理想の人に出会えない!と嘆く前に見直したい要因3つ〜20代で有料婚活サイトに登録したら③〜
24歳でネット婚活を始め、2年後にネット婚活で結婚した筆者が、経験談を踏まえて婚活について綴っていく記事です。
今回はタイトルにもある通り「婚活で積極的にいろんな人に会ってるけど、理想の人に巡り合えない...」といった悩みを分析していきたいと思います。何を隠そう、筆者も婚活を始めて1年間この悩みを抱えていました。一番よく聞く解決策は、「とりあえずたくさんの人に会ってみる」だと思うのですが、自分のとっていた行動を振り返ったり、婚活している知人の話を聞いたり、婚活で多数の異性と会話したりした結果、運の良し悪し以外にも原因がある場合が多いことが判明しました。
箇条書きで以下にまとめてみるとこの通りです。
1.そもそも具体的な理想を描けていない
2.結婚したい理由が「肩書きが欲しいから」
3.自分自身の精神状態が不安定
一つも当てはまらない方は、とにかく数を打っていい伴侶に巡り合ってね!とエールを送りますが、逆に一つでもぎくっと引っかかった方は、よろしければ引き続き読んで頂きたいです。
1.そもそも具体的な理想を描けていない
結婚相談所に入会すると、まず最初に聞かれるのがお相手への希望条件だと思います。容姿、性格、年収、等のざっくりしたものから、両親との同居の有無、転勤の有る無し、子供を望むか否か等の人生プランに関わるものまで、詳細に尋ねられるところが多いのではないでしょうか。筆者の入会したところでは他に、離婚歴、喫煙飲酒の量もチェック項目がありました。
筆者が入会してから最初に挙げた希望条件はというと、「身長160センチ以上で、年収400万以上の方」のみでした。これは単純に「背は自分より10センチ以上高いといいな。年収はボーナスも込みで不安なく暮らしていける額だといいな」という動機から発生したもので、何より、あまり条件にこだわり過ぎると結婚まで辿り着けないような気がしていて、細かいところは会ってから判断すればいいと考えていたんです。
結論から言って、この希望条件の出し方は悪い例でした。
端的に言うとあまりにもおおまか過ぎたから、というのが理由ですが、少し踏み込んで言うと、筆者は自分自身の「女として遺伝子レベルで異性を選別するセンサー」を甘くみていたのです。
ここから先は、女性の方には「あるある」と頷けるだろうし、男性には少し胸の痛む内容かもしれませんが書き記しておきます。女性には「どう頑張っても恋愛対象として見れない男性」が存在するのです。ここでいう「恋愛対象として見れない」とは率直に言えば性的関係を持つのが想像できない男性を指します。
男性にも「恋愛対象として見れない女性」は存在するじゃないか、という意見がありそうですが、男性の場合、その多くは「本命として見れない」を意味していて、少し乱暴な言い方になりますが、「やりたい時にやれるならとりあえずキープしておく」のパターンも往々にして存在します。男性にとって恋愛対象になれるかと性的関係を持てるかは別個の問題なのでしょう。
しかし女性の場合、生物としての宿命で、性行為には妊娠、出産のリスクを伴うし、男性よりも性的関係になった異性に情が移り、正常な判断力を失う、といった傾向も見てとれると思います。結婚相手を探す婚活なら尚のこと、自分がリスクを払ってでも共に暮らし子孫を残したい男性を選別するモードに切り替わっているのです。
そしてその「生物としてのセンサー」は筆者にももちろん存在しました。最初に挙げた条件、「身長160センチ以上で年収400万円以上」ですが、もう一度言うとこれは悪い例でした。それはおおまか過ぎたから、そして何より自分の異性の好みを全く把握していなかったから。
婚活を1年ほどやって慣れてきた頃、筆者は「初対面で異性として見れなかった男性は、いい人に見えてもお断りする」というルールを設けました。それには婚活で出会ったある男性に、かわいそうな思いをさせてしまった過去があるからなのですが、その経験談を以下にまとめてみました。
ーーーー婚活を始めてすぐ何人かの男性と面会したが、「この人だ!」と思えるような出会いはなく、一人の時間を虚しさに苛まれながら過ごしていた頃、婚活サイトを通して1歳年下の20代前半の男性と出会った。メールをまめに返信してくれて、容姿は中肉中背できちんと清潔感があった。
最初に会ってお茶を飲んだ日、女性と二人きりで出かけるのは初めてだという彼だったが、不慣れながらに話題を振って会話を盛り上げてくれる姿に好感を持った。その日の彼に嫌なところは見当たらなかった。見当たらなかったが、強いて挙げるとすれば、それは「異性としてピンとこないタイプ」だったことだ。
彼は容姿も普通、経歴も普通、会話したところ中身も普通の20代。よく言えばハズレの無い、悪く言えば無個性な男性だった。今までの自分ならばまず付き合わないタイプだったが、その頃の私は「追われる恋」に強く憧れていた。周囲の結婚まで辿り着いたカップルは、ほとんど男性側からの強いアプローチで結婚していたからだ。そして彼女たちは口を揃えて言った。「最初は好みのタイプではなかったが、次第に惹かれていった」と。
その頃の私は浅はかにも、結婚した彼女たちの外側しか参考にせず、自分の直感を無視して彼とのメール交換と一月に二回ほどのデートを続けた。その度に自分に言い聞かせていた、彼は初対面で悪いところが見当たらなかったのだから、時間が経つごとに好きになっていけるはずだと。
しかし、現実はそんな理想と反比例して思わぬ方向に進んで行った。結果から記すと、私は彼が嫌いになったのである。
それは彼にひどく非があったわけではなく、単に相性の問題だったのだが、まず彼とはお金の使い方が合わなかった。居酒屋に入ると二人ともそんなに飲めない体質なのに、彼は必ず一番いい値段の飲み放題を注文する。そして会計の時、値段が高いと文句を言いながら店を後にする。それはカラオケの飲み放題でも映画館のドリンクコーナーでも同じだった。彼には「売られている飲み物は一番いい物を買う」という自分ルールがあったのだ。会計は大体ワリカンだったので、結局飲まなかった分の代金を割り増しして支払うことが常々疑問だった。
そして彼はものすごく慌て者でせっかちだった。そんなに急がなくていい場面で急に「早く!」と私の腕を強く引っ張ったり、開いている飲食店を閉店中と勘違いして「閉まってるよ!他行こう!」と一人で立ち去ろうとしたりする。次第に私は疲弊して行き、結婚はおろか二人で遊ぶことすら楽しくはないと感じるようになって行った。出会ってから一年近くなっても男女の関係になることはなく、結局私の方から別れを告げる形となった。原因は私が直感を無視したことだと言い切っていいだろう。ーーーー
後から知った恋愛における男女の違いがあります。それは、男性は加点方式、女性は減点方式で異性を見極めている。というものでした。
男女ともに持ち点50からスタートした場合、男性はそこに加点して行くのですが、女性は減点はできても加点はなかなか難しいそうなのです。
よく熟年離婚という現象を耳にしますが、「なんとなく嫌になった」という理由で別れを切り出すのは大体女性の方なのも、こういったメカニズムが関係しているからなのかもしれません。
婚活をしてわかったのは、自分は自分で思うよりずっと「女」で、「生物としてのセンサー」には抗えないようにできているという事実でした。それに気づいてから、相手への希望条件をもっと内面に向けたものに変え、直感でこの人とは合わない、と感じた男性とはお互い時間を浪費する前に関係を切る戦法に変更しました。(自分で書いていても苦しいし、申し訳ないのですが現実です)
以上は女性目線で書きましたが、男女問わずもしここまでを読んで「なんとなく関係を続けている異性がいるが、いまいち恋愛対象にならない」と感じた方がいるなら、それは時間とお金を浪費しただけで、なおかつ相手の気持ちを振り回した結果になりがちなので、他の異性にも目を向けて、きちんと恋愛対象になり得る方とのお付き合いをしてみるのはどうだろう、と提案したいです。
もし理想の出会いを望んでいるなら、いまいちな相手だけどいつか好きになるかも、なんて瞬間を待っているより、他の異性との出会いに期待した方が理想の人との出会い、そして結婚への近道だったケースが身近にあまりにも多いからです。
2.結婚したい理由が「肩書きが欲しいから」
ここで言う肩書きとは「〇〇さんの旦那さん、奥さん」「既婚者」、離婚するのを見越して「バツイチ」等が挙げられます。
好きな相手ができたので将来を考え結婚、ではなく、とりあえず済ませるべき通過儀礼として結婚を掲げているタイプ。よくある理由としては、年齢的に親などから結婚の催促が増えた、友達はみんな結婚した、一度でも結婚しておかないと世間体が悪い、の三つが挙げられると思うのですが、これらに共通しているのは自分の気持ちを無視していること、そして既婚者という肩書きのみを欲していることなのです。
でも、婚活って何はともあれ結婚したいって男女が行うものなんじゃないの?と感じた方もいるかもしれません。それは間違いではないし、それなりの年齢になれば、とにかく結婚したいという願望が湧いてくるのも事実です。それは誰にも否定できないのですが、ここで己に問いかけて欲しいのは、先ほども言ったように自分の気持ちを無視していないか?という点。そしてこれが決め手なのですが、結婚をゴールだと思っていないか?という点です。
筆者も結婚する前は「奥さん」と呼ばれるだけで自分のアイデンティティを確立できるような気がしていたし、よく独身の友達と飲みに行っては「何者でもないというのは辛い」とこぼしあったので、気持ちはよくわかるのです。
ただ結婚してみて知ったのですが、結婚後の生活で一番比重が多いのはパートナーとの時間です。結婚とは自分が決めたパートナーとの、ここからが本番という合図でありスタートなのです。
もちろん夫婦揃って仕事人間だったり趣味人間だったりして、家にいる時間が少ないならば例外かもしれませんが、そういった方々は結婚以外にも生きがいがあるので、そもそも結婚は焦らず自然の成り行きでそうなったというケースが多い気がします。つまり最初から「既婚者」という肩書きにはあまりこだわりがない。
対して、「結婚!結婚!」と焦っている男女にありがちなのが「とりあえず既婚者にならなければ自分に価値はない!」と自分の生きる意味を他者に委ねてしまっている状態な気がするのです。自分の価値を映す鏡が「既婚者という地位」しかない状態で婚活を行うのは、運命の相手に出会える可能性を狭めるし、場合によっては大変危険です。そういった心境で「理想の人」と思える人に出会ったとしても、焦りは人の目を曇らせるので、しばらく経って催眠が解けた時には既に、経済面も人間関係も相手の管理下に置かれていた、なんてケースが多いように思います。
そして、もう一つ知ったのは「奥さん」になっただけでは心は満たされないこと。幸せとは、好きな人と暮らし、社会の中で家族としてやっていくために前向きな判断をしたのだと、自分から思えて初めて実感できるものです。夫婦で毎日を送るのに必要なのは、誰にも気に留められないささいな努力の積み重ねで、もし世の中に認められたいのならば「奥さん」でいること以外にもより大きな努力をして、自分で自分を発信し続けなくてはいけないのです。
もちろん、肩書きが欲しいだけの人には「婚姻届さえ出してくれれば文句は言わない」と本気で割り切っている人もいるし、それならば形だけの結婚生活も充分にアリだと思うのですが、それに付随して「幸せになりたい、して欲しい」の願望が出てくると途端に事態はこじれていきます。
世の中の一部には「結婚は、してしまえばそれなりに幸せなものである」といった風潮がありますが、筆者としてはそれに警鐘を鳴らしたいです。
「既婚者」という地位のために結婚したその後の暮らしが、嫌なら離婚すればいい、とは言っても離婚も決して楽ではありませんし、相手がもし同意しなければ民事裁判に発展しかねません。
元々の性格が石橋を叩いて渡るタイプで、結婚に踏み込む勢いが欲しい!くらいの人ならば、離婚覚悟で結婚してみるか、というのもいい気がするのですが。
形だけの結婚のはずだったけど幸せに暮らしている人、愛し合って結婚したはずなのに上手くいかなかった人、全ては結果論でしかないし、それを解決するにはスピリチュアルとか、霊的なものとかの問題なので、これ以上の言及は避けますが、確かに言えるのは結婚はゴールではないこと。肩書きだけでは心の平穏は得られないこと。
婚活している人には常に「自分は何のために結婚したいのか」を問いかける習慣をつけて欲しいと願っています。もし本当は結婚に前向きではないのに婚活を続けているとしたら、焦りと疲れで目が曇って、すぐそばにいる理想の人を見落としてしまっている可能性もあるのです。
3.自分自身の精神状態が不安定
「理想の人」とは時として「運命の人」と同義語で使われたりしますが、筆者としては、実はこの「運命の人」という表現には少し疑問を持ってます。
「運命の人」と言うと、赤い糸で結ばれていた人、生まれる前から出会うのが決まっていた人、というスピリチュアルなイメージを受けます。もちろん占い的な意味で相性のいい人は存在するでしょうし、筆者もいい結果の占いは信じる方なので否定はしません。
もし仮に、占い師の先生から、今のお相手は星巡りが最高の時に出会っているから運命の相手だ、と言われ、それを受けて、確かにあの人とは最初に会った日から会話が弾んだし、以心伝心のように気持ちが通じた。その通りだ!となったとします。
しかしそれって、星巡りを抜いて説明すると、お互い精神的に安定しているタイミングで出会っているという話なんですよね。
精神的に安定している状態ではIQとEQが上がり、社交的になって思いやりが持てるようになるという研究結果もあるようなので、幸せな時にはより幸せが集まってくる法則は婚活にも応用できると言えます。
それを逆手にとって言えば、「精神的に不安定な状態では誰とも上手くいかない」とも捉えられるのではないでしょうか。
なぜ精神的に不安定な状態では上手くいかないの?不安定な時こそ、誰かにそばにいて欲しくなるし、本当に相性のいい人ならタイミングは関係ないんじゃないか、と考えた人も少なからずいるかもしれません。
そこで、筆者の考える、精神的に不安定な状態では理想の人に出会えない理由を一言でまとめるとこうです。
「精神的に不安定な状態では、他罰論で物事を考えるから」
他罰論とは、
他罰的論理(たばつてきろんり)=失敗や不幸などを自分ではなく、他人やまわりの環境などのせいにすること意味する語。その論理。「外罰的」ともいう。
辛い出来事があって落ち込んだ時、人は心の防衛反応で「原因は自分じゃなくて周囲にある。周囲が悪かった」と環境を攻めますが、次第に落ち着きを取り戻してくると、「しかしそもそもは自分の行動が発端だったかも...あの環境に居続けた自分にも責任はあるかも...」と広い視野で原因を分析できるようになってきます。そうすると心に傷は残りつつも「原因がわかったのだから、今度からは同じ失敗を繰り返さないよう気をつけよう」と前向きに切り替わることができるのです。
ただそこで精神状態が不安定なままだと、最初の「自分は悪くない、周囲が悪いんだ」の部分から脱することができずに、正しい原因も把握できないまま周囲や自分を闇雲に攻撃することになります。真っ暗闇で腕をぶんぶん振り回しながら進んでいるようなものですね。
メンタルの不調が長引いている人と接すると、最初の他罰的な感情から抜け出せずに苦しんでいる人は多いように思えます。心の疾患は長い間患うと、「自分の感情には敏感だが、相手の感情には鈍感になる」という現象が起き始めます。その結果「他人は駄目だが自分はいい」と俗に言うダブルスタンダードの状態に陥ってしまうのです。
「自分が自分が!」の状態になっている人間とは、まともな人は距離を置くものですが、ごく稀に「そうだよ君は何も悪くない!」と言ってくれる救世主のような人が近寄ってきたりします。これが非常に危険な状態なのです。その手の人は最初にいい人の印象を大きく植えつけてから、金銭を要求したり性的搾取を行うものだからです。
精神的に不安定な状態で得られるのは、極端に言ってしまえば孤独感か人間関係のトラブルかのどちらかだと感じています。
もし婚活や恋愛で上手く行かずに頭を抱えていることがあったら、その時の感情は他罰論に偏っていませんか?原因自分論で考えることはできますか?もし他罰論でしか考えられない。どう考えたって私は完全な被害者だ。と憤っているなら、それは精神的に不安定なサインです。婚活や恋愛の前に、まず焦らず休息をおすすめします。
最後に、婚活をしていた時に出会ったある男性(仮にBさん)が、今まで書いた要因3つ全てを満たしていたので、その体験談(筆者の失敗を含む)を綴ってこの記事を終わりにしたいと思います。
----Bさんとは婚活サイトを介してのメール交換から始まった。サイトで見た彼のプロフィール欄には、年齢は自分より2歳年上の26歳、職業は保育士とあった。掲載されていた顔写真は精悍な顔立ちで、不覚にも私はそれだけで「歳の近いちゃんとした人」と信用してしまい、後日ドライブに行く約束を取りつけてしまったのだが、これは今考えると何かあったら世間知らずでは済まされず、かなり危険な行為であった。
約束の日、最寄り駅前で待っていると、ロータリーの端に聞いた車種と同じ車が止まった。車に近づきドアを開けると、運転席にBさんが座っていた。
(あっこの人の顔、好きになれない...)そこにいたのは確かに写真で見たBさんだったのだが、私は一瞬硬直してしまった。写真ではわからなかった笑顔や目つきが、何となく冷酷で陰鬱な印象だったのだ。
しかし駅前まで迎えに来てもらった反面、乗れませんと言うわけにもいかず、「自分の勘違いかもしれない」と心の中で言い聞かせ、会釈をしながら助手席に乗り込んだ。Bさんと軽く挨拶を交わした後、「じゃあ行こうか、約束した〇〇パークでいいよね?」と車を発進させるBさん。車が動き始めてから10分ほどで、私は車に乗ってしまった自分を責めることになった。
Bさんはずっと張り付いたような不自然な笑顔をニタニタと絶やさず、なおかつ目の奥は全く笑っていないという初めて見る表情を浮かべていた。そしてBさんは最初から私の名前を呼び捨てにし、タメ口で話しかけてきた。
「ひなみはさー、すごくきれいだと思うんだよね、自分じゃ気付いてないかもしれないけどさー」
「は...はぁ...」
なぜ出会ってから30分足らずで飲み屋にいるかのような口説き方をするのだろう。Bさんは人との距離の詰め方が少しおかしかった。まるで体目的の掲示板で知り合い、このままホテルに直行しようとしているかのようだった。
「Bさん、普段からそんな喋り方なんですか?」
「ん?まぁー普段は保育士のキャピキャピ元気なやつらと仕事してるから、ちょっと違うかもしれないけど。久しぶりなんだよ、こんな静かで大人しい子と話すのはさー」
すっかり無口になっている私を、Bさんは静かで大人しい子と判断したらしかった。この時から私は完全にBさんのターゲットだった。
〇〇パークに到着して、昼食を取ったりそこらを散策している間、Bさんが喋っていたのはおもに自分の保育士としての仕事の内容と、それで得た知識とスキルについてだった。話し下手な人ならば話題が仕事の話のみになるのはままあることだし、それ自体は別に嫌ではなかったのだが、Bさんの話ぶりからはある思惑がうかがえた。彼の話は「仕事を頑張る自分」「その仕事で疲れている自分」の二つが主軸になっていて、大抵の場合、その裏に隠れているのは「こんな健気な自分を癒して欲しい」という欲求なのだ。
次に話題はそれぞれの恋愛遍歴になり、恋人のいない期間を問うとBさんは「んーいない期間は2ヶ月かな。半年くらい付き合ったよ」と答えた。
「どちらもスパンが短いですね」と私が返すと「まー30歳まで時間がないからね。やっぱり30歳までには結婚しておきたいからさ」と何とも軽快な口調で返答があった。前の彼女とも婚活で知り合い、彼女からは結婚を切り出されたらしいのだが、Bさんは1年以上付き合えた相手と結婚するというルールを設けていたため、ためらっている間に別れる結果になったらしい。
(それって、おそらく相手のことが好きで付き合ったわけではないし、とりあえず世間体のために結婚しておきたい感じがするし、そもそも本当は結婚に魅力を感じていないんじゃ?)私の中でそんな疑問がはっきりと浮かび上がってきたとき、
「ちょっといいかな?」突然Bさんが演技めいた口調で私の首元に手を伸ばしてきた。固まる私を気にかける様子もなく、Bさんは私の付けていたネックレスを手繰りながら、「留め具が前に来てたよ」とキザっぽく言い放った。
(それなら口頭で教えてくれればいいのに...)私はBさんの配慮のなさに閉口していたが、それこそがBさんの求めている反応だった。彼はおそらく流されやすい女性を狙っていたのだ。
「ひなみさ、俺と付き合わない?ま、よろしくしね」
.........!?
Bさんは全体的に性急だった。将来を考えられる相手を探しているというより、単に今すぐ彼女が欲しいか、言葉を選ばずに言えば性欲を満たしたくて行動していたのだろうが、問題なのはBさん自身がそれを把握していないことだっただろう。
この時点でどう断って帰ろうかという方に問題は移るのだが、私は無用心にもBさんの車に同乗して来て、帰りも彼の車でという話になっていたのだ。今思えばわざとらしい理由を付けてでも電車で帰ればよかったのだが、何をしだすかわからない彼の雰囲気に、悪い意味で飲まれていたのは事実だった。
「お返事は帰ってからじゃ駄目ですか?初対面だし、今日はもう解散にしませんか?」そのような提案をすると、Bさんは渋々という感じではあったが首を縦に振った。
彼の車の助手席に乗り、住んでいる街が近づいたら降ろしてもらおうと考えていた中、車内でもBさんとの会話は続く。
「あのさー、高速代とガソリン代で2千円もらっていい?」
「え、あ、はい」(財布を取り出す私)
「あー今じゃなくていいよ今でー」
「はあ...」
「ひなみはさー得意料理って何なの?」
「え、野菜炒め...ですかね」
「んだよーめっちゃ手抜きじゃーん!」
「.........」
「......え?泣いてる?何か思い出した?俺で良ければ慰めるよ」
どこまでも噛み合わない会話と虚しい時間。「彼女」という存在に飢えているBさんと、「彼女に飢えている男」から逃げ出したい私。そんな時に限って高速道路は渋滞で、車はほとんど進まない。そんな中、
「あのさーやっぱりさっきの話の答え、今もらえないかな?」とBさんが切り出した。
「お付き合いするかどうかについてですか?」
「うん、このまま解散すると、俺夜中に変なメールとか送っちゃいそうなんだよねー」
「今回で答えを出さなきゃ駄目ですか?...その、例えば次回とか」
次回会うつもりは毛頭ないが、と心で呟きながら聞くと、彼は今までの婚活での経験を語り始めた。
「そうやって逃した子で、もう一回会うことになった子いないからさ」
私が逃げた最初の相手でないなら、自分の行いを見直してもよさそうな気がするが、Bさんがそうならない理由は察することができた。彼は続けて今まで付き合った彼女がどんな風に自分を裏切ったか、いかに自分が被害を被ったかをとうとうと語り続けた。彼は他罰的な考えの持ち主だったのだ。
「では、今回はお友達ということで」
車内という密室空間にいる今、はっきりと断ることはあまりにもリスクが高く、自然とオブラートに包んだ言い方になった。
「そっかー」
とBさん。しかししばらく経つと、
「ちなみに、俺と付き合えない理由って何なのかな?」
演技めいた声で追求が始まるのだ。
「俺と付き合わないで、本当に後悔しない?また俺くらいの男に出会える気でいる?」
この時点で私は、高速を降りてすぐ何かしら理由をつけて車から降りようと決意した。いや、もっと早くそうするべきだったし、そもそも最初から乗るべきではなかった。
一般道に降り、何となく土地勘のある街並みが広がり始めた頃、私は「ここらへんの方がたしかBさんの家も近いですよね?ここで結構です」と提案した。
Bさんは少し焦った表情になり、「あっ、ちょっと待ってよ。停まれるところ探すから」と脇道に車を入れた。
「あの、本当にここで結構ですから」私が語気を強くすると、彼は苦し紛れに頷いて、スーパーの駐車場に車を停めた。
「これ、さっき言われた2千円です。ではこれで」私が車のダッシュボードに千円札を2枚押し込み、ドアを開けると、Bさんは私を制止した。
「あとちょっとだけ話をさせてよ。ね?」
スーパーの駐車場だったので近くに人は大勢いたし、いざとなれば逃げられると踏んで、助手席のドアを少し開けたままで私は助手席に座り直した。Bさんを刺激するのが怖かったのだ。
素直に従ったと感じたのか、Bさんはまたニタニタと不穏な笑みを浮かべながら、不意に私の右手を撫で始めた。
「手、きれいなんだね」
「あ、はぁ...」
次の瞬間、Bさんは目を閉じ唇を突き出して私に顔を寄せてきた。強引にキスを迫ってきたのだ。
私は身を翻して車外に飛び出し、このままだとBさんが車で追ってくるのを想定して、「また今度」と手を振り家まで急いだ。
Bさんとのドライブはそこまで。翌日Bさんにはっきりとお断りの連絡を入れた。「とても気持ち悪かったです。お付き合いできません」
それについて彼からの返信は意外にも「わかりました。本当にすみませんでした。もう連絡はしません」という素直なものだった。
もちろんBさんにも「理想の人」と出会って幸せに暮らしたい願望はあったのだろうし、婚活サイトで積極的に異性に会っているのは努力している証拠なのだが、姿勢が明らかに行き当たりばったりで、関わる者をみんな傷つけるような態度だった。
「理想の人」はある日偶然に出会うことはあるかもしれないが、きちんと絆を結ぶには相応の下準備が必要なのである。Bさんはその責任を全て他者や世間や運に委ねていた。
今回の彼とのドライブで学んだことは、上手く行かないのには何かしらの原因があること。もちろん年齢や職業だけで相手を信用してしまう自分の短絡さにも大いに落胆し、反省した。----
以上が筆者の経験した、反面教師になった男性との出会いでした。人は、結婚をして幸せになるのではなく、幸せだから結婚をするのです。そして初対面の人の車に乗っちゃ駄目!絶対!!!
コロナ禍の中で婚活の形も多様化し、Zoomでのお見合いだけで結婚を決めたカップルもいるとの話を耳に挟み、現在進行形で婚活をしている方々の最新の婚活を知りたいなぁ...と少し思う次第です。
この記事を最後まで読んでくださったあなたに深い感謝を。またお付き合いいただければ幸いです。
能登ひなみ