」という夢が、思いがけず叶えられることになったのです!!思い描けば、本当にちゃんと実現するんだ!!

もちろん次は「このお家にぴったりな、素敵な絵に出会おう!」と思い描きました。いつ出会えるのかは神のみぞ知るだけれど、できるだけ早めがいいな……と期待しながら。そうしたら、引越して一ヶ月経たないうちに出会えてしまったのです!このお話は、またいつか書きたいと思っています。とっても素敵な絵なの!!

ちなみに、追い焚き機能はなくても全く問題ありませんでした。西向きも暑いのかと心配したけれど、そんなことなかった。それどころか、実は西向きも望んでいたことを思い出してしまいました。

元夫と暮らしていたマンションは南向きでした。離婚する少し前のこと。夕方にふと「最近夕陽を見てないな」と思い、ベランダから身を乗り出して西の空を見上げようとしました。でも、隣の部屋との仕切りや他のマンションに遮られて、夕陽はうまく見えなかった。

「きれいな夕陽をたくさん見たいなぁ」

確かにあのとき、私は願ったのでした。とても気楽に、鼻歌を歌うような感覚で。そのおかげで今、毎日のようにお家の窓から夕陽を眺めています。


いいなと思ったら応援しよう!