編集さんのここを見て!漫画家が教える相性のいい編集者の見抜き方
こんにちは。非売れっ子漫画家能登ひなみです。
この記事に目を止めてくださった方の中には漫画を描いている方もおられるんじゃないでしょうか。
と言うわけで今回は編集さんとかれこれ10年くらいやり取りしてきた私が「いい編集さん」の見つけ方について綴っていこうと思います。
まず始めに申し訳ないですが言わせていただきます。
「いい編集さん」という定義はこの世にはありません。要するに相性の問題になってきます。
えぇぇ、じゃあこの記事読む意味ないじゃん!
ここまでの時間返せコラァ!!!
そう怒鳴りたくなるのを抑えてもうちょっとお付き合いください。
よくYahoo知恵袋などで編集さんについての質問への回答として「人と人ですから」という言葉が目立つんですが、これはかなり真理なんです。友達だって世間的にはクズでもなぜか仲がいいパターンがあるし、彼氏彼女でも同じことですよね。漫画家と編集者は「面白さ」という実態のないものを追いかけていく間柄ですから、1にも2にもまずは相性なのです。
では、ここからは経験を踏まえて「相性のいい編集さん」とはどんな人物かについて掘り下げていきます。
1.相性のいい編集さんとは
1.好きな漫画やジャンルが同じ
2.自分の好きな作品を手がけている
3.作家のアイディアを否定しない。賛同してくれる
大きくこの3つが挙げられます。
要するに「好みが合う」という点ですね。
同じ方向を向いて作品を作って行ける担当さんだとやりがいを感じやすいです。
また、編集さんの担当した作品に好きなものが多い。というのもメリットです。
少なくとも「それだけはやりたくない…」という方向に作品を導こうとする可能性は極めて低いでしょう。
また、3の「作家のアイディアを否定しない」については、「編集者は作家さんのやりたいことは尊重するべきでは?」という声もあがるかもしれませんが、編集さんも人なので、「乗り気じゃないなー好きじゃないなー」という顔をする時もしばしばあります。しかし作家側にとってはそういった「意見が分かれそうな部分」こそが強みだったりします。なので、そこを認めて応援してくれる編集さんがついてくれると本当に頼もしいです。
漫画は一点突破なので、逆にその突き抜けた部分を評価してくれる編集さんでなければ少し辛い思いをするかもしれません。
「同じ好みの編集さんがついて、作品が偏って一般受けしなくなったら?」なんて心配は不要です。編集さんは「プロの読者」としての腕を磨いているので、偏っていて伝わらない部分はちゃんと助言してくれますよ。
2.相性のいい編集さんに出会うには
1.とにかくいろいろな編集部に持ち込む!(一つの雑誌に執着しない)
2.自分の好きな物を描き切る。カラーを全面に出す
3.自分の作家タイプを把握しておく
1.について、仮に目指しているのが少年マンガだったとしても、雑誌によって微妙にカラーは異なりますし、またどんな編集さんが従事しているかもわかりません。編集長の交代などにより雑誌のカラーの変換点だった、なんてパターンもあり得ます。
とにかくチャンスを掴むにはいろいろな編集部に持ち込みor投稿すること!!!
逆にやってはいけないことは、一つの雑誌に固執して10数作投稿するも全没。でも私は絶対に〇〇でデビューしたい!という目指し方。
これ、はっきり言って時間とチャンスを無駄にしております。どれだけ作家さんがその雑誌に憧れていたとしても、これでは現実にデビューして連載まで辿り着く可能性はかなり低いと思われます。
「進撃の巨人」の諫山先生がジャ〇プとチャ〇ピオンに持ち込むもいい反応が得られず、その後少年マガジンに持ち込んで担当さんがつき大ヒットを飛ばした例は有名ですが、実は結構この手の話多いです。
結婚したければ報われない片想いを何年も続けるより、自分に興味を持ってくれる人とお付き合いするのが現実的だし幸せになれる、というのと同義なのです。
そして、2.については、個人的にとても重要だと感じています。相性のいい編集さんに出会いたいなら、まず「自分はこういう物が好きで、こういう物が描きたい」というのが伝わる作品を描かなくてはいけません。
たまにいるのですが「漫画家になりたいけど描きたいものや向いているジャンルがわからないから、編集さんに何描いたらいいか聞きたい」というような人。
いや、あんたは育ててもらうタイプのアイドルか!!!
「向いているジャンルが分からない」まではなんとか許せますが、「何描いたらいいですか?」というようなことを聞いてしまう段階では、仮に担当編集さんがついてくれたとしても「この人はまだまだだな…」という扱いを受けるでしょう。
また、3.もこれと原理は同じなのですが、自分自身がどういうタイプの作家なのかを客観的に把握しておくことも重要だと思います。
例えば、絵は描いていきたいがストーリー作りが苦手で、できれば担当編集さん主導でどんどん決めて行って欲しい…といったタイプだった場合、担当編集さんとの打ち合わせの中でその旨を相談できますし(正直に話せば協力してくれる編集さんは多いです)
逆にストーリー作りにこだわりがあって、極力自分のやりたいテーマを自身で掘り下げて描きたいタイプだった場合、ストーリーに細かく口を出す編集さんだと長いお付き合いは難しいかもしれません。
能登自身は作品ジャンルや題材の好き嫌いがはっきりしているタイプなので、好みが合う編集さんだった場合は素直に何にでも応じられるのですが、好みが真逆の編集さんだと割とすぐに決裂してしまう傾向があります泣
何はともあれ、相性のいい編集さんに巡り会うには、まず大きな声ではっきりと自己紹介ができなければいけないのです。自分の描いた漫画は「自分という作家」の名刺になっているか、今一度確認してみましょう。
3.ここだけの話…要注意な編集さんの特徴
編集さんというのは基本的に高学歴で頭がよく、なおかつコミュ力に長けていて思考が柔軟というハイスペックな方々なのですが、中には困った編集さんが一定数存在するのも事実です。
いわゆる「新人潰し」「編集ガチャ失敗」と揶揄されてしまうような方々ですね。
具体的にはどのような編集さんがそれに当てはまるのか?実体験と周囲から聞いたお話を基に書いていきたいと思います。
1.「売れる作品」の話ばかりする
1にも2にも「売れる作品持ってきて」と口にするタイプの編集さん。
そもそもきちんと漫画編集をやっている人なら「売れる作品」なんて世に出してみないとわからないという大前提を持った上で仕事をする筈なのですが、この手の編集さんはそこら辺をすっとばしていきなり独断と偏見で「売れる作品」を判断します。作家がやりたい物を持ち込んでも「幼女が出てくる話?大ヒットした前例ないよね?」と前例だけで意見を返してきます。(よ〇ばと、とかありますよね?と思いましたがその編集さんの中ではピンとこない作品のようでした)
また、編集サイドが売上だけに囚われ過ぎると作品の精神性などを無視して手っ取り早く反応がある炎上案件の話を描かせようとしたり、作品がどんどん変な物に変わっていく…という例も多いです。
他の作家さんに聞いてもこの手の編集さんは打っても響かない例が多いらしく、あまりおすすめはできないと判断しました。
2.愚痴、悪口が多い
このタイプもたまに見受けられるのですが、同僚の編集者や作家さん、自分の恋人の悪口がやたら出てくる編集さんは要注意です。
「作品のネタになれば」など大義名分を語りながら、要するに新人作家相手にストレスをぶつけているだけ、というパターンが大半な印象です。
いい編集さんが持っている要素の一つに「私生活が充実している」というのも含まれる気がするのですが、このパターンの編集さんは残念ながらそこら辺が疎かになってしまっている人が多く、精神の不安定さから社内や作家さんとのトラブルに発展する事例も多いです。
私が以前アシスタントに通っていた作家さんの担当編集さんは、裏ではその作家さんの悪口を言っている人で、ほどなくして作家さんとトラブルに発展し編集部をクビになりました。
また、人から聞いた話では漫画を持ち込みに行ったところ作品が稚拙であると罵られ、呆然と帰ってきたらその後ほどなくしてその雑誌は休刊になった、なんて事例もあるようです。
アクの強い編集さんがいるような雑誌は、注意して見ておいて損はないと思います。
3.ダルそう、やる気がない
これは言わずもがな、ですね。
担当さんについてくれたはいいけれど、打ち合わせをすっぽかしたり、ネームを見せても気の抜けた感想しか返ってこなかったり…
ただ、このパターンの編集さんに出会った時は自分自身の技量も見直すタイミングに来ているのかもしれません。
漫画界は実力主義なので、描ける作家だと判断されれば大体の編集さんは前のめりで打ち合わせに応じてくれます。
ただ、その逆で何となく担当編集に立候補したはいいけど即戦力の作家さんではないし…だったら他の描ける作家さんに時間を割きたいなーと思われてしまうのは作家側に問題があるのです。
社会は学校ではないため、ついて行けない人間に「置いていきますよ!」と警告はしてくれません。なんとなく風当たりが強くなってきた…と感じたら、まず自分の行いを振り返り、場合によっては投稿からやり直させてもらうというのも手かもしれません。
ただ作家サイドとしてはそんなに担当につくのがだるいならば最初から担当についてくれなくていい…これに尽きるというのが本音ではあるのですが。
最後に、あえて何度も言わせていただきますね。
いい編集さん=優秀な編集さん、ではありません。一番大事なのはあくまで相性です。
この編集さんとならいい化学反応が起こりそう!という方に担当についてもらうまで、ひたすらガチャを回し続けてください。
作家と編集さんはしばしば男女のお付き合いに例えられます。
交際経験のある方ならば分かると思うのですが、相性のいい恋人というのはそう簡単には現れません。ただ、そんな中にも上手く運んで結婚まで至ったり、結婚はしなかったけれど本当にいい出会いだったと思える人がいるのではないでしょうか。
担当編集さんと上手くいかずに心が折れても、そこで立ち止まった方が負けです。
商業媒体を目指すならば、いい出会いが必ずあると信じて少しずつでも冒険してみて下さい。
最後までお読みいただいてありがとうございました。もし「漫画界のこんなことが知りたい」というご希望ございましたら、コメント欄までお寄せ下さい!