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未来の私に「アンティークの食器棚が来るよ」と囁かれた

四十歳にして会社を辞めて離婚し、縁もゆかりもない福岡市に移住して、文字通りまっさらな状態で新生活をスタートしました。

新居には、家具も家電も一切持ち込みませんでした。夫と暮らしていた家には夫が引き続き住むから、自分の洋服や布団以外はほとんど置いてきたのです。

ただ、一人暮らしには不相応な数の食器は持ってきました。ここ数年は仕事に追われてほとんど料理らしい料理をしなかったけれど、結婚生活の前半の五年間は気合いを入れて料理をしていました。その時期に作家ものの器をたくさん買い集めたのです。ちゃんと数えたことはないけれど、たぶん七十点ほどあります。

ほとんどの器は食器棚の奥で何年も眠っていたものです。夫が必要な分だけ残し、あとは処分しようかとも悩んだけれど「ええい面倒くさい!夫がいらない器はとりあえず全部持っていこう!」と決めました。久々に棚から出して眺めているうちに「あぁ、やっぱり美しいなぁ」と惚れ直したというのも理由です。もう仕事に追われるのはやめたので、またのびのびと料理したくなるかもしれないし!

新居に引越し後、さすが荷物が少ないだけあって、ダンボールはどんどん片付きました。でも、器がぎっしり詰まった二箱のダンボールは狭いダイニングに鎮座しています。お茶碗など必要最低限の器だけ出して、他はダンボールに入れたままクローゼットに押し込むことも考えたけれど、なんだか心が澱みそう。

……おや、ちょっと待て。私、自分に制限かけてない?ダンボールに入れっぱなしにしなくても、素敵な食器棚、買えばいいんじゃない?せっかく惚れ直した器たちを、食器棚に収めてすぐに手に取れるようにしたらいいんじゃない?

そうなのです、めっちゃ制限かけてた。新居は決して広くないので、家具をむやみに増やしてはいけないとなぜか思い込んでいました。なにより、食器棚を買うことは贅沢だと感じていたのです。

やだぁぁぁー!!私ったら、欲しいと思ったものは我慢せずに買うと決めてたのに!!自分が欲しいものを買うのは、とても良いこと!!自分の喜びのためにお金を遣えば、喜びの循環が起こるのだった!!買います!!

食器棚買います、と殺風景な新居で意気込んだけれど、実は少し前に既に「一人暮らしをしたら、素敵な食器棚を置こう」とイメージしていたことに気づきました。離婚する直前、鹿児島の友だちの家に遊びに行ったら、そのお宅がとんでもなくおしゃれで……!特にアンティークの食器棚が目に留まり「いいなぁいいなぁ、こういうの欲しいなぁ」と思っていたのです。

アンティークの家具って、探すのも配送してもらうのも大変そうなイメージがあったのだけど、その友だちはなんとオンラインショップで購入したそう!つまり実物を見ずに選んだと!!実物を見ないでも、こんな素敵な買い物ができるというのは驚きでした。しかも、東京から鹿児島まで配送してもらったとのこと。えーっ、そんな長距離でも大丈夫なんだ!(ヤマトのらくらく家財宅急便を利用したと、後から知りました。ヤマトさんありがたし)

食器棚を買うと決めたらすぐに、ピンとくるものが見つかりました。友だちが利用したアンティーク家具のオンラインショップに、その方(あえて擬人化したい)はいらしたのです。いくつもある食器棚の中で、その方はひとり違った雰囲気を放っているように感じました。栗が使われた日本の古い食器棚で、しっとりとした深い茶色の木肌が写真からも伝わります。なにより、棚の中のデザイン!!小さな引き出しや、カーブを描いた棚板など、ただ「しまう」だけではなく、器や棚自身を美しく「魅せる」作りに、目を奪われました。めっっっちゃ素敵!!!

注文から一週間後、東京から福岡へはるばる来てくれたその古い食器棚は、何度も何度も見返しては惚れ惚れしていた写真よりも、さらに美しい佇まいでした。「すごい!すごい!」と一人で連呼しながら、空っぽの食器棚を色々な角度から眺めたり、ガラス戸を開け閉めしたり。

ひとしきり愛でたら、早速ダンボールの中の大量の器たちを収めてゆきます。一つひとつ緩衝材で包んだ器を取り出しては、そっと棚に置きます。形や大きさが揃うように重ね、特にお気に入りの器は「床の間」のように見えるとっておきのスペースへ。リビングの床一面を緩衝材だらけにしながら、夢中で器を並べる時間は至福でした。何年も使われずに放っておかれた器たちも、再び光を浴びた喜びで「うふふ」と微笑んでいるように感じられます。ダンボール二箱分の食器が見事にぴったり収まった瞬間「あぁ、この食器棚は私がお迎えするのを待ってくれていたんだ」と本気で思いました。

よくよく食器棚を見ると、天板に隙間が空いていて、棚の中に光が漏れています。天板がほんの少したわんでいたり、ガラス戸が数ミリ閉まりきらなかったりもします。でも、それがとっても美しく、愛おしくてたまりません。長いあいだ大切に使われてきた「しるし」、この世に一つしかない「しるし」だと思うのです。この「しるし」を愛でながら、私も喜び溢れる暮らしをしよう。共に幸せに生きようと、食器棚に対して思いました。ふふふ、一人暮らしだけど、孤独ではありません。

旧居での引越しの作業のとき、一度は処分しようと思った食器たちを何時間もかけてダンボールに詰めたのは、未来の私からテレパシーを受け取ったからかもしれません。「素敵な食器棚との出会いがあるよ」と。でかした、七恵。


ちなみに、私が食器棚を購入したのはこちらのお店です。現代の暮らしにも馴染む、センスのいい古道具がたくさんあるので、もし良かったら覗いてみてください。見てるだけでワクワクしちゃう!!


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