『着ぐるみクマのろうそく』10/30
かっちーさんへ
愛がこもった1300字ショートショート
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橋の上から遠く見る街はやけにキラキラして、
自分の居場所がどこにも見つからなかった…。
それは一年前の今日。
§
何もかもどうでも良くなった。
自分一人が消えた所で、なーんにも変わらなければ
消えたことすら 誰も気づかないだろう。
橋の上に立ってぼんやりと街の夜景を眺めていると
そっと後ろから声がした。
ー 風邪ひくで。
振り返ると大きなクマの着ぐるみが立っていた。
大きいのに3頭身。プラスチックの黒い瞳がじっと私を見つめている。
クマさんはゆっくりと足を出し、よっこいしょと私の隣までくると
ーここ、ええか?
ぽつりそう呟いた。
人気がないこんなところにクマの着ぐるみ。
返事を待たないまま、クマさんはどんと隣に腰を下ろした。
ー まっ、人生色々あるわな。
真っすぐに街明かりを見ながら言った。
その言葉に何故か口が動いていた。
ー なーんにも…ないよ。。。
私は空っぽだった。満ちている物などなーんにもなくて。
クマさんはじーっと前を見つめたまま。
するとクマさんがポッケをごそごそしながら3本のろうそくを取り出して、私の前に差し出した。
ー ほな、これあげる。
端にくりーむのついたろうそく三本。
受け取らないでじっとふわふわの手を見ていると、クマさんは私の手を掴み、ろうそく達を握らせた。
手を開くと、乾いたくりーむがぽろっと欠けた。
ー これで、ろうそくのある人生や。
それに明かりを灯したらええやん。ほんで…
明かりのない人達に分けてあげればいい。
また街の明かりに顔を戻しながら
ー なーんも無ければ、掴めばいい。
そんで分け合うんや。すると、ちゃんとまた
返ってくるもんがある。
ぎゅっとろうそくを握ると訳もなく涙がぽとっと落っこちた。
ぽろぽろぽろぽろ橋を打つ。
そのあいだ中、クマさんは
ただじっと遠くを見つめながら足をぶらぶらさせていた。
涙で霞む街明かり。
ー くりーむ…ついてる。。。
ろうそくをコロコロ手の中で転がしながらふふっと笑って見せると
クマさんの着ぐるみは表情もかえず、また よいしょと立ち上がった。
ー きょうは俺の。。。誕生日だからな。
着ぐるみの中で声が笑った。
ー ほな、俺はもう行くで。君も帰らんと真面目に風邪ひくで。
くるっと背を向けクマさんが歩き出す。
そしてやがて、夜の中へと消えて行き、
何処か遠くから、大きなくしゃみの音だけが優しくこだました。
§
あれから一年。
今日も私はこの橋の上から遠く街明かりを見つめている。
キラキラして、とても綺麗に輝く街で
私は今、
沢山のろうそくを沢山の人に渡しながら、
沢山の笑顔をもらい沢山の幸せで満ちている。
3本だったろうそくは
日を追うごとに数を増し、
分ける度に それ以上の数が廻り戻って来た。
ポッケの中に手を入れると
今日あげきれなかったろうそくや、
人からもらったろうそく達。
買って来たケーキをクマさんが腰かけた場所にコトッと置いて
ポケットにあるろうそくを
1本1本立ててゆく。
溢れんばかりに立てた今日のろうそく53本。
今日の私の全てをこのケーキに飾ります。
ポケットは空っぽになっちゃうけれど、
心の中にある明かり。
明日になればまたろうそくがひょっこり出てくると
そう分かっているから大丈夫。
そう教えてくれた君に…
ハッピーバースデー
そうそっと呟くと
後ろの山から聞き覚えのある
大きなくしゃみがこだました。
かっちーさん
沢山のろうそくをくださって、
そして渡すことも教えてくれた。
街明かりがすごく綺麗なのは
みんなの心のろうそくがぽんわり灯っているからだと
ニンマリ笑顔で そう言える。
着ぐるみの中のかっちーさんへ
街中に 山中に 響くように…
Happy Birthday!!!!
七田 苗子
ps:大阪弁…間違ってたらかんにんなっ:)ふふふ
#かっちー2022
かっちーさんのプラックショート「誕生日」ふふふ。
リンク張るならこれでしょ!!!(笑)