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あなただけが見える虹

虹色の雲を見たことがありますか。
彩雲、と呼ばれているものです。

先月、宗像大社にお参りしたら、空に彩雲が現れました。
太陽の斜め上あたり、眩しくて目を細める必要があるけれど、確かに見えます。
「きれい! なんて縁起がいいんだ!」と嬉しくなり、スマホで写真を撮りまくりました。 

その日、私は一人でお参りしていました。だけど、彩雲に出会えた喜びを一人だけで味わうのはもったいない! あぁ、誰かと分かち合いたい!
いてもたってもいられなくなり、私はそばを歩いていた若い女性二人組に思わず話しかけました。

「あの、虹色の雲が出てるんです! きれい!」

空を指さしながら急に話しかけたものだから、そのお二人はびっくりしたかもしれません。

「えっ? あ、あぁ」

私が指さすほうを見上げてくれましたが、戸惑ってる様子。「え、どこ?」という心の声が聞こえた気もしました。私の指し方が分かりにくかったのでしょうか。私は勝手に「本当だ! きれいですね!」といった言葉や笑顔を期待していたのですが、彼女たちからは特に反応を得られませんでした。

ピン!とまっすぐ伸びていた私の人差し指が、心なしかしょんぼりしてうなだれています。私はどうしても諦められず、別の女性三人組に再び声をかけました。次は「太陽の斜め上あたりです!」と具体的な位置も示しながら。

「えっ、あります?」
「どこどこ?」
「見えなーい!」

お三方は先ほどの女性たちより熱心に彩雲を探してくれましたが、やはりよく見えないようでした。実は彩雲なんて出ていないのだろうかと心配になりましたが、空にはやっぱりあります。

もしかして、私にしか見えていない景色がある?
後日、この疑問を友だちに投げかけてみたら、彼は即答してくれました。

「あると思いますよー。僕もこの前、駅で大きな虹を見つけてずっとカメラで撮ってたんですけど。そばにいた誰一人として虹を見てなくて、僕しか撮ってませんでした」

そうなのかぁ! 周りにいた人たちは「この人何撮ってるの?」と不思議がっていたかもしれないねぇ。

そういえば私にもあったな。誰かが空を見上げて何枚も写真を撮っているのを見て「なになに?」と同じ空をこっそり見るものの、よく分からなかった経験。「確かにきれいな空だけど、そんなに?」と思ってしまっていたけれど、きっとその人には見えて私には見えない、美しい何かがあったのだろう。虹だったのかもしれないし、珍しい形の雲だったのかもしれない。

「私」にしか感じられないものがある。それは「その人には見えて、他の人には決して見えない」とハッキリ分かるほど、その人固有の感性。その人しか持っていない宝物。

あの日、宗像大社で彩雲をその場にいる人たちに見てもらえなかったことは、少し寂しかった。でも、その美しさを写真や言葉、絵、歌などで表現することはできる。そうしたら、私にしか見えなかったものが、他の人にも見えるようになる。多くの人に感じてもらえるようになる。

反対に、私には見えないものを、他の人が表現して見せてくれる。自分一人では決して気づけなかった美しさを、たくさんの人が教えてくれて、世界の美しさの総量がどんどん増えてゆく。同じ空を見ても、全員違う表現になるだろうから、美しさが無限大だねぇ。

あなただけの素晴らしい感性を、あなた一人で握りしめておくのは、とてももったいない。もっと表現しておくれ。ためらわずに、どんどん表現しておくれ。「あなただけが見える虹」を、みんな待っているよ。


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